仲間のケア
鍛錬を開始してから次の週の休み――ユキトはカイから連絡を受けて朝早くに駅へ向かった。その目的はイズミの記憶を戻すこと。
「それじゃあ、行こうか」
「どういう段取りだ?」
駅前でカイと合流した段階で、ユキトが質問する。
「さすがに突然来訪してどうした? ってならないか?」
「その辺りはメイに頼んであるよ。仕事現場が近い場所で、久しぶりに会おうという感じを装う」
「……あの二人、仲良かったっけ?」
「メイは基本誰とでも仲が良いよ」
「ああうん、確かにそうだな……」
ユキトは二の句が継げない。言われてみればメイはそうだった。悪く言えば八方美人のような立ち回りだったが、実際のところ彼女は人が好きで、とにかく話していたいという性格だった。
だからこそ、離ればなれとなったクラスメイトと交流しても、さして違和感がない。
「俺達はどう動けば?」
「たまたま近くでイベントがあって、そこでメイと連絡をとったらという体で」
「かなり強引じゃないか?」
「最初は戸惑うだろうけど、ユキトが自然に視線を重ねれば良い状況を作ればいいんだろ? なら、導入は多少強引にしても、問題はないはずだ」
「……まあ、確かにそうか」
と、ここでユキトは別のことを思い出す。
「そういえばイズミは転校したけど……リュウヘイは?」
その名は、イズミの幼馴染みの名前だった。邪竜との戦いで会話をしたところによると、小さい頃からよく面倒を見ていたらしい。
同い年なのに面倒を、という表現になるのはイズミがなんだか危なっかしい性格であるためだ。霊具の研究をしている姿は様になっていてユキトも一種の敬意を抱くほど真摯に向かい合っていたが、日常生活についてはどこか危なっかしかった。それをフォローしていたのが、幼馴染みのリュウヘイというわけだ。
ちなみに、両者は身長差が相当ある。リュウヘイはバスケ部所属で、召喚されたクラスメイトの中でもっとも背が高く、反対にイズミはもっとも身長が低い。そのアンバランスな見た目で凸凹コンビなんて呼ばれ方をしていた。
「リュウヘイはまだ僕らの学校にいるよ」
「幼馴染みとしての関係は終わったってことか?」
「常に一緒にいるということはなくなったわけだね。ただ、連絡は取り合っているらしいよ」
「そうか……いずれリュウヘイの記憶も戻さないといけないか」
「イズミの次は彼だと僕は思っているよ……それに、彼の能力は大きな助けになる」
その言葉にユキトは小さく頷く。彼が所持していた霊具は、防御に優れた物。その特性から彼の能力も防御よりになっているのは間違いなく、今回の戦いにおいてかなり有用であるのは間違いない。
「そうだな。ちなみにカイ、リュウヘイの次は?」
「そこからはチャンスがあったら、という感じでいこうと思う。現在進級してクラスもバラバラだからね。僕としても調整が大変だから、少し時間が欲しい」
――ユキトはなんだか心苦しかったが、代わりに自分がやる言い出せないのが辛いところだった。
「……ツカサやメイの記憶を戻した際、他の仲間について記憶を戻すのは調査が必要だとカイは言っていたけど」
「僕の家に、とあの時は言っていたけど、状況は大きく変わったからね。政府組織の助けもあるし、訓練をした際などにちょっとこちらも調べていた」
「いつの間に……まあいいや。それで結果はどうだった?」
「イズミやリュウヘイについても問題はない……というのは、今回行動を起こすことでそうなんだと認識してもらえたらいい。残る仲間も同じで順次……だけど、無理矢理というのはやはり避けたい。記憶を戻す前に、魔法などを使って干渉するというのは、どういう危険性があるかわからないし」
「危険性、か」
「記憶が戻らなければ僕らは魔法を扱うどころか、魔力を制御できていないからね。その状態で魔法を受けたらどうなるのか皆目見当がつかない」
「そうだな……俺も同意するよ」
ユキトが同意した時、駅のホームへ辿り着く。
「イズミの家までは結構距離があるけど、日帰りできるかな?」
「この時間なら予定では昼前には辿り着く」
と、カイはユキトへ応じる。
「そこから事情説明など……まあ、帰ってこれるのは夜になるかもしれないね」
「遅くなりそうだったら、一度家に連絡とかした方がよさそうだな」
やがて電車が到着した。ユキト達はそれに乗り、ガタンガタンと揺れながら目的地へと向かう。
その途中で――カイが、おもむろに発言した。
「仲間は、全員手を貸してくれるだろうか?」
「相手が邪竜なら頷くと思う……そもそも、あの異世界を戦い続けた仲間だ。記憶が戻れば、その結束も蘇る……だとするなら、協力してくれると思うぞ」
「……結束、か」
「何か気になることが?」
その問い掛けにカイは首を左右に振った。
「いや、そこは否定しないよ。邪竜との戦いで、僕らは誰もが信頼し合い、背中を預け戦い続けた。記憶が戻れば、前と同じように……なるかどうかはわからないけど、今までとは違う態度にはなるだろうね」
「カイとしては、気に入らない?」
「そうじゃないよ……改めて、思ったんだ。あの戦いがもたらしたもの。僕らの意識を相当変えてしまったのだと」
「戦争だからな。それは当然の話だと思う」
その言葉と共に、ユキトとカイは沈黙する。
ユキトの脳裏に、邪竜との戦いのことが思い出される。死線をくぐり続けた戦い。圧倒的に劣勢な状況から、挽回したことも多々あった。魔法という技術を得て、様々なものを体験した。それは間違いなく、異世界を訪れたからこそ見聞きできたものだ。
「……もし、異世界の出来事を思い出して何か尾を引くようなことがあれば」
と、カイはユキトへ話す。
「それは僕の責任だ。記憶を戻せると判断し、失敗したら――可能な限りケアできる態勢も必要かな? そこは政府関係者から人材が欲しいな」
「そこまで考慮するのか……」
「むしろ、これから戦う可能性もある以上、最大限のバックアップは政府にしてもらわないといけないね」
「政府も大変だな……」
「そこは頑張ってもらわないと……今も色々と動いているらしいよ。ただ秘密組織みたいな形になっているから、結構四苦八苦しているようだけど」
「そこは仕方がない……しっかり予算がつくことを祈るしかなさそうだ」
ユキトの言葉に、カイは苦笑するほかなかった。




