急報
施設で仲間達が顔を合わせてから、週が明けてユキトはカイから連絡を受けた。イズミと顔を合わせる算段がついたとのことだった。
(手際がいいな……)
ユキトはそう思いつつ、カイと共にイズミの元へ行く予定を立てた。
最初、ユキトだけでもいいのでは――などと思ったが、カイが個人的な用件でイズミに会いたいという面もあるらしい。
(たぶん組織云々と関係があるんだろうけど)
ユキトは推測しつつも、尋ねるようなことはしなかった。それはひとえに、カイのことを信頼しているため、任せて良いと判断したためだ。
「思った以上に、組織の形ができあがりつつあるな」
ユキトは下校中、そんなことを呟いた――授業が終わり、ユキトはすぐさま学校を出て歩いている状況。
そうした呟きに対し、応じたのはディル。
『組織の形……?』
「カイが中心に活動しているのは当然だけど、メイも協力的だし、何よりスイハ達も……」
ユキトは今日の出来事を思い返す。自分たちの力量を把握して、スイハ達は精力的に鍛錬を行っていた。予想以上に積極性があったためユキトが問い掛けると、スイハが代表して答えた。
「異世界で霊具を手にして、戦った……そして何より、ユキトが懸命に戦っているのを見て、手伝いたいと思った」
理由はそれで十分――暗にそう語っていた。そしてユキトも、仲間達が覚悟を決めているのだと認識し、何も言わなかった。
「スイハ達は、俺やカイの指示にちゃんと従ってくれるだろうし……この時点で、統制の取れた動きができる」
『いいことだけどね……スイハ達は、なんだか思い詰めているような気もする』
「その辺りは、ケアしていく必要があるだろうな……負担になるけど、メイなんかがその担当かな」
――最初に召喚された際、仲間が倒れる中で霊具を握り戦い続けた以上、メンタルケアというのも必要不可欠だった。霊具によって精神は安定していたが、それでも人の死を見れば心は揺らぐ。よって、相談役が必要だった。
その中でメイは率先して仲間のケアに務めていた。元々後方支援系の霊具を所持し、怪我の治療なども行っていたため、その関連で相談も聞いていた。仲間や、異世界の人々が倒れる中でも、挫けず絶望せず、邪竜を討伐できたのは彼女の功績も大きい。
一方でスイハ達の場合は――霊具を持たないクラスメイトには細心の注意を払っていた。少しでも様子がおかしければ、国の人と連携して対処する――そういう方針であったわけだが、霊具を手にした面々についてはケアをほとんどしていなかった。というより、そうしたことをするより先に、大きく情勢が動いていたという方が正しい。
「組織として動くなら、後方支援役だって必要だろうし……」
『スイハを始めとして、最召喚された時の面々、みーんな攻撃系の霊具だしね』
「そうだな……まあこの辺りはカイと今後相談することにして……」
ユキトはそこまで答えた時、あることに気づく。
「攻撃系であっても、役割は考えた方がいいな」
『そうだね……でも、元々持っていた霊具に引っ張られているわけでしょ? 具体的にどうするの?』
「スイハやノブトについては当然ながら前衛だけど、カノとチアキは……基本的には後衛で、援護してもらうって形がベストだろうな」
『霊具の性質を考えると、味方を巻き込みそうだけど』
「両方とも無差別かつ、高火力がウリの霊具だったからな……ま、霊具そのものは所持していないし、火力を調整すれば立ち回りも上手くやれるだろ……と」
ユキトはそこでスマホが震えていることに気づく。
「通話だな……カイ?」
電話に出ると、開口一番硬質な声が聞こえた。
『ユキト、時間はあるかい?』
「ああ、問題ないけど……どうしたんだ?」
『正直、僕だけでは判断が難しい……すぐに今から言う場所まで来てくれないか』
かなり深刻な内容らしく、ユキトは「わかった」と応じ、メモをとる。
「ちなみにだが、何があったんだ?」
『組織の人から連絡があった。その出来事が起こったのは昨日だ……少々信じられない話しなんだが』
そう前置きをして、カイはユキトへ告げた。
『魔物が――現れたらしい』
ユキトが訪れたのは、繁華街の一角にあるオフィスビル。そこに組織の事務所があるらしく、訪れたのだが、
「……ずいぶん、ごちゃごちゃしているな」
段ボールがずいぶんと積まれた部屋を見て、ユキトは感想を述べた。すると、
「引っ越してきたばかりらしいからね」
既に待っていたカイが述べる。それにユキトは眉をひそめ、
「引っ越した?」
「僕らがいる近くに事務所を構えたかったらしい」
「なるほど……ちなみに、どういう名前で看板を作るんだ?」
「適当な公共サービスの名前らしいよ。さすがに組織の名称通りに、というのは荒唐無稽だからね」
それはそうか、とユキトは内心で納得していると、春伏がやってきた。
「申し訳ありません、こんな場所で……それも平日に」
「内容が内容だけに、僕らとしても懸念がありますから」
カイの言葉に春伏は一度頭を下げた。
「会議室へご案内します」
そうして別室へ移動。OAフロアの典型的なカーペットが敷かれた、長テーブルのある部屋なのだが、壁も机も材質がいいのか安物感はまったくない。
まずユキトとカイが着席し、対面する形で春伏が座ると、彼は語り始めた。
「事のあらましから説明します。観測したのは昨日です。この町から北、雑木林に魔物の目撃例が警察に報告されました。最初、通報者は熊か何かかと思ったそうですが、その形や大きさが異様であったため、怖くなって逃げ出したそうで、黒い体躯という以外に情報はありません」
「写真などは?」
カイが問うと春伏は首を左右に振る。
「情報がないに等しかったのですが、警察に連絡が来た時点で担当者が怪しんだ。実は魔物が出現したということで、この町を管轄している警察職員の中に、ある程度事情を説明している人間がいたのです。その一人が応対したことで、私どもに連絡がきた」
「それで追加調査をしたと?」
「はい。警察官と共に、実際に確認するという意味合いを込めて……結果、漆黒の体を持つ、巨大な狼……そういった魔物を発見しました」




