現れたもの
カイと連絡を行った後、ユキトは全速力で駆けながら魔物を倒し続けた。自らが持っていた能力を発揮し、肉体すらも残さず魔物を倒し続ける。町中はカイ達の魔法によって静まり、被害に関しても皆無だった。
「これなら、どうにか……」
呟きながらユキトはなおも魔物を倒し続ける。その数はかなり多く、カイ達の策がなければどうなっていたか――想像するだけで、ユキトはゾッとした。
「本当に敵は、この世界に魔法を認識させる気でいるんだな……」
『でも今回は、どうにか隠し通せたね』
ディルの言葉。ユキトはそれに同意しつつも、
「だが、これで終わりじゃない……そもそも俺達は敵の全体像も把握し切れていないから――」
答えた矢先のことだった。ユキトはある一定の方角へ目を向け、立ち止まる。
「これは……」
『本命の敵みたいだね』
ディルも認識した。それでユキトは駆け出す。
程なくして到着したのは、魔法の効果範囲に存在していた小学校のグラウンド。土の地面を踏みしめユキトが真っ直ぐ見据えると、そこに巨大な魔物が――
「これは……竜か」
四本足を持つ、巨大な黒い竜。それがユキトの眼前に存在していた。
「ディル、魔物の気配は?」
『一通り倒したけど……いや、まだ生成されているみたい』
「現在進行形で魔物が生み出されているのか、それとも仕込みの結果か……わからないけど、これは放置すればまずいことになるな」
直後、竜が咆哮を上げた。それは天へと向けられたもので、まるでこの世界全てを憎むかのような――
「あまり時間は掛けられない。倒すぞ」
『うん』
ユキトは走る。そこで竜は気づき、大きく口を開けた。
刹那、竜の口から炎が生まれ、それが真っ直ぐユキトへ向け放たれた。その勢いは渦を巻くほどのものであり――
「ふっ!」
だがユキトはそれを横へ跳んでかわした。即座に竜は動きを追い、その周囲に魔力が満ちる。
「魔法か……!」
ユキトが直感した矢先、竜の周囲に魔法陣が形成される。それと共に放たれたのは、雷撃。数十本もの雷が、間合いを詰めようとしていたユキトへ向け降り注ぐ――
閃光と、落雷のような音がいくつも重なり、周囲の空気を震わせた。グラウンドの地面が抉れ、土煙が発生し、その中でユキトは――粉塵の中から出現し、竜の眼前へと迫る。
「悪いな、お前の攻撃は――通用しない!」
竜は無防備だった。魔法で仕留めたと勘違いしたか、それとも魔法を撃つことで隙を晒してしまったか。どちらにせよ、ユキトが攻撃を決めるだけの時間があった。
狙いを定めたのは竜の左前足。そこへ容赦なく斬撃が叩き込まれ、見事両断に成功する。
竜の悲鳴が、グラウンド内に響く。それと共に決死の反撃かさらなる魔法陣が空中に生まれる。
「このまま一気に……」
だが次の瞬間、ユキトは魔法陣を見据え、悟った。先ほどと魔力の流れが違う。一斉に集中砲火を浴びせた先ほどは、魔力が自分に向けられていることを察することができた。だが今は――
「くっ!」
ユキトは追撃を中断し、地面に剣を突き立てた。次の瞬間、雷が魔法陣から射出される。その狙いは、四方八方――無差別攻撃であった。
その被害は学校の建物や敷地の外に及んでいた――はずだが、魔法を放つ直前に結界が生じ、その全てを受けきることに成功する。
「威力は……結構あるけど、俺なら対応できるレベルだな」
魔法が途切れる。そのタイミングでユキトはさらに結界に魔力を注いでから、地面から剣を抜いた。
「結界を維持したまま攻撃するしかないか……」
『音とか大丈夫かな?』
「遮音の魔法とかは交戦する前に使っているよ」
『あれ? いつの間に?』
「これから活動していく上でその辺りは重要になるからと、密かに練習して即座に使えるようにしておいた」
答えながらユキトは竜を見据える。見れば左足は元通りに復元されている。
「再生能力もアリか……なおさら、ここで仕留めないとまずいな」
『ユキト、どうする?』
「切り札は使えない。けど、今の俺でも、目の前の竜相手なら――」
その時、ユキトは竜の姿を見て一つ悟った。邪竜――因縁の相手である邪竜に、その姿はどこか似ていた。
(他ならぬ邪竜が、自分の姿を象ったって可能性もあるのか……?)
疑問に思いながらユキトは再度仕掛ける。猛然と竜へ迫るその姿は、傍から見れば間違いなくこの攻防で終わらせようという気概に満ちていたはずだった。
竜もそれは直感したか、再び魔法を展開しようと動くが――今度はユキトが一枚上手だった。魔法陣が形成されようとしたその時、ユキトは左手をかざす。
直後、左手から光弾が放たれ、それが竜の頭部に直撃する。は決して威力のあるものではない。目的は別にあった。今までの挙動を見てユキトは、竜が魔法を放とうとする時に魔力を頭部に集めることがわかった。
ならばその動きを一時でも抑えることができれば――その目論見は成功し、魔法陣の展開が完全に停止する。
好機だとユキトは判断し、竜の頭部へ向け跳躍した。相手はそれに応じようと足を動かしたようだったが――ユキトが眼前へ迫る方が圧倒的に早かった。
そしてユキトの刃は、竜の首へ放たれ――見事、両断した。
竜が声を放つ。それは紛れもなく断末魔であり――ユキトと竜の頭部が地面に落ちた時、首をなくした竜はすっかり動きをなくし、ゆっくりとその胴体が横倒しになった。
『勝利だね』
「ああ……でも、まだ終わっていない。こいつを消滅させないと」
右腕に魔力が迸る。竜を斬る時と比べても、異例な魔力。それがユキトの周囲に充満し、剣を――振り抜いた。
刹那、剣先から放たれた魔力が、一瞬のうちに竜の体を分解し、跡形もなく消し去る。それで竜のいた痕跡は完全に、
「いや、消えていないか……」
グラウンドには戦った形跡がしっかりと残ってしまった。竜の重みによって抉れた地面や、焼け焦げた土。どうしたものかと考える間に、ユキトは別所から魔物の咆哮を聞いた。
「まだ戦いは続いているか……カイにここのことを報告して、魔物を倒そう」
『了解』
踵を返し、ユキトはグラウンドを出た。そしてすぐさま発見した魔物を、一刀の下に切り伏せた――




