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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第一章

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名前

「では、私はどうする? 護衛依頼は断り、スイハ達の面倒を見ているのが無難か?」


 レーネの問い掛けに雪斗はしばし思案する。確かに翠芭達を見ることも重要ではある。だが、


「……いや、クラスのみんなはジークに任せよう」

「陛下に? ならば私達は――」

「もし緊急事態になった場合、勇者とはいえ騎士の指揮までは無理だろうから、俺の指示を受けてレーネが説得してくれるとやりやすいな」

「私は調整役ということか」

「ああ。以前召喚された時と同じような立ち回りだ」


 そう告げた瞬間、レーネは苦笑した。


「それで散々泣かされた」

「言っておくけど、俺のせいばかりじゃないよな?」

「だが一番の要因はユキトだったぞ」


 そこで雪斗も苦笑い。思い返せば――無茶も結構やったし、本当に色々あった。


「しかしそれは犠牲を少なくするため、という要因もある。私は全否定するつもりはない。仕事が増えたことについては恨んでいるが」

「……今回はあんまり迷惑掛けないよう頑張るよ」

「是非そうしてくれ。では私も帯同する」

「ああ」


 返事の後、レーネは翠芭達の下へ戻る。そして雪斗は小さく息をついた。


「大臣が何を考えているか……そう遠くないうちに、対決する時が来るのかもしれないな」


 グリーク自身、どう立ち回るつもりなのか――その辺りについて頭を悩ませながら、雪斗もまた翠芭達へ近づく。


「うん、魔力が多大であるため聖剣の制御は十分できている。しかし体が振り回されている感じであるため、それを是正することが重要だな」


 レーネが翠芭(すいは)へと説明する。そうした中で彼女は近づいてきた俺へと視線を注ぎ、


「あ、セガミ君……」

「申し訳ないけど、俺にアドバイスできることはない……霊具の使い方とか基礎的なことはレーネの方が詳しいし、聖剣そのものは使ったことがないからどう扱うのかはとにかく剣を振り続けるしかない」

「……でもそれを、白の勇者はやったんだよね?」

「正直、彼は色んな意味でとんでもなかったから、比較するのもどうかと思う」


 肩をすくめる――そう、まぶしいくらい才覚に恵まれた人物。それこそがカイだった。


「セガミ君は……私が、戦えると思う?」


 不安などの負の感情はなく、それは純粋な問い掛けのようだった。


「……聖剣を扱える時点で、規格外の強さを持っている。そこは心配しなくていいと思う」


 そこまで言って、聖剣を放つ魔力を感じ取り――雪斗はカイの言葉を思い出していた。


(僕のことは名前で呼んでくれればいいよ。共に戦う仲間である以上、よそよそしくする必要はない)


 今思えば、彼がそう主張したのは結束を強める意味合いがあったのだろう。彼が意図的にやっていたのかは不明だが、結果として名字ではなく名前で呼ぶことによって、確かに前回の戦いでクラスの結束力は増した。

 それにあやかる――というより、雪斗はもし自身が統率していくのならば、そうして結束を強めることは必要だと確信する。


「……俺のことは、雪斗でいいよ」

「え?」

「セガミユキト……浅瀬の瀬に上で瀬上。で、天気の雪に北斗七星の斗……前回、召喚された面々とは名前で呼ぶようになった。だからなんだか違和感もあるし」

「あ、うん」

「こっちは認めてくれるまで丁寧に呼ばせてもらうよ、八戸さん」

「――ならこっちは、貴臣(たかおみ)でいい」


 と、告げたのは陣馬貴臣だった。


「こうして顔を合わせて鍛錬なんてしているんだ。足手まとい極まりないけど、どうにか役に立つからさ」

「無理はしないでくれよ……それと、もし俺が護衛任務で騒動に巻き込まれても、絶対に訓練は継続し、できるだけ早く空に魔法を放てるようにしてくれ」

「わかった……よろしく、雪斗」

「ああ……八戸さんも、頑張って」

「あ、うん……えっと、私のことも翠芭でいいから」

「俺も名前でいいぜ」


 それに続いて信人(のぶと)もまた表明する。三人がどの程度雪斗の目論見に気付いているのかわからないが、人間関係的に進展したことは確かだ。


「……わかった。三人ともよろしく」


 そう告げ、三人は頷いた。






 以降の訓練はそれまでとは異なりどことなく和やかな空気で行われた。ただ雪斗としては剣を振るクラスメイトを見る度に過去が思い出されて複雑な気持ちとなる。


(感傷的になってるのかな、俺……)


 そんな心の呟きを発しながら雪斗は訓練風景を眺める。昼を過ぎたくらいの時刻で、現在はレーネと信人が向かい合っている。


「以前の交戦では半ば無理矢理力を引き出していたわけだが、そんな物に頼らなくともノブトは私に勝てるぞ」

「何でだ?」


 首を傾げる信人。そういえば彼だけはレーネ相手でもタメ口だなと思ったが、雪斗が見えていないところで口調に関するやりとりがあったのかもしれない。


「相性が最悪だからな……私の霊具は魔法攻撃に対し特化した物だ。反面、ノブトが持つ『天盟槍』は純粋に身体を強化し、大幅な防御能力の上昇がある」


 そこでレーネは嘆息。


「私の剣はそこまで身体強化はされない……よって、私の攻撃で『天盟槍』の強化を突破することは難しく、なおかつそちらの攻撃をさばくこともできない」

「相性……この場合、霊具そのものの力が違いすぎるってことか?」

「少し違うな。霊具にはそれぞれ主立った特徴があるわけだが、その特性的にどうしても相性が出てしまうという話だ……さて、だからといって訓練を始めたばかりのノブトの槍を食らうことはない。存分に突き込んできてくれ」


 彼女の言葉に信人は頷き、訓練が始まる。信人が槍の扱いをしっかりとするために全力で槍を放ち、レーネがそれをさばきながら指導していく。

 そんなやりとりを見た後、雪斗は翠芭に視線を移した。彼女は聖剣の制御訓練的なもので、聖剣を地面に突き立て、柄を握りながら瞑想するように目を閉じ立ち尽くす。


 一方、貴臣も翠芭と同じような状況だった。レーネが読んだ魔術師のレクチャーを受けて『空皇の杖』の制御を行う。なかなか筋はいいようで、雪斗の目からは指導に従い徐々に杖の扱いを習得していく姿が映る。


(俺が出立するまでの三日間でどうにかなりそうな勢いだな)


 前回召喚された面々も、誰一人として力を持たない者はいなかった。この世界に暮らす人々がどれほど鍛錬しても使いこなせない強力な霊具を、召喚された者達は自在に扱うことができた。


(もしかすると、三人以外に戦おうとする人間が出てくるかもしれないが……今回は、前回みたいに『魔紅玉』で生き返らせることはできない。全員が無事なまま、迷宮攻略を終えなければならない)


 果たしてそれができるのか――とはいえ雪斗自身そう悲観的になっていない。

 貴臣の鍛錬が実を結べば、状況が大きく改善される。それが間に合わなくとも、今の雪斗にはやりようがある。


(問題は、敵がどういった策を練ってくるか……そしてどのような相手なのか)


 雪斗は首謀者が何者なのかを想像する――名を口にしようとして部下が滅んだということは、下手に名前を出されたらまずいということか。


(俺が知っているわけではなく、例えば他国にいる重鎮とか? その可能性も高そうだが……もし、知り合いだとしたら――)


 国内にいる者なのか、それとも他国か――雪斗は色々と想像しながらも、一つ結論を出す。


(やることは変わらない……正面から敵を打ち砕き、クラスの皆で元の世界へ帰る……それだけだ)


 心に誓うように――そう胸の中で呟き、鍛錬の時間は過ぎていった。


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