それぞれの指導
結果から言えば、スイハ達との訓練は死屍累々といった様子だった。
「まあこれは仕方がないけどな……」
「一応、霊具を持った身ではあるけど……さすがに、期間が短かったからかな」
膝立ちとなり、息をつくノブト。ちなみに最初スイハだけを相手にしていたユキトだが、やがて「一度に」と言って、目の前の結果がある。
「霊具の習熟度合いとか、そういうので根本的な実力に差が出ているのかもしれないね」
カイは考察しつつ、スイハへと視線を向ける。
「とはいえ、聖剣の力はやはり偉大というか……僕の記憶を得ていた要因かな?」
――彼女だけは、唯一ユキトの動きにある程度ついていけた。
ユキトが魔力の動かし方を解説し、スイハを含め全員擬似的に武具を生み出すところまではできた。けれど、そこからユキトの剣閃に少しでも応じられたのはスイハだけ。
タカオミについては杖であるため仕方のない面もある。ツカサの方が例外と見るべきだった。
「各人の動きを考察していこうか」
ユキトは訓練を振り返りつつ、告げる。
「まずスイハについては問題ない……ともすればツカサよりも動けている。ここは剣を握っていた関係もあるだろうけど、接近戦においては相当な技量だ。カイの記憶を得たからという要因が大きいだろうけど」
「僕の目から見ても」
と、カイは腕を組みながら話す。
「この面子の中で、ユキトと僕に次ぐ力を持っているのは間違いない」
「そもそも、聖剣使いとして召喚された以上、元々この世界の人の中でもとりわけ魔力が高い……さらにカイの記憶も得ているんだ。強いのは当然と言えるな」
ユキトが解説する間に、スイハは緊張した面持ちとなる。明確な戦力となれば、当然何かしら仕事も――
「とはいえ、だ」
そうした心情を察してから、ユキトはさらに口を開く。
「現状、何かやってもらう予定はない……ただ、何かあれば即座に動けるような形にはしておきたいところだけど……確認だが、スイハ」
「うん」
「戦力になるという言葉を聞いて、どうする?」
「私も、戦うよ」
明瞭な声音だった。それでユキトは頷き、カイを見る。
「それで、いいんだな?」
「ああ。もちろん、もちろん無茶はさせないし、どうするかは今後検討しよう」
「わかった」
「俺達はどうするんだ?」
と、ノブトが立ち上がりながらユキトへ問い掛ける。
「スイハを含め、俺達は戦うつもりでここに来た……実はユキトには黙って話し合いをしたんだよ。ここへ来る以上は、戦う意思を示そうって」
「……そう、か」
「でも、訓練の結果から考えたら、参戦しない方が無難か?」
「僕はそう思わない」
カイがユキトが答えるよりも早く口を開いた。
「というより、訓練次第でどうとでもなるさ」
「そう、か?」
「霊具を持ったということで、下地ができている……ユキト、これから少しばかり指導をしてあげてくれ」
「わかった……やる気なら、俺もとやかく言うつもりはないし、協力は純粋にありがたいと思う……それぞれ打ち合ってみた感想を言ってもいいか?」
ノブト達が一斉に頷いたため、ユキトは改めて口を開く。
「まずノブトについてだけど、槍ということもあってやや扱いに戸惑っている様子だった。そこさえクリアしてしてしまえば、即戦力になれると思う」
「それだけで、か? 正直、まだまだのレベルだと思ったんだが……」
「確認だが、霊具を手にしていた時の感覚は残っているか?」
「まあ、ある程度は」
「霊具を使用した回数は、カイやメイと比べれば当然少ないけど、それでも一度使用した以上、それは体のどこかで染みついている……つまり、一度使えば不可逆的な変化があるってことだ。で、俺の言ったことの真意だけど、魔力制御についてはある程度きちんとできている。けれど槍を操る動きが悪いため、上手くかみ合っていない」
「つまり、魔力と実際の動きを合わせることができれば……」
「ああ。そこを修正できれば一気に変わると思う」
「なら、槍の扱いを……って、どうするんだ? さすがに槍を扱うために勉強になる本なんかが売ってるとは思えないぞ」
「霊具を握った時のことを思い返せばいい。霊具に内在していた技術を思い返せば、それだけで解決すると思う」
ユキトの提言にノブトは「なるほど」と呟き、質問もなかった。ならばと、ユキトはチアキに目を向ける。
「で、チアキについてだけど……所持していた霊具の特性から、武器ではなく手のひらで風を操作して戦うような感じだな」
「武器がないってことで、やりにくいのは確かだなあ」
と、チアキはぼやく。それに対しユキトは、
「チアキの動きを見ていて気づいたこととしては、魔力の流れがずいぶんといびつだ」
「いびつ?」
「霊具を持っていた時と同じように魔力を操作しているってこと。そうした動きにもかかわらず、魔力は自らが保有している分だけ、ということだから上手く扱えていないってことだ」
「魔力の使い方か……そこを修正すれば上手いこといくと?」
「おそらくは。ノブトのように技術的なアプローチができないのは欠点でもあるんだけど、純粋に魔力の操作方法を変えればいいだけだから、コツをつかめば後はスムーズにいくと思うぞ」
そう述べた後、ユキトはチアキの腕や足を一瞥し、
「体の動かし方と一緒だ。自分の頭の中でやっていることと現実とでズレがあったら、転けたりする。だから、体の使い方……魔力の使い方を自分なりに修正すれば、それで解決するはずだ」
ユキトはそこでカノへと目を向けた。
「カノも同じだ……ただ、持っていた霊具が『真紅の天使』で、これ自体が特殊な霊具だから、もしかするとチアキよりは手こずるかもしれないけど」
「わかった」
小さく頷くカノ。とはいえ、その目は戦うという意思をはっきりと示していた。
「各々の課題は見つかったね」
そしてまとめるようにカイが発言する。
「もう少しばかり、鍛錬をしてから一度休憩しようか。ああ、それとユキト」
「何だ?」
「会わせたい人がいる。もう少しで来るだろうから、その時に僕と一緒に来てくれ」
「政府関係者か?」
ユキトの推測に対し、カイは黙ったまま深々と頷いた。




