森の中の戦い
鹿や猪を模した魔物――それらが一斉に襲い掛かってくる。その時ユキトが感じたのは、あの魔物はどういう経緯で動物の姿を象ったのか。
(魔力を受けた動物が魔物になった……というわけではなさそうだ。肉体を持っていながら変化した場合は魔力にもその特性が表れる。それがないということは――)
思考する間に魔物が迫る。ユキトが足を前に出そうとした寸前、先んじて動いたのはスイハとノブトだった。まるで二人はユキトでは自分達が倒すと誇示するように――向かってくる鹿と猪へ向け、構えた。
「はっ!」
そしてノブトの槍が、猪へと放たれた。回転さえ加えた渾身の刺突は、猪の頭部を貫いた。敵はそれで一度ビクリと動きを止めて――消滅する。
(肉体はやはりなしか……)
ユキトは魔物の滅び方を見てそう察した時、今度はスイハが鹿の魔物と相対した。軽やかな動作で、跳ぶように迫るその姿は、一度狙われれば絶対に逃げられない――そんな雰囲気さえ感じ取った。
しかしスイハは冷静に対応。角を突き出して串刺しにするためか前傾姿勢となった鹿の魔物に対し、スイハは動きを見極めてまずはかわした。
鹿の魔物は即座に方向転換をしようとしたが、それよりも先にスイハの剣が頭部に決まった。それによって首から上が地面に落ちて――消滅する。
「魔物になっても、動物としての特性は維持しているな」
塵になるのを見ながらユキトは言及した。
「動物を参考にした、というより動物を取り込んだか……?」
「何か違うの?」
スイハが尋ねてくる。そこでユキトは、
「敵の手によって生み出された魔物というのは、動物としての特性がないため、例えば首を切られたりとか、心臓を貫かれたりしてもまだ動いているケースもある……魔力の核を破壊されなければ生き続けるんだが、その場所は自在に変えられる」
「敵が頭部などを選ぶ可能性は低いってこと?」
「仮に動物の急所と同じ場所に核を設置するにしても、相応の対策をしているはずだ。その部分だけ強固にするとか、あるいは頭部であったならまとう魔力の量を多くしたりする……でも、今の魔物にはそれがない。なおかつ、体は塵となった。魔力によって動物が魔物化するなら、肉体は残ったままだが、これは完全に魔力の塊だ。それに加え」
俺は鹿の魔物がいた場所へ目を向ける。
「鹿の動きについては、野生のそれが見せる姿とそんなに変わらないように見えた……もしかすると、動物の記憶を引き継いでいるのかもしれない」
「ということは、動物を……?」
「取り込んだか、死体から情報を得たのか……ただ、そうなると数について気になるな。数が多ければ周辺にいる動物の数が激減している可能性がある。そうでない場合は、魔物を何かしらの形で複製できる存在がいる」
「複製……!?」
声を上げたのはカノ。そんな彼女に対しユキトは、
「敵が何かをやった、というわけじゃないんだ。魔物の中には自分を守るために自らの魔力を使って配下を複製するケースがある……これはそういう事例の可能性もある」
「もしそうなら、その魔物を倒さない限り……?」
「魔物が出現し続けるかもしれないな。とはいえ、魔物の数を減らすことができれば敵だって引っ込み続けるのは難しくなる。まずは魔物の数を減らす……そして巣を発見する。これを優先としよう」
ユキトは指示を出しつつ前進を指示。そこでスイハ達が歩むと――さらに魔物が出現する。
しかも今度はさらに数が多かった。ユキトは巣を破壊しに来た不埒物――敵はそう認識して迎撃態勢に入ったのだと確信した。
「来るぞ!」
ユキトが声を発した直後、森の奥からさらなる魔物が押し寄せてくる。数は十体ほどであり、その姿も先ほど見た鹿や猪だけでなく、猿や猫のような小型のものまで様々だった。
そして小型の魔物を見据えた時、チアキは呆れたように声を発した。
「おいおい、猫までいるのか?」
「イタチとかタヌキだっていそうだな」
ノブトは槍を構えながらチアキに応じると、
「ユキト、どうする?」
「全てを一人で捌ききるのは難しいだろ? ここからは連携だ……タカオミ、カノ、頼む。チアキも状況によって援護と二人の護衛を」
その言葉の直後、ノブトが先陣を切る形で魔物と交戦を開始した。猿型の魔物が横手からノブトへ迫るが――槍は的確にその体に狙いを定め、刺突。これが直撃して消滅する。
ユキトはそれを見ながら猪へと向かう。坂を一気に駆け下ったため勢いがあり、弾き飛ばされそうな気配さえあるが――ユキトは真正面から受け、その突進を抑え込んだ。
途端、魔物は雄叫びを上げる。そして大地を踏みしめさらに突撃しようと試みるが、ユキトはすかさずその頭部へ一閃。滅することに成功した。
スイハの方は再び鹿型の魔物と交戦し、その跳ね回る動きに対しても動揺を見せることなく剣を振り抜いて撃破。だが、間髪入れずに後続からさらなる魔物が迫ってくる。
そこで動き出したのが、後方にいるタカオミ達。刹那、タカオミが魔法を発動。それは氷柱を放つ魔法であり――迫ろうとする魔物の頭部を、刺し貫いた。




