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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第六章

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基礎力

 状況としてはスイハは熊の魔物と一対一。ユキトはこれ以上魔物を生み出すことはなく戦いの見守る構えをとった。

 巨体に対しスイハは、真正面から挑む。振りかざされる腕をかわしながら肉薄し、持っている剣で熊の胸部を刺し貫いた。


 それによってとうとう熊の魔物は声と共に動きを止め――消滅。戦闘は終了した。


「十分だな」


 ユキトの言葉にスイハは「ありがとう」と礼を述べつつ、


「今ので良かったの?」

「竜ほどの能力でなければ、問題はないと思う……スイハとしては、竜と単独で戦えるくらいの能力が欲しいのかもしれないけど」

「この場にいる皆が思っていることじゃない?」


 その指摘にユキトは仲間を見回すと、全員が小さく頷いていた。


「……それには霊具が必要になるな。まあ、ここは少し待って欲しい。今霊具を持っていない状態でも強くなれれば、竜と戦えるだけの力を得ることも可能だ」


 そこまで言うと、ユキトは一度仲間を見回した。


「今は基礎力……つまり、自分だけの力で強くなる段階だ。俺達も異世界に召喚されて霊具を持って戦ったけど……霊具を持っていない状態でも色々訓練した。それが基礎力向上に繋がり、霊具を持った際にも影響が大きかった」

「霊具に頼りすぎるなってこと?」


 スイハの質問。それにユキトは首肯した。


「最後にモノを言うのは地力だからな……この世界において魔法は科学技術で対応できない分野であるため、なおさら個人の能力によって左右されてしまう。だから常日頃の鍛錬は必要だし、魔力を自在に操れる能力と、魔力量の底上げが必要になる」

「魔力が少ないとそもそも霊具だって扱えないからな」


 と、タカオミが発言した。


「それに魔力を多大に持っているとしても、使えなければ意味はない」

「その通り。自分の力すら完璧に制御できないのなら、場合によっては暴走し自分自身を傷つける可能性もあるし、地力がなければ土壇場で厳しい状況に立たされるケースも多くなる」

「実際、そういう出来事が?」

「それこそ、数え切れないほどあったさ」


 肩をすくめながら喋るユキトの言葉を、スイハ達は黙って聞き入る。


「刃物を使う際、正しいやり方じゃないと怪我をしてしまうのと同じだ。スイハ達は異世界で霊具を手にした経験があるし、それを体が覚えているのは間違いないから、自分自身の魔力だけで問題になるとは考えにくいけど、使っていたのは短期間だ。今一度、基礎を学んだ方がいい」

「それは同感」


 スイハが応じる。他の仲間達も頷くと、ユキトはさらに解説を進める。


「霊具を使用していた時の記憶を頼りに戦うのもまずいから、ここできちんと自分の力を把握した方がいい……それじゃあ、次はタカオミだな」

「うん」


 彼は頷きつつ前に出る。ユキトはタカオミと向かい合った瞬間、ディルを振り魔物を生み出す。

 それは、この世界でユキトが鍛錬していた際に生み出した魔法使いのような魔物。その姿形を見て、タカオミは理解したようだった。


「魔法勝負というわけだね?」

「正解だ。この世界で似たような特性を持つ敵が現れるのか? という疑問はあるだろうけど、邪竜が既に動いている以上はいてもおかしくはない。迷宮内にいた敵の中に人間の魔法を利用し攻撃するタイプもいたからな」

「そういう相手の方が大変かもしれないね」

「ああ。竜なんてでかい存在を生み出せる以上、次は派手な攻撃を行う魔法使い……そういった可能性も考えられるから、今のうちに対策を立てないといけないかもしれない」


 ユキトは少し後方へ退いた後、さらに魔物生み出す。魔法使いの両脇に、狼型の魔物が姿を現した。


「単純に魔法使いを相手するだけじゃない。スイハには様々な特性の魔物を生み出したが、今度はどうだ?」

「……それぞれの役割を考慮して、戦う相手を決めているわけか」


 タカオミが呟いた直後、戦闘が始まる。魔法使いが攻撃を仕掛けるより先に、狼二頭が先んじて前に出て突撃を開始した。

 それに対しタカオミは魔力で編み上げた杖を構える――霊具を所持していた際、彼は圧倒的な魔法を使えていた。それは天級霊具のおかげでもあったわけだが、自分自身の力でどこまで戦えるのか。


 まず一気に迫る狼に対し、タカオミは動きを見極め横へと跳んだ。狼の突進は空を切り、だがすぐさま体勢を立て直そうとする。

 魔法使いはそこで魔力を練り上げる。魔法発動まで数秒というレベルだが――それよりも先にタカオミが杖をかざした。


 次の瞬間、杖の先端から迸ったのは稲妻。それが雷撃としてまず狼の一頭へ放たれ、直撃した。威力は十分だったか魔物はあっさりと消滅し、これで残る敵は狼一頭と魔法使い。

 残る狼はなおタカオミへ迫ろうとする。それと共に今度こそ魔法使いが攻撃した。生み出したのは光弾。光の速さとまではいかずとも、一瞬でタカオミの下へ届くであろう魔法が――放たれた。


 ゴウン――と、一つ大きな音がした。光弾はタカオミに直撃するより前に、何か当たって砕け散る。それにより生み出された音が、訓練場に響く。

 ユキトが見れば、彼の周囲には結界が構築されていた。薄い緑色のそれは光弾を防ぎきったが、防御と引き換えにあっけなく砕け散る。


 とはいえ――ユキトは胸中で呟く。


(霊具を介せば詠唱や予備動作なしでも魔法は使えるけど、本来自らの力だけではそうした動作が必要なはず……)


 だがタカオミは明らかに詠唱や身振りもなく魔法を使えている。これは天級霊具を所持していた時の技術を利用しているのだとユキトは理解する。


(本気で魔法を使えば、もっと強力になりそうだな……)


 ユキトは魔法使いに指示を出す。途端、光弾を生み出した時よりも魔力を収束させ始めた。大きな魔法でタカオミへ仕掛ける――当然隙は生じるし、彼は動こうとしたが、狼が機先を制するように攻撃を開始する。

 それにタカオミは応戦。突進をかわし再び雷撃を生み出して狼を迎撃する――が、魔法使いの魔力収束が間に合った。それを魔法として編み上げ、放とうとする。


 タカオミはどうするのか――途端、応じるように魔力を溜める。それは魔法使いと真正面から応じるという意思の表れだった。


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