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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第六章

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変なこだわり

 ユキトは地面の下を探った結果、明らかに魔力が揺らいでいる場所を捕捉した。


「たぶん俺達が遭遇した魔物だろうな……メイの歌に反応しているのは間違いない」

「ならもう一度歌えばいけそう?」


 メイの疑問に対しユキトは小さく頷きつつ、


「問題は、こちらへ来るかどうか……歌声が届いているのは間違いなさそうだけど、動いてはいないな」

「とすると、魔物がこちらへ来るようにしないといけない……」


 メイは考え始める。その間にカイがユキト達へ接近し、


「他にも問題はあるね。もし魔物が来るとして……どこからやってくるか」

「公園敷地内にある排水溝とかから出てくれれば、問題はないんだけどな」

「うん、どうやって誘い出すか……魔物には好みの波長とかが存在するんだけど、それをどうやってつかむか」

「……メイ、歌声によって魔力の波長とかは変えられるか?」

「うーん、さすがにそこまで考えたことないよ」

「ディル、魔力の波長というのは確認できるか?」


 と、尋ねた時、巫女服姿のディルが現れた。


「うん、できるよ」

「なら……ディル、メイが歌っている間に波長を確認。そしてメイはさっきとは違う歌い方とか、魔力の出し方をやってみてくれ」

「色々試すってことだね」

「ああ。ディル、メイの歌が変わっても波長が変わらない場合はすぐに伝えること」

「わかった」

「カイ、これでいいよな?」

「うん、問題ないと思うよ。あとは誘い出せる波長が見つかることを祈ろう」


 ――そしてメイは再び歌い出した。それと同時にユキトは魔物の動向を魔法を通して観察する。


 次にメイが歌った楽曲は、しっとりとしたバラード曲。先ほどが太陽の下ならば今度は月下が似合うだろうか。歌う速度も音程も、何もかもが異なる曲に対しディルはすかさず、


「うん、だいぶ違うね」

「魔力の波長は歌い方とか、あるいは声のトーンとかで違うのか」

「いや、少し違うかな」


 ユキトの言葉にディルは反応し解説する。


「メイが放つ魔力の質自体はほとんど一緒。でも、歌によって流れる魔力に違いがある」

「それは歌い方によって変わる?」

「というより、声って大気を震わせるでしょ? それに魔力が乗って流れるけど、音の波長によって流れ方が変わるってことじゃないかな」

「ああ、なるほど。それじゃあ単純に曲を変えればいいのか」


 ユキトはメイへ視線を移す。会話を聞いていたのか彼女は歌いながら小さく頷いた。

 そして、魔物の動向は――相変わらず反応はしているが動いている様子は皆無であった。


「メイ、この曲ではダメみたいだ」


 と、コメントすると一番のサビを歌い終わった後にメイは歌を止めた。


「最初のはポップで、次はバラードだけど駄目か」

「歌の強弱とか速さとか……そういうのを細かく変えて検証するしかないな」

「結構時間が掛かりそうだね」

「大丈夫そうか?」

「やれるだけやってみようか……でも、手持ちの歌でどうにもならなかったらどうしよう」

「往年の名曲とかで試してみればいいんじゃないか?」

「でもせっかくなら私が普段から歌っているので引き寄せたいな」


 変なところでこだわりを持ち始めるメイ。そんな態度にユキトを始めとした仲間は苦笑する。


「……あれか、アイドルとして魔物も自分の歌で引き寄せてみせる、みたいな心境か」

「うん、そうだね」

「魔物相手にそこまでやるとは……ま、いいや。ひとまずメイの持ち歌を試してみよう。さすがにフルコーラス歌わなくていい。一番を歌いきるくらいの時間で魔物の反応は見れるから」

「わかった。それじゃあ今度は――」


 メイは別の歌い始める。その瞬間、ユキトは意識を魔物へと向けた。






 そうしてメイは幾度となく楽曲を変え、ユキトは状況を逐一伝える――魔物の反応を見ながら手探りの作業であるため、長期戦になるかもしれないとユキトは考えたが、それは杞憂に終わった。

 最初から数えて五曲目――ロック系の楽曲を歌い始めた時、ユキトは魔物の反応が明らかに違うと察した。


「メイ、この曲が当たりみたいだ」


 魔物が動いている――明らかに近づいてきている。


「たぶんどこからか経由して外に出てくると思う……カイ!」

「わかった。ユキトは魔物を観察していてくれ。僕らが状況に応じて動く」


 メイの歌がさらに響く中、魔物の動きはなおも活発になっていく。それと共にユキトは魔物の動きがさらに活発になっていくのを認識する。


「これは……予想以上に来るのが早いぞ……!」

「ユキト、場所はわかるかい?」

「まだ距離があるけど……下水道の経路とかがわからないから、捕捉が――」


 そう言いかけた時だった。ユキトは何か水道管か何かを伝って地上へ来る魔物の動きを確かに捉える。そして、目を向けたのは――公園の片隅にある枯れた噴水だった。


「カイ、たぶん……あの噴水から――」


 言い終えぬ内だった。突如噴水から水が生じたかと思うと、それが一気に噴出して一つの形を成し始めた。


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