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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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難易度

 逃げる――ユキトが判断した直後、男は背を向け猛然と駆けた。暗闇に染まろうとしている森の中、脇目も振らず。ユキトは足に力を入れ追おうとしたのだが、それよりも先に地面に魔力を感じて動きを止めた。


「魔物か……!」


 ユキトが来る前に男性が仕込んでいたのか、それとも逃げるために用意したのかはわからない。とはいえ、次の瞬間に魔物がユキトの目の前に出現した。即座に応戦し、敵が行動を開始する前に刃を振るい始末したが――既に男はいなくなっていた。


「逃げたか……」

『追わないの?』

「気配を探ってみてくれ」


 少し間を置いた後、


『……森に溶け込むように消えたね』

「最初から違和感はあった。あれだけの魔力を抱えているのに、気配は薄かった……森に同化するような魔力だったんだ。おかげで、見失った」


 これはつまり、相手はユキトを欺く手段を保有しているということ――非常に厄介な問題ばかりが増える。


「……邪竜との戦いによる経験から、例え敵が出ても勝てると思っていた。けれど、その認識は改めないといけないな」

『今の戦い……確かに驚かされたし、逃げられたけど……ユキトが圧倒していたんじゃない?』

「実力的に勝てるにしろ、俺達は相手を殺めずに捕まえないといけない。討伐と捕縛とでは難易度も違う……魔力を用いた戦いであれば、それこそ相当な力量差がなければ困難だ」


 ユキトはこれからの戦いについて、極めて困難であると確信する。


「早急に、対策を打たないといけないな」

『ああいう人間が出た以上、敵は……』

「魔力酔いを引き起こしていたから、実験の類いかそれとも……どちらにせよ、騒動が生じる危険性は高い。これから、立ち回り方を考えないといけないな」


 ――そうして待機していると、カイがやってくる。彼に事情を説明すると、


「あまり良い状況とは言えないな」

「せめてもの救いは、俺達の知らないところで何かをやっていた……その一端をどういう形であれ、知ることができた点かな」

「うん、確かに。ならば相応の対策を立てよう」

「……どうするんだ?」

「実は、国と連携して動こうと考えていたんだけど」

「国……?」


 思わぬ言葉が出てユキトは目が点になる。


「ちょっと待て、色々動いていたみたいだけど、国を動かしていたのか?」

「別に政府組織と関わるわけじゃないよ。つてを利用して、国に関係している人と話をしたくらいだ」

「それでも十分ヤバいけど……でも、信用してもらえるのか?」

「まあ、ね」


 カイはやや言葉を濁す。どういうことかと疑問を感じた時、


「これからのことを思うと、話してもいいか……実は魔力という概念は、国にある程度認知されているんだよ」

「……は?」

「といっても、体系化とかされているわけじゃない。言わば超常的な現象……そうした物事を観測して、調査する場所があるって話さ」

「聞いたこともないけど」

「秘匿されているからね。僕がそれを知っていたのは、親類縁者がその組織に所属していたからなんだけど」

「……なんというか」


 ユキトは言葉をなくす。これまで――この世界に魔力という概念があるにしても、さすがにそれを観測しているなど思いもしていなかった。


「正直、小説とか漫画の世界だな……」

「僕もそう思うよ」


 カイは同意しつつ、さらに続ける。


「けれど、そういった空想の世界にしかないような組織……それは間違いなく存在する。公安警察が一般の人に実情が知られていないのと同じように、この世界には知られていない存在というのは多いって話さ」

「……確認だけど、魔力を観測するというのは具体的にどうするんだ?」

「古来より、観測していた方法だ。僕も詳しいことはわからないけど、元々日本を始め国々は魔力というものがある、という前提で色々やっていたみたいだね。とはいえ、それが活用されるようなことは今までなかったはずだけど」

「あくまで観測するだけか……それは何の目的で?」

「組織に所属している親類によると、それが多くなれば世界に災厄が生じると。だからこそ、観測し警告を発していると」

「災厄……?」

「それが具体的に何を意味するのかまでは教えてくれなかった。こうして僕に話すことさえギリギリのレベルだろうけど……自然災害とか、政治紛争とか、そういう類いのものとは違うみたいだ」


 ユキトとしても判然とした答えではあったのだが、少なくとも国という存在が魔力を認識しているのは間違いない――と判断はした。


「でも、観測しただけでは……」

「ユキトの言いたいことはわかるよ。単に調査しているだけでは、災厄があったとしても回避はできない……実際のところ、魔力という存在についてこの世界の人々は無力だ。だからできることは、被害を最小限に抑えるよう立ち回る。これしかない」

「なんというか、知られざる歴史って感じだな」

「そうだね」

「……カイは、そういう組織があることは異世界転移する前から知っていたのか?」

「まあね。ただ親類の仕事が魔力を観測することだと気づいたのは、先日記憶が戻った時にだけど」

「そうか……事情はわかった。俺としては信じられないことだけど……そこを頼ると?」

「うん。現在、魔力の観測で異常な値が出ていると語っていたし、その原因を見つけたのだから手を貸してくれるはずだ」

「……カイは、その組織と手を組んで何をするんだ?」

「ひとまず事件解決の協力をお願いするだけだよ。他意はない。ただ、肝心の相手側がどう思うかは別だけど」

「……絶対に干渉してくると思うが、魔力を持っている以上は、一定の責任も生まれるか……?」

「僕らがどういう風になるのかについては、今後相談していかないと駄目な部分だね」


 そこについて、逃げることはできない――魔力という概念が、今以上に公になってしまったら――ユキト達も身の振り方を考える必要がある。


「……少なくとも、一方的な監視対象になるようなことは避けたいな」

「そこは僕の方も気をつけるよ」

「わかった……で、今回の件を報告して協力を仰ぐってことでいいんだな?」

「ああ」


 カイは承諾。ユキトはそれで納得し、森を出ることにしたのだった。


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