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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第六章

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歌声

 痕跡を発見した場所――公園に辿り着いた後、ユキト達はカイの指示によって動き出した。


 まず今回の作戦における要であるメイは、シオリやアユミと共に痕跡のあった付近に立つ。周囲を確認したところ、いくつか排水溝の存在を確認できたため、魔物はそこから出入りしていただろうと推測。よって、この場所で策を実行すると改めて決め、準備を始めた。


 それに対しユキトは人払いの準備をする。ディルを行使し魔法によって周辺から人がやってこないようにする。具体的に言えば、魔法の効果範囲内に入るとすぐさま回れ右するようになる――これは一種の暗示魔法だ。例えば公園を通ろうとしても、感覚的に別の道を選ぼうと思考が切り替わる。

 それに加えて遮音や、幻術系の魔法も使用する。前者はそもそもメイの歌を聴かれないようにするため。暗示魔法があるとしても、歌があれば何事かと人が集まってしまう。よって目立たないように公園の外には音が漏れないようにする。


 加えて幻術系の魔法によって、外からではユキト達すらいないように見えるようにした。これで隠蔽は完璧――だとユキトは思いつつ、


「カイ、念のため穴がないか調べてくれ。魔法の効果範囲は問題ないと思うけど……」

「ユキトの魔法は完璧だよ。そこは心配しなくても大丈夫。ただ」


 と、カイは周囲を見回しながら続ける。


「この世界の人々は魔力を抱えている人も多い……暗示魔法が通用しないケースも、ゼロではないかもしれないな」

「だとするなら……もっと強固なものにするか?」

「魔法の効果を引き上げたらそれはそれで影響が出てしまうからな……僕とリュウヘイで周囲を観察するよ。ユキト、もし魔物が出現した場合――」

「戦うのは俺だろ。ディルを持っている以上、当然だ」


 その言葉にカイは微笑を浮かべた後、


「なら、頼んだよ」

「ああ、任せろ」


 返事と共にユキトはメイ達へ首を向ける。三人は既に準備を整えたらしく、メイの左右に二人が並び立っており、今まさに始めようとしていた。


「……メイ、歌うにしろどういう曲にするんだ?」


 ふとユキトは気になって尋ねてみる。それに対しメイは笑いながら、


「色々考えていたんだけど……ま、これが一番かな」


 そう述べて彼女の口から放たれたのは――快活で、陽気な曲だった。


 ユキトの記憶では、ライブの定番曲という位置づけだったはず。メイがセンターに抜擢された、まさしく彼女がアイドルとして躍進した楽曲。直後、魔力が生じ、彼女の歌声を通して魔力が――大地へと、入り込んでいく。


 彼女の声量では、大地を揺らすほどの力はない。だが、放たれた魔力はいとも容易く溶け込み、染みこんでいく。きっとメイ自身がどう魔力を発すればいいのかを理解し、発声と共に魔力を放っているのだ。


 霊具があれば彼女の声はまさしく他者の心を揺さぶり、能力を強化する効果をもたらしていた。だが今の彼女にそんな力は――と思っていたが、どうやら歌声は魔法のような効果をもたらすらしい。ユキトは自分が彼女の声によって高揚しているのを自覚する。


「……単なる魔法じゃない、人々を鼓舞する魔法か」


 ユキトがそう呟くと共に、アユミとシオリの二人が魔力を発し、メイへと注ぎ込んだ。それと共に楽曲はサビを迎え――ユキトは一瞬、彼女のいる場所が青空の下で咲くひまわり畑であるように幻視した。

 いや、もしかしたらそれはメイの歌声によってもたらされた幻術なのかもしれない。伴奏もなく、彼女がひたすら歌い上げているだけの状況下なのに、そう思ってしまうほどの迫力があった。


 彼女の魔力が歌声を通して大地へ入り込んでいく。魔物が出入りしているはずの排水溝へも声に乗って魔力が入り込み、ユキトは彼女によって魔物が反応すると確信する。

 ここでユキトは首をカイへと向ける。するとそこに、予想以上の成果だったのか驚いた表情を浮かべるカイの姿があった。


「さすが、だね」


 そんな声と共にメイの歌は最高潮に達する。立っている場所は荒涼とした公園などではなく、まるでライブ会場のようにすら感じられる――そう考えてしまうほど、ユキト達はメイという存在に惹きつけられた。


『いやあ、生歌は最高だね』


 突然、ユキトの頭の中でディルの声が響く。


『魔力による影響か、バックサウンドがいらないくらいテンションが上がるね』

「……彼女の歌声は、霊具なしでも人を大きく震わせるものであるのは間違いなさそうだな」


 そうコメントした直後に彼女は歌い終わった。続けざまに彼女は二曲目へ入ろうとしたのだが――ここでユキトは、


「ちょっと待ってくれ、メイ。地面の下を探って反応を見てみるから」

「変化なしだったら二曲目?」

「そういうことになるな……インターバルということで休んでもらえたら」

「休憩なんていらないけどね」


 そんな返答にユキトは苦笑しつつ――索敵の魔法を行使した。


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