鮮烈な記憶
来る、とこの場にいた誰もが考えた矢先、一番最初に動き出したのはカイ。魔法で剣を生み出した直後、形を成す魔物へ向け一閃する。
「ふっ!」
先制攻撃であり、カイの剣は確かに敵へと入った――のだが、刃は水の体を斬っただけで敵の動きは変わらなかった。
「核を壊さないと無理だな……!」
カイはそう呟くと一度距離を置く。その間にも魔物はさらに形を成し――公園に、巨大な水柱が生まれた。ユキトはその間にディルを呼び寄せ、剣を握っている。
「核が出てきていないな……」
ユキトはそこで、魔物の心臓である核が地上に出てきていないと悟る。
「俺達の戦闘で何か学習し、弱点については地下にいた方がいいという判断か……」
「なら、引きずり出さないといけないな」
カイはそう告げながら剣を構え直した。
「魔物はメイの歌に引き寄せられている。とすれば――」
魔物が動く。水流が渦を巻き、狙いを定めるように――メイへ向かって突き進み始めた。
即座にユキトが応じる。魔力を伴った斬撃は的確に水流を射抜き、勢いをなくすと同時に水が地面に落ちる。
「とりあえず、魔力を込めて斬れば分離はできるな」
「なら、まずは核が出てくるまで時間稼ぎかな」
カイは言うと同時に、仲間へ指示を出す。
「リュウヘイは戦えるかい?」
「魔法で盾を作ればいいのか?」
「可能かい?」
「ああ、なんとか」
応じると彼は右手に大盾――銀色の盾を出現させた。
「思った以上に使っていた霊具に似せることができるな」
「それでメイを守って欲しい」
「了解した」
「そしてシオリとアユミは――」
「私達も戦うよ」
カイの言葉を遮るようにアユミが発言する。それと共に彼女も魔力を発し――弓を出現させた。
リュウヘイも彼女も、記憶を戻したのは今日であるはずなのだが、それでも戦う気概を見せ魔力を使いこなしている。
(スイハ達とは違う……それこそ、死線をくぐり抜けてきたからか)
内に眠っている記憶が鮮烈であるが故に、リュウヘイ達はすんなりと魔法が使える――ユキトはそう結論づけながら、魔物を見据える。
噴水から湧き出るように大量の水が生まれ出ていた。それは不定形かつ物理法則的には本来あり得ない動きに加え、地面に水柱を形成している。
「……これだけの規模水を操る個体となったら、相当強いぞ」
カイはそう呟いた。ユキトも内心同意だった。
(まるで竜のように強い……いや、隠れることができるという特性から、こちらの方がよっぽど厄介か?)
ユキトは心の内で呟きながら、剣を構え直す。水はさらに噴水から這い出てくるが、肝心の核はまあ現れていない。
「とことん本体を隠すつもりだな」
「むしろこちらから引きずり出さないとまずそうだな」
ユキトの言葉にカイが言う。問題はその手法――
「カイ、何か案はあるのか?」
「ユキト、核の位置はわかるのかい?」
「……地上から数メートル先くらいに、明らかに高い魔力が存在している。たぶんそれが、本体じゃないかな」
「ならそれを破壊できればいいと」
「噴水から湧き出ているけど、そこから魔法を当てるのは難しいかな……」
「ふむ……」
カイは魔物を前にして考え込む。一方で敵は動かない。なおもメイは歌っているのだが、その前に障害となる存在がいることで警戒している様子だった。
とはいえ、この膠着状態がいつまでも続くはずがない――どうやって核を倒すのか。ユキトが考えていた時、
『ねえメイ』
ふいに剣から声がした。
『歌を使って魔物を倒すとかはできないの?』
するとメイは一度歌を中断する。
「……私の歌に反応している以上、それを使ってだね? でも私は基本、歌を攻撃に使ったことはないからなあ」
「そもそもメイがそんな攻撃をしたら俺達も巻き込まれるぞ」
『あ、そっか』
ディルは気付いたように声を上げる。その間にもゴボゴボと魔物がさらに膨れ上がっていく。
「……ユキト」
そしてカイは、名を呼んだ。
「魔物の能力についてはわからないけれど、地下にいる魔物を倒すには魔法しかないだろうな」
「つまり外へ引きずり出すのではなく、今の状態を維持して魔法で倒すと……雷撃系の魔法を使えば倒せるかな? 問題は――」
「どれだけの出力なら破壊できるのか……それならシオリ」
「え、私?」
「ユキトと連携して魔法を放つ……できるかい? ユキトの攻撃だけでなく、シオリの魔法が追加されたら、確実性が増す」
その言葉を聞いてシオリの顔に緊張が走る――が、
「や、やってみる」
「ユキト、どうだい?」
「そうだな……全力の魔法なら、確実に破壊できるとは思うけど下水道に影響が出てしまう。それを踏まえれば、俺の魔法とシオリの魔法……二段構えによる攻撃の方がよさそうだな」
「ならその手でいこう。シオリ、準備はどれだけ掛かる?」
「……自分の魔力だけで練るわけだし、魔物の体を通して核に当てる……難しい作業だし、数分は欲しいかな」
「ならその時間耐えよう」
カイが決断した直後――魔物がとうとう動き出した。




