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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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突然の誘い

 ――それからしばらくの間は、何事もない日が続いた。敵も潜伏しているだろうとカイは推測し、今のうちに敵を観測する準備を進めていく。

 加え、スイハ達も各々明確に方針を定めて動き出した。その中でスイハは特に活動的であり、ユキトと鍛錬する機会も多かった。


「はっ!」


 魔力により生み出した剣を用いてユキトへ仕掛ける。時刻は放課後、場所は国の組織が借り受けた鍛錬場。町中にある施設の一つであり、体育館ほどではないにしろ、それなりの広さがあってスポーツができそうな空間。そうした中で組織から支給されたトレーニングウェアを着て、ユキト達は模擬訓練を行っていた。

 どういった理由でこんな場所を借りたのか、そして元々どういう役割の建物だったのか、ユキトは少し気になったのだが、尋ねる相手が誰もいないため、捨て置くしかなかった。


 スイハの剣は鋭く、ユキトはそれを見極めながら防いだ。無論、今のユキトは全盛期とまではいかないにしろ、鍛錬を再開して強くなっている。故にスイハの剣が当たるようなことはないのだが、それでも一撃食らうかもしれない、と内心で考えさせられるくらいに彼女のパフォーマンスは高かった。


「そう言ってもらえると、嬉しいけど」


 ユキトが率直な感想を述べるとスイハはなんだか満足そうだった。

 他の人にも指導した方が良いのか、とユキトは疑問に思ったが、スイハは首を左右に振り、


「それぞれ考えていることがあるみたいだし、今はやらなくてもいいって。それぞれ満足のいく訓練をしたら、改めてって感じかな」

「……今の段階で訓練しても、あまり効果がないってことか」


 実力差がありすぎるため、修行をしても成果が期待できないと。その辺りの事情を他の仲間達は克明に理解している。


「たぶん、戦力となれるにはもうしばらく時間が掛かる……今のうちに、気にするなって言っておいた方がいいか?」

「そこは私がやっておくよ」

「いいのか?」

「ユキトは大変そうだしね」


 指摘にユキトは肩をすくめる。事実ではあるし、同時になんだか全部見透かされているような気がしてくる。

 その折、ユキトは一つ思い浮かんだことがあった。


「……なあ、スイハ」

「何?」

「スイハは気にするなって言うと思うけど、さすがにここまで積極的に戦う意思を見せているし、俺としてはお礼というか……何か、やれることはないかって思うんだけど」

「お礼……?」

「その表現も微妙だけど、俺としては何か……共に戦ってくれる以外に、やれることはないかなと。別にそんな大層な話じゃないけど、例えば飯奢るとかでも」


 軽いかな、などと考えた矢先スイハは「気にしなくてもいいのに」と告げる。


「なんだか気を遣わせているね」

「仲間のケアをするのは当然だろ? まあ、本来こういうのはメイとかも役目だったんだけど……」

「なら、そうだね……戦いのこと以外でも、積極的にユキトがみんなを話せるようになったらいいかなって」

「俺が?」

「あ、でも強制じゃないよ? ユキトが嫌だったらそれでいいけど」


 ――ふと、ユキトは改めてクラスメイト達との関係性を思い返す。


 異世界へ召喚され、霊具を手にした者達は記憶がそのままで、霊具を最後まで手にしなかった面々については、召喚された記憶を喪失している。その差異によって、突然目立たなかったユキトがスイハ達と話すようになって、どうしたのかと記憶を失ったクラスメイトが話していることを知っている。

 元々、ユキト自身は目立たない存在だったし、それは前の学校で異世界に召喚される前から同じだった。よって一人でいることが多かったし、何よりそれでも良いとさえ思っていた。


 だからスイハの目からすれば、一人でいる方が好きな人間なのかもしれない、と感じてもおかしくはない。


「……俺自身」


 ユキトは思考しながら言葉を紡ぐ。


「カイ達と一緒にいた時もそうだけど、召喚される前はクラスで埋没していたし、一人でいることも多かった……まあ、その境遇に不満はなかったよ。生まれてこの方、多数の友人ができたことなんてなかったからさ」


 肩をすくめながら話すユキトに対し、スイハは黙ったまま聞き続ける。


「そんな人生を送ってきたか、急に積極的に、と言われるのも難しいかな……だからといって、別に近寄ってくるなとか、戦い以外のことで話しかけるなとは言わないけど」

「それじゃあ、少しくらい積極的に関わってもいい?」

「別に構わないけど――」


 面白いことは言えないぞ、とユキトが言いかけた時、スイハは笑みを見せた。


「なら、そうだね……明日の土曜、ちょっと一緒に出かけない?」

「出かける?」

「そうそう。親睦を深めるという意味合いで」


 その言葉にユキトは内心で首を傾げたが――彼女なりの配慮なのだろうと認識し、


「ああ、べつに構わないけど……」

「なら――」


 スイハは集合場所や時間などを伝え、訓練場を去った。帰り際に手を振る様子の彼女を見て、なんだかはしゃいでいるようにも見えた。


「……なんだか」


 奇妙だな、と心の中で一つ呟いた後、


『……ユキトって、こういうのに割と疎いよね』


 と、ディルの声がした。


「疎いって、何だよ?」

『いや、その……スイハとしては、大変だろうからユキトにリフレッシュして欲しいな、とか考えているんだろうし、誘った理由としてはそれ以上のものはない、のかもしれないけどさ』

「ああ」

『でも、少なくともスイハの台詞を聞く限り、ユキトと二人でってことでしょ?』

「……そう、だな」


 言われてユキトも気付いた。それと共にディルが何を言いたいのか理解する。


『つまり、それってデートってことじゃないの?』


 はっきり言われて、ユキトは沈黙する。それと同時に、何でこんなことに気付かなかったのだろうか、などと自虐的に考えたりする。


『ま、スイハにそういう意図があるのかはわからないけどねー。私はおとなしく部屋にいるから、頑張ってきなよー』


 どこか呆れたような声でディルは告げる。その間に、ユキトは頭をかき、訓練場の中で戸惑うしかできなかった。

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