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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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ある部屋の会話

「お二方、元気そうで何よりです」


 現れたのは、車椅子の女性――見た目の年齢は二十歳前後。ヒロとオズ、という両名とさほど変わらず、その車椅子を黒いコートを着た白髪の男性が押している。


「ああ、ミリアも元気そうで何よりだ」


 ヒロが応じると女性――ミリアは笑う。日本人であるはずだが、その雰囲気は異国の存在、むしろ非現実的でさえある。

 美しい女性であり、男性を絡め取って支配下に置くような不可思議な印象を与えている。男性二人と比べても浮いており、まるで部屋の主のように思わせるが、


「ところで、今回呼びつけたリーダーはどうした?」

「私も今し方きたところで、何も聞いていませんね」

「へえー、ミリアに伝えていないとなったら……どういう話になるんだろうな?」


 ヒロが受け答えをしている間に、さらなる人間が部屋を訪れる。今度は少しよれたスーツ姿を着る初老の男性。やや薄くなった頭髪をかきつつ、


「おや、私が最後かな?」

「いや、まだフォナさんが来ていないな……グロムさん、その様子だと会社帰りか?」

「ああ、職場が近いものでね。今日は助かったよ」


 ――年齢も、見た目もバラバラな者達。なおかつ本名とは異なる名で呼び合っている。もしこの光景を誰かが見ていたら、ゲームのオフ会か何かと想像するかもしれない。実際、そのような穏やかな空気だ。

 そして、さらに部屋の扉が開く。今度は女性。ピシッと決めたスーツ姿――キャリアウーマンという言葉が似合う、すらりとした中年の女性だった。


「ごめんなさい、私が最後だったようね」

「フォナさんとしては不服か? ま、ほぼ同時刻だから別にいいだろ」


 言ってからヒロは立ち上がる。


「さて、これで全員だが――」

『集まったな』


 声が聞こえた。それは部屋に響くような――部屋自体がまるで生きているかのような、体を震わせる声だった。

 それを聞いて和やかな空気は一変。ここでオズはゆっくりと深呼吸をして、


「はい、これで全員です……話し合いはここで?」

『ああ、構わん。全員好きなようにしていい』


 話す内容にかかわらず、まるで何かに揺さぶられるような感覚に陥るほどの圧だった。

 そして肝心の声の主は、どこにもいない。どうやって声を出しているのかを含め、ありとあらゆる意味で謎だった。


『さて、今日ここに集まってもらったのは……少しくらいは聞いているだろう。我々はとうとう、魔物を生み出すに至った……が、それを平然と阻む者がいた』

「それについて、こちらが調べますか?」


 問い掛けたのはミリア。さも当然のように、それができると言いたげだった。


『その者達の素性については、把握している』


 しかし声の主は、そう返答する。


『言ってみれば、忌々しい存在だ』

「あなたに牙をむいた人間、ということでしょうか?」

『その通りだ……なおかつ、あの場に立ち会った人間の一人は、何やら対策を講じている様子だ。それを妨害するか、あるいは放置してこちらは目的のために行動し続けるか』

「もし妨害すれば」


 と、オズは口を開く。


「私達の情報をみすみす与えてしまうことになりませんか?」

『いかにも。現時点で干渉するのは避けるべき案件だ……魔物を一蹴する力を鑑みれば、勝つことが難しいのもわかるだろう』


 声の主は最大限警戒している様子だった。それを肌で感じ、オズは小さく頷く。


「はい……では、どうしますか?」

『現在に至るまで、行った実験の数々は全て成功し、我々は望むだけの力を得た。これからもそれを続けるが、今まで以上に警戒して行い、見つからないよう手はずを整える』

「私に任せていただければ、そうした準備はいくらでも可能ですが」


 さらにミリアが言う。その姿はまるで、声の主に全てを捧げようとするような――信奉しているような雰囲気に満ちていた。


『それも考慮に入れるとしよう』


 返答にミリアは満足したようで、笑みを浮かべる。


『現在、お前達にはそれぞれ役割を担っている……その中で、次の段階に至る時が来た』


 部屋の中の気配がざわつく。少なくとも一年――オズ達は奉仕を続けてきた。もっとも相手の声しか今まで聞いたことがなく、なおかつこうして集められて延々と作業をさせられるだけ――それにも関わらず、こうして付き従っている理由はただ一つ。

 それは、この場にいる者達全員が声の主が発する『奇跡』に遭遇したからだ。


『いよいよ、お前達が力を握るときが来た』

「おお……」


 待ちわびていた、という風にグロムが声を上げる。


『その最初の人間は……今回、魔物発生に貢献をしたヒロとグロム。両名に授ける』

「ありがとうございます」

「どうも」


 うやうやしく一礼するグロムに、軽い返答をするヒロ。両者の反応を見ても、声の主は大した興味を抱かない。例えタメ口であっても、相手は何の関心も抱かない。


『やることは非常に簡単だ。右手にある部屋に、力の源が存在している。それに触れれば、自然と力を得ることができる』

「それ、抜け駆けとかされるんじゃ?」


 ヒロが言う。確かに力の源――それに触れて何かを得るというのなら、他の人間が触れても同じ効果を発揮するのではないか。


『お前達の力について、こちらは解析できている。それに合わせたものであるが故に、他者が触れても何も起きない』

「なるほど、それなら安心だ」


 ヒロは納得したように声を上げる。


『そして、次の指令については力に触れた瞬間、自ずと何をすべきかわかるだろう……これから一層の努力を期待する。他の者達も、力を手にすら日は近い。精進せよ』


 そこで声が途切れ、圧倒的な気配も消え失せた。


 オズはゆっくりと息を吐く。幾度となく行ってきたやりとり。しかし、慣れるということが一切ない。

 いや、もし慣れる時が来たら――それはまさしく、声の主そのものになっているのかもしれない。


「さて、実験体になりますか」


 ヒロが笑いながら言う。するとミリアが、


「実験体?」

「他のみんなは力を得たらどうなるか気になるだろ? まああの方が実は騙していたなんて可能性はないだろうが……誰かは一番にならなきゃいけない。ま、その役目を俺が担うのは適任かなと」


 彼はさらに続ける――まるで実験体が嬉しいかのように。


「それじゃあ部屋に行くか……何が待っているのか、楽しみだ――」


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