魔力の補助
その後、記憶の検証についてはおおよそ終わってカイは次の指示を出した。
「魔力に関する検証はしたようだから、各々戦えるかの確認だ」
つまりスパーリングというわけだが――その相手は当然ながらユキトが選ばれた。
「誰からやるんだ?」
素振りしながらユキトが問い掛けると、ツカサがまず進み出た。
「俺からやろう」
「わかったが……ツカサ、記憶が戻って力はどうだ?」
「霊具を所持していないため、全力戦闘というのは無理だが、それでも――」
魔力を発する。制御についてはまったく問題ない様子だった。
「カイほどではないが、戦える」
「なるほど、それじゃ始めるか……でも、ツカサって基本魔法使い枠だから、接近戦って苦手じゃなかったっけ?」
「対応できる術はある」
「いつの間に……」
答えながらユキトが構えると、ツカサは両手に光を生み出した。それは形になることはなかったが、それは淡い光を伴う――
「杖、か?」
「杖に見立てたものだな。カイほど正確に形をなせるわけではないが、それでも戦える」
杖術の類いか――と、ユキトは思いながら足を踏み出した。一歩で間合いを詰め、まずは軽く一閃する。
ツカサはそれに見事応じた。ユキトの動きを見極めるだけでなく、斬撃の軌道を読み取って杖をかざし防いだ。
続けざまに放った剣もまた、ツカサは防いでみせる。さすがに現状では実力差があるため反撃には至らない。しかしユキトの動きについていっている。その時点で戦力になれることは確定的だった。
剣と杖が幾度もぶつかり、数分が経過した時、息を切らし始めたツカサが大きく後退して、最初のスパーリングは終了した。
「この辺りだな……」
「元々インドア派なんだから、無理するなよ」
「わかっているが、現状では少しでも戦力が欲しいところだろう」
「それはそうだけど……」
「点数としては、どのくらいだ?」
問い掛けにユキトは一考し、
「現段階では、七十点くらいかな」
「それは相まみえた敵の能力を考慮して、か?」
「遭遇した魔物に対して、だな。人間の方は……正直、まだ能力について未知な部分が多い。評価はすべきじゃない」
「この世界の人々は、僕らのように多大な魔力を有する」
ふいに、カイが口を開いた。
「だからこそ、誰かの手引きがあれば易々と強くなれる」
「その結果が、ユキトと出会った人間か……彼らは所持している魔力に加え、何者かの力が加算されている……」
「とはいえ、僕らのように自分自身の魔力を自在に操れるわけじゃない。例えるなら、自転車の補助輪だね。相手は魔力によって補助を受けながら、自分の力を制御している……いや、魔力酔いをしていたところから考えると、まだ自分の力に振り回されている、か」
「きちんと扱えるようになったら、厳しくなるのは間違いないな」
ユキトがカイの言葉に続く。
「霊具、とまではいかないにしてもこっちだって武器が欲しいな。でも、この世界で魔力を伴った武器は……」
「作るしかないね」
カイの言葉にユキトは不本意ながら頷いた。
「それしか、ないよな。でもそうなると……」
「もう一人、確実に記憶を戻す必要があるね」
「武器を生み出せる使い手がいるのか?」
尋ねたのはタカオミだ。ユキトとカイは一度互いに視線を重ねた後――カイが答えた。
「ああ……といっても、あくまで異世界にある技術を利用し、さらに異世界にある物資が使って人の手で霊具を生み出していた。仲間の名前はイズミ。ツカサと並ぶ後方支援的な役割を担っていた女性で、彼女が作り出した霊具によって、邪竜との戦いは非常に楽になった」
「特級以上の霊具は、基本的に相当な修練や才覚がないと扱えない」
ここでカイに代わりユキトが告げる。
「俺達が召喚された異世界の人々は、この世界の人達ほど魔力は多くなかったからな……でもイズミは兵士や霊具を持たなかった騎士にも手軽に扱えるように、一級以下の霊具を多数開発した。実際、それは再召喚された際も使われていたよ」
「ある意味、一番あの世界に貢献したのはイズミかもしれないな」
ここでメイも無言のままウンウンと頷く。そんな様子を見ながらユキトは続ける。
「とはいえ、この世界で同じ事ができるかは未知数だ。異世界にある技術は利用できるかもしれないが、異世界にある物質……こっちが問題になってくる」
「魔力を含める素材があるのか、ってことか」
スイハの言葉にユキトは深々と頷いた。
「そうだ。霊具が生まれるメカニズムについては知っているよな? 人工的に作り出す以外は、天神の力が武具に宿ることで霊具になるわけだが……向こうの世界にある素材は、鉄に至るまで魔力が浸透しやすいように加工の段階から色々と工夫がされている。つまり、同じ鉄であってもこちらの世界では上手くいかないかもしれない」
「素材集めからスタートってことかな?」
「そういうことになるが、相手がそんな悠長な行動を待ってくれるかどうか」
「ともあれ、イズミの所へ赴き協力を仰がないといけない」
カイが言う――と、ユキトは眉をひそめた。
「……ん? 何かあるのか?」
「あ、ごめん。言っていなかったね。実はイズミもユキトと同じく転校したんだよ」
「え……!?」
驚いたユキトに対し、今度はメイが説明を施す。
「理由は親の都合。ほら、イズミって両親が結構世界を飛び回っている人だから、その影響で転校しちゃったんだよ」
「そうなのか……カイ、居所は――」
「もちろんそれは把握しているよ。でも結構距離があるから、おいそれと行くわけにも」
「でも、やるなら早いほうがいいよな?」
「そこで私の出番」
と、メイがユキトへ発言した。
「仕事の関係でイズミが住む町の近くまで行くことになった。その過程で会おうってことで、ユキトには来てもらおうかと」
「ああ、それで構わないけど……俺は休みは暇だし、いつでもいいぞ」
「なら決まりだね。でもカイ、距離があるからこんな風に普段から会うことは難しいけど」
「その辺りはどうにかするよ」
カイの言葉によりメイは納得した様子だった。そこで一度話を区切り、
「それじゃあ……スイハ達の訓練を始めるか」




