謎の施設
敵と遭遇した週末、ユキトはスイハ達を引き連れてカイから指定された場所へ足を向けていた。荒涼とした風を身に感じながら訪れたのは、高い塀と鉄門に囲まれた施設だった。
「これ……何の施設だ?」
ノブトのもっともな疑問が出てくるが、ユキトも首を傾げるしかない。
ともあれ、入らなければどういう場所なのかもわからない――守衛に声を掛けるとあっさりと通してくれた。中にはまず建物の入口へ繋がる道が舗装され、その両脇には花壇なども存在している。横には並木道が存在しており、ますますどういう建物なのか首を傾げる。
そもそもこの建物の場所についても疑問だった。位置としては山肌を突っ切るように存在する国道の入口付近にある。幸い最寄り駅があるためユキト達でもここへ来ることは難しくなかったのだが、同じ駅で降りた人達は例外なくユキト達とは違う方角へ足を向けていた。結局、道中で誰とも会わずにここまで来た。
ユキトはスイハ達が互いに顔を合わせている光景を眺めながら、先導する形で施設へと入った。エントランスは受付が存在し、その奥には事務所らしき場所がある。そして真っ直ぐ廊下があり、飾りっ気などないどこか殺風景な景色が広がっていた。
結局建物の中に入ってもどういう施設か解決しないまま、ユキト達は受付で指定された場所へ赴くべく歩き出す。二階らしく、廊下の傍らにある階段を上り、該当する部屋を訪れる。
そこは多目的ホールのような大きさの部屋で――中央に、カイが立っていた。
「やあ」
「……ああ」
ユキトは返答しながら、頭をかきつつ口を開く。
「まず、質問させてくれ。この施設は何だ?」
「ユキトには話していたはずだ。魔力に関連する施設」
「……ここが、そうなのか?」
「公的な場所で、それらしい概要は語れるけど、ユキト達には必要ないだろ?」
釈然としない話だったのだが、ユキトは思い直す。つまり、
「……こういう施設があるくらい、カイの言っていた組織というのは資金力もあるってことか?」
「そういうことだ。国絡みだからね」
「正直、それで説明がつくような内容では……いや、いいや。カイだって部外者だし、詳しい話はわからないか」
「ああ、そうだね」
苦笑するカイ。その様子から考えると、彼もこの施設を初めて訪れた時、ユキトと似たような感想を抱いたのかもしれない。
「で、今いるのはカイだけか?」
ユキトは時刻を確認。指定された時刻にはまだ余裕がある。
「メイ達は次の電車で来るのか?」
「そうだろうね……さて、自己紹介をしておこうか」
カイは進み出てスイハへ一礼をした。
「話には聞いているよ……同じ聖剣として会えて嬉しい」
「……はい」
スイハの方が緊張している――それは無理もない。彼女の方は聖剣に宿っていた記憶などでカイのことは知っている。そうした人物が改めて挨拶をしたのだ。彼女としては聞きたいことも山ほどあるだろう。それらの感情を飲み込み、なおかつ聖剣使いとして、偉大な先輩に対する後輩みたいな雰囲気になっている。
「そう固くならなくてもいいよ……それと、僕のことはカイで構わない。その代わり、あなた方を名前で呼んでもいいかい?」
カイの問いにスイハ達は一様に頷いたのだが、その態度は変わらない――当面こんな形だろうと思いつつ、他の仲間を見やる。
その反応は、どこかソワソワしている。ただこれについては原因が明白だった。道中で語ることはなかったが、あえてここで質問する。
「……メイに会えるってことで緊張しているな」
「さすがにわかるよね」
代表してカノが応じる。それにカイは「ああ」と声を上げた。
「そっか、今をときめく天下のアイドルだからね」
「……俺達はアイドルよりも先に、仲間としての意識が強いからな」
「そうだね……サインくらいはもらってもいいんじゃないか?」
「そこはスイハ達に任せるさ」
相変わらずソワソワしている仲間を尻目に、ユキトは話を進めることにする。
「説明二度手間になるから、全員集まってから何をするか言うか?」
「んー、そうだね……いや、残りは二人だし、大丈夫だろう。先にここへ来たユキト達に説明をしておこう」
カイはそう言うと、改めて口を開く。
「ユキト達……そして、スイハ達とではやってもらうことが違う。まず、ユキトから説明しようか」
「俺の方はなんとなく予想できるよ。仲間の記憶だな?」
「うん。その検証をここで改めてやることにする……ただ処置をした僕にしかわからないことも多いし、ユキトは何もしないから退屈かも」
「構わないさ……スイハ達は何をするんだ?」
「メイ達が来たら今後の方針を決めて……そこから、各々の実力を確認したい。それはメイやツカサも一緒だ」
「現状の戦力分析ってことか」
「その通り」
ユキトもそれには小さく頷く。敵が目前に出現した以上、確認しておくべきことは多数ある。
「実際に戦闘になる可能性は?」
タカオミが問い掛ける。それにカイは一考し、
「正直、いつ何時本格的な戦闘になってもおかしくないと思っている……が、敵もまだ実験段階だ。そう心配はしなくてもいい」
「もし初動で敵を止められたら……」
「戦闘すら発生しない可能性もゼロではないけれど、現状では難しいだろう」
カイの言葉にタカオミを始め、この場にいた面々は押し黙る。ただそれは、戦闘になるからという不安ではない。
むしろ、自分もやらなければ――という意識が芽生えているように見受けられた。
「……戦うか、という質問についてはいずれ僕からも確認したい。ここに来た以上、一定の考えを持っているとは思うけれど、状況を確認し、改めてどうすべきかを考えるべきだ」
「その中で、ユキトは戦うんだよね?」
スイハが質問する。それにユキトは首肯し、
「俺はもう当事者みたいなものだからな……それに、ディルまで所有している俺が一番戦うべきだし、何より俺もそれを望んでる」
「望んでる……」
「この力が役立てられるなら、本望ってことさ」
「そうだね」
と、ディルもまた出現して同意した。それでスイハを含め、仲間達は納得したようだった。




