電光石火
視線の先にいる魔物は、見た目だけを言えば大人の人間と肩を並べるくらいの背丈を持った悪魔。筋骨隆々な姿ではなく、細身で人間を騙して悪事でも働くような雰囲気のある姿だった。
体の色は黒だが尻尾があり、そこだけ真紅。特徴的な姿をしているためか、ユキトは一度注目を始めたらそこから視線で追い掛け始める。
「防御能力が高いことから、他の個体とは明らかに違う役割を持っているのは間違いないな」
ユキトはそう断じ、指揮官であるか否かに関わらず倒すことを決める。
「アユミ、援護できるか?」
「任せて」
応じた彼女の言葉を聞き、ユキトは足を前に出す。
「スイハ! ノブト! 二人は戦線の維持を! 俺は前に出てあの魔物を倒す!」
その言葉を受け、両者は動いた。攻める戦い方ではなく、後方を守りながら応戦する構えに。すると同時、魔物達もまた動いた。明らかにユキト達の反応を見て前進しようとする。
(この動き……悪魔を倒されるのがまずいと判断したか、あるいはこちらの動き方を見て魔物が反応したか)
まだどちらとも取れる動き――ユキトは群れの中に入り込む。本来ならば無茶な戦法だが、ユキトはいけると判断した。
途端、魔物が一斉にユキトへ狙いを定めた。周囲の魔物の牙や爪が襲い掛かってくるのだが――その全てをユキトは一閃して払いのける。
そればかりではなく、吹き飛ばすほどの勢いがあって魔物が一瞬ユキトの周囲からいなくなる。剣戟によって消滅した個体もいて、魔物は明らかにたじろいだ。
いける――そう確信したユキトは悪魔へ向かって突撃した。途端、悪魔は明らかに狙われていると察して後退しようとする。
だが――この勝負はユキトは一枚も二枚も上手だった。その突撃は悪魔が逃げることを前提とした動きだった。そのため、
「ふっ!」
小さな掛け声と共にユキトは進路を塞ぐ魔物を倒す。必要最低限の魔物を倒し、ひたすら突撃する。それは悪魔を逃がさないための動き。
これが功を奏してあっさりとユキトは悪魔に肉薄する。その瞳は真紅で、明らかに迫る人間を見定めており――その瞳に動揺の色が浮かんでいるのを察した直後、ユキトは悪魔の首を切った。
防御能力はあるが、いかに強固なものでも数々の魔物を屠ってきたユキトとディルの前には無意味だった。首はあっさりと両断され、一瞬の内に悪魔の魔力は霧散して消滅する。
これで魔物の動きはどうなるか――直後、周囲にいた魔物がユキトへ襲い掛かってくるが、スイハ達へ仕掛ける魔物の動きは変わっていない。
命令系統はまだ維持されている。そればかりか悪魔を倒してから指示をしている様子ではある。
(色々考える余地はあるが、まずは魔物の殲滅だな)
とはいえ――と、ユキトは迫る魔物を倒しながら周囲を見回す。その目的は先ほど倒した悪魔のような個体がいないかの確認。
(あれが指揮官でなくとも、他の魔物とは違う別の役割を持っていたのは間違いないはずだ)
そう思う根拠は、ユキトが迫った際に逃げ出したこと。他の魔物が襲い掛かってくるのにあの悪魔だけは動きが違っていた。
(指揮官であったのなら倒してそれで終わりだが……あの悪魔が別の役割を担っていたとしたら――)
ユキトがそこまで心の内で呟いた時、視界に別の悪魔が映った。先ほどと同様の色合いと体格を持った個体であり、
「ディル、あの悪魔は――」
『魔物達を操作している人間の目、かもしれないね』
ディルの言葉にユキトは小さく頷くと、
「なら、優先的に倒し相手の目を潰そう……みんな!」
そこでユキトは仲間達へ呼び掛ける。
「さっきの悪魔が他にいる! 俺は倒して回るからその間耐えてくれ!」
「了解!」
スイハの声が聞こえると同時にユキトは見つけた悪魔へ向け走り出した。すぐさま他の魔物達が応じるが、それを全て薙ぎ払いを決めることで消滅させていく。
純粋な能力が違いすぎるため、ユキトと魔物の戦闘は文字通り勝負になっていない。勢いを維持したままユキトは二体目の魔物へと肉薄する。悪魔は少しでも逃げようとするが――それよりも早く、ユキトは接近して首を切る。
まさしく電光石火の戦いぶりで二体目を撃破する。だが魔物の動きに変化はない。
(まだいるのか? それとも……)
ユキトは周囲に目を凝らす。悪魔は確認できない。
(あれが目であるなら、こちらの動向を観察するためには視線を向けてこないといけない。いつまでも死角にいては俺の動きは見れない以上、どこかで顔を出してくると思うが……)
ただ、ユキトは悠長に視線を向けてくるのを待つつもりはなかった。二体の悪魔を撃破したことで、その魔力を捉えることには成功している。
「ディル、気配はあるか?」
『さっきの悪魔について、だね?』
即座にディルが何事か動き、そして、
『まだいるね。残るは二体』
「わかった……それらを叩き潰してから、一度スイハ達の所へ戻ろう」
ユキトはすぐさま決め、再び走り出した。




