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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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敵の狙い

 春伏の報告を聞いた後、ユキトは腕を組みカイへ言う。


「これ……実験がどうとか言うレベルじゃないな?」

「そうだね。明らかに人に見つかるように魔物を置いている」


 カイは断言し、一方で春伏は目を見開く。


「見つかるように……ですか」

「僕らがいる以上、相手としても見つかりたくはない……そう思っていたけれど、どうやら向こうは何かを仕掛けている」

「仕掛け……何が目的で?」

「そこはまだわからない。ただ、確実に人の目に触れるようにしているのは確かだ……春伏さん、確認ですがその雑木林というのは、郊外というわけではありませんね?」

「所有者のいる、住宅地近くです。最初に魔物が発見された場所のように、山に入ったというわけではありません」

「であれば、十中八九意図的に配置したのでしょう」

「魔物という存在を、世に広めようとしているのか?」


 ユキトが告げると、カイは「そうかもしれない」と答える。


「それをやってどうするのかについては不明だけど……未知の存在であると多くの人に見られれば、隠すことも難しい。大なり小なり、混乱は起きるだろうね」

「合成映像とかで誤魔化せればいいんでしょうけれど……」


 春伏が言うと、カイは頷き、


「情報面でどのように対処するかは後で決めましょう……ユキト、まずは魔物を倒すべきだね」

「ああ……丁度顔を見られないようにする装備とか考案したし、俺が出ていいんじゃないか」

「そんな物を作ったのかい?」

「念のため、だな。幻術で十分だと思うけど、万が一を考慮して」

「なるほど……確かに、絶対に顔を見られてはいけないし、良い方法かもしれない」


 カイは頷くと、ユキトへ指示を下した。


「こういう形は不本意だけど……組織と手を結んだ最初の仕事だ。ユキト、頼む」

「任せてくれ」


 ユキトはそう答え、会議室を後にした――






 魔物が現れたという現場は、春伏の言う通り住宅街に存在する雑木林。伸び放題で入れる良いがないというレベルではないが、それでも足を踏み入れるのが少し躊躇われるくらいの暗さではあった。

 けれどユキトは迷いなく踏み込んだ。それと共に、気配を感じ取る。これは明らかに、魔物の気配だ。


「さて、それじゃあ武装するか」


 ユキトは呟き魔力を高める――ここまで来る間に、既に幻術魔法は展開しており、ユキトの姿は誰にも見られていない。その状態で武装し、万が一幻術魔法が解けても顔がばれないようになっている。

 そしてユキトが身にまとったのは、黒衣。以前、装備していた物に近しいが、それに加えて顔はフルフェイスのように覆う。端から見れば、悪の総帥――


『なんだか、悪者の偉い人みたい』

「ほっとけ」


 ユキトと同じ感想を抱いたディルに返事しつつ、ユキトは雑木林の中を歩んでいく。程なくして、すぐに見つかった。魔物――報告通り、狼の姿を象っているが、その図体は大きい。


「慎重に戦わないといけないな……」

『ん、ユキトなら一撃でしょ?』

「これは単に倒せばいいって話じゃない。こちらが攻撃して周囲に被害が出てしまうという危険性もそうだが、何より問題なのは逃げて他の人に魔物が見られてしまうことだ」


 ユキトは周囲に目を向ける。魔力を探り、他に何かいないか確かめる。


(魔物の生成者はいないか……さすがにどこかに潜伏しているとは思えないし、俺の気配察知能力なら、捕捉はできるはず――)


 そこでユキトはかぶりを振った。自分の能力は絶対ではない。この世界において、無類の強さを得ているのは事実だが、だからといって全てが思い通りにはならない。


(力を得た人間を取り逃がしている以上、最大限の警戒と、一切の気の緩みも許されない……ここは確実に仕留める)


 他に魔物がいないことを確認し、ユキトはゆっくりと魔物へ近寄っていく。敵は魔力を察知しユキトへ警戒を向けているが、動かない。

 仕留めるには距離がある。とはいえ数秒で間合いを詰め刃を振り下ろすことはできる。けれどその場合、魔力が周囲に拡散するため場合によっては雑木林にダメージがいくこと。加え、絶対に倒せるという保証もないため、ユキトは魔物が反応するよりも早く刃を当てられる距離までにじり寄る。


 その間、魔物はなおも動かない。もし何か命令を受けて動いているなら、ユキトと遭遇直後に何かしていてもおかしくないが、それもない。これならば――


「……ふっ!」


 いけると感じた瞬間、ユキトは地を蹴った。必要最小限の魔力を足に付与し、魔物を倒せるだけの力を両腕に込める。

 刹那、魔物が反応した。だが回避に転じるより先にユキトが眼前に到達し、剣を振り下ろす。


 そこからは一瞬の出来事。魔物は為す術もなく斬撃を受け、あっさりと消滅する。直後、周囲には風が吹いたことによる葉擦れの音だけが残った。


「……これで、倒せたはずだが」


 ユキトは油断なく周囲を見回す。目標としていた魔物を倒し、これで終わり――と言うべき段階だが、その表情は緩んでいなかった。


(敵が単に魔物を作成しただけではない……十中八九何か狙いがある)


 それがユキトをはめる罠であった場合は――ただ、さすがに攻撃してくる可能性は低いと考えている。そもそも根本的なスペックが違いすぎる。ユキトは周囲に魔力が拡散し余計な被害が出ないよう抑えているだけで、やろうと思えば敵の攻撃は容易き防げるし、反撃で倒せる。魔物が百体いようとも、全力を出せば瞬殺できる。再召還された時、圧倒的な力で魔物をねじ伏せた力は、紛れもなく健在だった。


(もし、俺が何かやるとしたら……敵が、俺やカイを出し抜くか、あるいは倒そうとするのであれば……)


 ユキトは雑木林の中で音を発することなく佇み、同時に周囲の気配を探る。その範囲は雑木林の中だけでなく、周辺の住宅街にまで及んでいた。


(俺を罠にはめるとか、俺の存在を暴くとか、そういう意味合いではない……敵にとってそれが利であるにしても、俺が多少の攻撃でビクともしないとわかっているはず。だから、狙いは……)


 魔物の存在を認知させることだとしたら――その時、ユキトは気付いた。雑木林の外、別にある住宅地内の竹藪。そこに、魔物の気配があることを。


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