欠けた何か
メイと会話をした後、やがて仲間達が集まり――それと共に組織の職員もまた顔を出して、交流会は始まった。司会はメイ。ここでも彼女が前に出るのかと、ユキトは先ほど会話をしたはずなのに、心配となってくる。
けれど、彼女が前に出ることで空気が和やかになるのもまた事実。カイ達とスイハ達との間には多少なりとも壁が存在していたし、職員とユキト達との間にもそれなりに壁があったはず――なのだが、メイが笑いながら話を始めるとそうした空気が一変する。
ここはさすがアイドルだとユキトは自覚し、先ほど考えていたことを押し込める。ただ、
(記憶……思い出せないのはどういうことだ?)
その点について引っかかりを覚え、ユキトは内にいるディルへ問い掛ける。
「なあディル……メイの言ったことはわかるか?」
『あー……』
と、ややディルは言葉を濁した。
『正直、その辺りについてはわざと語らなかったんだよね』
「知っているのか?」
『うんまあ。私はほら、ユキトの内面とかも見れるし……その、この世界へ来てからメイに関して言及がないなー、とか思っていたから戦いの結果とか、あるいはこの世界へ帰ってきたことで忘れてしまったのかなと』
「……何が原因か、はっきりとしたことは言えないか」
『たぶんリュシールと融合したことによる反動だと思うよ。私は再召喚されてその技法を知ったし、その経緯はよく知らなかったけど……大きな戦いだったわけで、何かあるんだなと思っていたよ』
ユキトは沈黙する。その詳細を聞こうとしたのだが、ディルが先んじて発言した。
『メイが話したがらない以上、私が語る資格はないかなあ』
「……それもそうだな。本人が嫌がることをするのは俺としても不本意だ」
とはいえ、この話は放置することはできないとユキトは心の中で断じる。場合によってはリュシールなしとはいえ『神降ろし』の技法を使う必要に迫られるかもしれないのだ。それを踏まえれば、リスクなどについてはきちんと把握しておくべきだった。
「……カイと相談するか」
『ま、何かあったらすぐに言いなよ』
ディルもまたフォローを入れる。
『たぶんいち早く対処できるのは私だから』
「……そうだな」
ユキトが同意した時、メイの向上が終わって交流が始まった。職員と話をする仲間や、カイやメイと談笑する人物――色々な人が入り混じる中で、ユキトはメイに話し掛けられた。
「というわけで、私の役目は終わりかな」
「お疲れ、メイ……ここまで段取りするの、本当に大変だっただろう」
「ま、気分転換にはなったし」
「……アイドル活動の?」
「そうそう」
「華やかな世界だけど、色々と大変……いや、そういう世界だからこそ、か」
「活気がある業界だけど、たくさん人がいる以上は色々と……ね」
「メイも内に抱えていそうだな……その、大丈夫なのか?」
「私は今の立場に満足してるよ。それに、本気で嫌だったらとっくに逃げ出してる」
「そっか……」
ユキトが沈黙すると、メイは苦笑する。
「そんなに思い詰めなくてもいいのに」
「ごめん……なんというか、さっきの会話のこともあって課題は山積みだなと思って」
「……ユキトの方は大丈夫?」
「今から検証することになるけどまあ、突然倒れるようなことにはならないさ」
そこで、カイが近寄ってきた。するとメイはその場を離れ今度はカイがユキトの相手をする。
「楽しんでいるかい?」
「まあ、それなりに」
「元々ユキトはこういうイベントが好きじゃなかったか」
「あんまり記憶には残っていないな。そもそも、人付き合いが良い方でもなかったし」
そこまで言うとユキトは、周囲を見回した。
「それこそ、親友……と呼べる存在ができたのは、異世界へ召喚されてからだ」
「そうか……そう言ってもらえると嬉しいよ」
「カイが?」
「共に戦った仲間なんだ。当然だろう? 確かにあの記憶は凄惨な光景だってあるけれど、おそらく全員記憶が戻って良かったと思っているはずだ……それこそ、どれほど苛烈で、辛い記憶だったとしても、取り戻したいと考えたものだから」
「……そうか」
ユキトはその言葉に小さく頷きつつ、
「カイ、こんな場で言うのもあれだけど、早々に言っておいた方がいいと思ったから言わせて欲しい」
「どうしたんだい?」
――先ほどメイと会話したことで判明した事実を説明。邪竜との決戦における記憶が、ということでカイは腕組みをした。
「十中八九『神降ろし』が原因だろうね」
「だよな、やっぱり」
「ただまあ、天神と融合して力を……という技法が、何のリスクもなくというのは考えにくいし、あの戦いにおいては仕方のないことだった、と割り切るしかないな」
そう告げた後、カイは苦笑した。それに対しユキトは、
「どうした?」
「いや、その……実を言うと、メイにそのことについて相談されていたんだよね」
思わぬ発言に、ユキトは目を丸くした。




