霊脈調査
その後、イズミと連絡がとれるように番号などを交換した後、ユキト達は霊脈の調査をすべく行動を開始した。
「霊脈の位置は郊外だ。メイとはここでお別れだな」
カイはそう告げたのだが、一方でメイは意外な発言をした。
「え? 私もついていくよ? 迷惑じゃなければ」
「ん、来るのかい?」
「私だって一員だからね」
「……ということみたいだけど、ユキトはどう思う?」
「メイだって魔法を使えるし、良いと思うけど……仕事はいいのか?」
「あったらこんな提案はしていないよ」
「まあ、それもそうか……ならカイ、一緒に行ってもいいんじゃないか?」
「それじゃあメイも同行するということで……魔物を発見したら即座に倒すということで」
「その辺りは任せてくれ」
ユキトの言葉にカイは頷き、三人は郊外へ向け歩き始めた。
周囲は閑静な住宅街であり、魔力などが存在しているような様子もない。ユキトは少し探ってみるが、近くに霊脈があるのかと思うほど、魔力は少ない。
「……土地柄なのか、魔力は少ないな」
「僕らのいる町が多いという表現かもしれないね」
と、ユキトの呟きに対しカイはそう考察した。
「召喚という影響により、僕らの住む町は高濃度の魔力が存在している……ただ、ユキト。他の場所だって魔力が薄いというわけじゃない」
「……どういうことだ?」
「大気の魔力を意識すればわかるけど、僕らが召喚された異世界と質が違う。つまり――」
「大気中の魔力についても、捕捉の仕方があるってことか」
「僕らは霊具の能力によって異世界では大気中の魔力を感じ取ることができた……その手法は霊具に眠っていたもので、以前使っていた人の技術か、それとも天神が固有に力を持たせていたのかは不明だけれど、どちらにせよあの世界における魔力の捕捉手法だ」
「なるほど、やり方を変えないとダメなのか」
ユキトはカイから説明を聞いて、試行錯誤を始める。
(大気中の魔力……それをつかむやり方は習っていないけど――)
「……ん、できそうだな」
「さすがだね」
「ディルがいるからという要因もあるけどな……こういうやり方は一度戻ってきてから検証すべきだったのかもしれないが――」
「邪竜がいなければ必要性のない技術だ。放置していても仕方がないさ」
会話の間にユキトは大気中に満ちる魔力を完全に把握することができた。
「……確かに、しっかり捕捉できると魔力をしっかり感じれるな。これを邪竜に利用されれば厄介なことになりそうだ」
「逆に言えば、僕らもこれを利用できるわけだが……」
「どう扱うかが問題だな。大気中の魔力に干渉して何か起きないとも限らない」
「一番の問題はそこだね。とりあえず大規模魔法を行使してもそれほど影響はない……魔力が拡散するといった効果はなかったから、よほどのことがない限りは問題なさそうだけど――」
そこまで言ってカイは肩をすくめた。ユキトも何が言いたいのか理解し、
「そのよほどのことがない限り……という可能性をゼロにしたいわけだ」
「その通り。今回の件、邪竜側が動き出すよりも先に……そして、あらゆる可能性を潰して敵に何もさせずに解決する。それが理想的だ」
「けど、それをやるには情報もリソースも霊具も足りない」
「何もかも、だね。だから敵に注意しながらやれることを進めていくしかない」
やがてユキト達は目的の場所近くに到達する。住宅街に沿うように存在する雑木林。その奥は小高い山が存在するのだが、どうやらその地底に霊脈が存在しているようだった。
「まずは魔物の確認だな」
ユキトの言葉にカイは頷く。
「ああ、頼むよ」
「ディル、やるぞ」
『了解』
頭の中で声が響くと同時にユキトは魔力を探る。数え切れないほど繰り返した索敵行動――その結果、
「動物などがいる中で、明らかに魔力が多い個体がいるな」
「それは魔物で間違いないのかい?」
「不明だけど、怪しいのは確かだ……しかも複数いるな」
「それが魔物だとしたら」
と、メイがおもむろに口を開く。
「霊脈に干渉した影響、ってことでいいんだよね?」
「それで間違いないと思う。カイ、魔物が出現していたら他の場所にある霊脈についても調査は必要じゃないのか?」
「既に政府機関にお願いしているよ。ここは僕らがたまたま訪れる機会があったのと、一番魔物が出現する可能性が高いから直接赴いたんだ。もし他の場所に魔物がいたら報告が来るはずだ」
「その場合は対処しないといけないか」
「だろうけど、この場所が一番影響の濃い場所であるのは間違いない。霊脈の干渉によって魔物が複数体出現……そのくらいの影響なら、他の場所は問題ないと思う」
「だといいけどな……ただ、今後騒動が広がるにつれてここに魔物がさらに出現する危険性があるか」
「そこは転移魔法などを利用して対処するしかないね。理想的なのはここに戦力を常駐させておくことだけど、現状ではさすがに難しい」
「まったくだな……移動手段さえ確保すれば俺が動いて対応できるからいいけど、転移魔法によって霊脈に影響は出ないのか?」
「そうはならないよう工夫はするさ」
カイの言葉にユキトは頷いた後、
「なら、早速行動するけど……カイとメイはついてくるのか?」
「僕の方は確認しておかないといけないこともあるからね」
「もしかして、戦う気なのか?」
「うん。ユキトやスイハだけでなく、動ける人間は多い方がいい」
「私も」
と、メイもまた小さく手を上げた。
「私の霊具は支援系だったけど、攻撃手段がまったくなかったわけじゃないし、魔物くらいならどうにか援護できると思う」
「なら、二人の能力検証に今回の魔物を使うというわけか……わかった、なら入るとしよう」
ユキト達は雑木林へ足を踏み入れる。木々の間隔は比較的広いため、歩くのはそれほど問題ない。
「それほど遠くないな……俺は周囲を索敵するから、戦闘は二人に任せて良いか?」
「ああ、それでいいよ」
「私もそれで」
両者が同意し、さらに歩を進めた時――とうとう魔物の姿を視界に捉えた。とはいえ人里に下りる様子はなく、周囲をウロウロしているだけのようだが。
「霊脈のある場所周辺に留まっているみたいだな……でも、いつ何時山から離れるかわからない。ここで仕留めないと」
ユキトの呟きと同時にカイ達が前に出る。そして、戦闘態勢に入った。




