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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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殲滅と敵の目論見

 大型の狼を象っていた魔物と比べれば、新たな気配は小さい。精々猿などの類いだとユキトが判断した直後、走り出していた。


(小型の魔物だと、人間が近寄ってしまうかもしれない……)


 そう判断したユキトは、神速と呼べるほどの動きで雑木林を抜け、道路を駆けた。道中に人がいないことは魔力により確認済み。そもそも幻術を行使しているため、姿も見えない。もし誰かがすれ違ったとしても、突風か何かだと思うだけだ。

 直線距離にして数百メートルくらいの位置に、竹藪が存在していた。その中から明確に魔力を感じ取る。ユキトはためらいなく侵入し、すぐさま目当ての魔物を発見した。


 そして相手が反応するよりも先に、剣を振る。今度は電光石火の攻撃。魔物はユキトのことを察知しただけで、何もできず消滅する。


「……これは」


 そして、ユキトは竹藪の中の惨状を目の当たりにした。猿型の魔物――ではなく、本物の猿が数匹倒れていた。

 しかもその体は漆黒の何かによって蝕まれ、ピクリとも動かない。それを見てユキトは、


「まさか、動物を媒介にして……? いや、狼型の魔物はさすがに狼なんてものが住宅街にいるとは考えにくいが……野良犬をベースにすれば可能か?」


 ユキトは呟く間に、気配を探る。もし動物を利用しているのであれば、しかも生成速度が早いのであれば、とんでもないことになる可能性がある。


「単なる実験というわけでもないな。意図的に、俺達を誘い出している……か? いや、さすがに俺が来ればどうなるか予想できないはずがない。ということは……」


 ユキトは呟きながら新たな気配を察知。瞬足でそちらへ駆けると、再び魔物を倒す。


(俺自身は目に見えないから問題ないけど、この調子で魔物を生成され続ければ……)


 いかにユキトとて、限界がある。生成している人間を捕まえるか、魔物が生まれるプロセスを封じるか、やらなければならない。


「ディル、周囲に気配はあるか?」

『ないね。少なくとも魔力を行使している人の姿はない』

「索敵範囲にいない、あるいは現在はどこかに隠れて様子を窺っている……魔法が仕込みという可能性もあるな。それを判別するには――」


 ユキトはさらに魔物を倒し、元来た道を引き返す。そこは猿型の魔物がいた竹藪。漆黒の体はまだ消え失せることはなく――手を伸ばす。

 触れた瞬間、まるで炭でも触っているかのようにボロボロになった。ただそれは物理的なものではない。紛れもなく、魔力。


「魔力そのものが固まっている……十中八九、ここで何かやったな」


 ユキトはそう呟くと周囲の地面に目を向ける。少し意識を集中させると、見つけた。


「これか……」


 ユキトは剣を一閃する。それによって猿の形をした魔力は全て塵と化し、さらに地面が抉れ光が漏れた。


「地中に魔法陣を形成している」

『これによって魔物を生み出している?』

「そうみたいだ。できれば魔法陣の術式についても調べたいところだが……」


 ユキトは呟いた後、剣を地面に突き刺す。


「この場所を保護する」


 言うと同時、魔力により結界が生まれる。といっても物理的に侵入されないようにする、といったタイプではない。魔法陣の魔力を隔離するための結界――その効果により、地面から感じられた魔力がなくなった。


「カイと連絡をとって、魔法陣を調査してもらおう。俺達は邪竜との戦いで、敵方の魔法や術式は腐るほど見てきた。もしそれと適合していたなら――」

『今回の事件、首謀者は邪竜が関連していると』

「そういうことだ」


 ユキトはさらに走る。最初に狼の魔物と遭遇した場所を調べ、同じ魔法陣を発見する。


「おそらく、これを使い自動的に魔物を生成していた……とはいえ、だ。魔物を生み出すほどの魔力量は結構必要だろうから、おそらく魔力を魔法陣の中に溜め込んで、一定以上溜まったら魔物が生成されるようになっているはずだ」

『理屈はわかった……それだけ聞くと実験にも聞こえるけど』

「実験、じゃないだろうな。それだったらもっと森の奥とか、人のいない場所でやるはずだ。こんな住宅地の真ん中でやろうってことは……」


 ユキトは胸中で推測しながら走る。そして次々と魔法陣を見つけ、魔物を倒していく。

 今のところ人影はない。被害が出ていないのは幸いだが――ここでユキトは一つ気になった。


(報告を受けてから、ここへ駆けつけたわけだが……魔法陣のプロセスを考えると、もっと魔物が生成されていてもおかしくない。最近仕込んだということか? でも、そうであれば見つからない場所で魔物を生み出せば――)


 そこで、ユキトは立ち止まる。次いで周囲を見回した。

 住宅地は、元々山を切り開き生まれている。よって、坂道が結構あり、上へ行けばまだ手つかずの林が広がっている。


「……どういう目論見であれ、これで終わりなわけはないな」

『ユキト?』

「最悪の事態を想定した場合、住宅地の上……今見えている山の上から魔物を下りてくる」


 その言葉にディルは沈黙する。


「敵が俺を誘い出すのか、それとも他に……まだ意図は見えないが、魔法陣をいくつも仕込んだという事実がある以上、山の上にはもっと仕込みがあるはずだ」

『どうするの?』

「手数が足りない……住宅地を駆け回って魔法陣がないか確認するのと、山の上を調べること……最低二人いるな。しかも、俺のように魔力強化で立ち回れる人間が――」


 その時だった。どこからかサイレンの音が聞こえてくる。まさか、何かあったか――とユキトが考えた直後、スマホに着信があった。

 マナーモードであるため音が漏れることはなく、ユキトは電話に出た。相手は、カイだ。


「どうした?」

『そちらに応援を寄越してもらった。サイレンの音が聞こえるかい? それは味方だ』

「味方って……」

『状況はわからないが、たぶん人手が必要だと考えた。ユキトとしては不本意かもしれないけど、今は組織として動ける人員を派遣するのが最適だと判断した』


 それは――ユキトが考える間にパトカーがユキトのいる近くの道路に止まった。どうやら派遣された人物は、ユキトの気配を辿れるらしい。


『連絡をしたら、すぐに手を貸してくれると……ユキトの助けになるはずだ』


 そうカイが言った直後、相手の姿が見え――その人物は、スイハだった。


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