表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/397

暴走

 レーネの話が一段落した直後、城内を揺るがす大きな振動が、一度生じた。翠芭(すいは)は地震かと最初思い、


「え……?」

「これは――」


 レーネが立ち上がる。ただならぬ気配を発しており、翠芭が声を発するより早く、彼女は廊下へ飛び出した。


「どうした! 何があった!?」


 そして誰かに呼び掛ける。翠芭と貴臣(たかおみ)は同時に椅子から腰を浮かせ、その会話に耳を澄ませる。


「そ、それが……宝物庫に召喚者の方々が入ったらしく……!」

「何!? 誰が鍵を開けた!?」

「わ、わかりません……! ともかくお一方が霊具に触れ、それを暴走させてしまったらしく……!」


 苦虫を潰したかのようなレーネの表情。


(想定外のことが起こっている……!?)


 翠芭は胸中で呟くと同時、先ほどの騎士の言葉からクラスメイトが関わっていることに気付く。


(どうすればいいの……!?)


 霊具というものが、雪斗の戦いぶりを見れば相当恐ろしいものであることはわかる。自分達にできることは本来無い――そう思いながら、何かできないかと考えてしまう。


(このまま放置すれば、クラスメイトが……)


 見知った人が、下手すれば死ぬ。そういう状況を想像し、体が震えた。


「――お二方」


 そこでレーネが翠芭と貴臣に呼び掛けた。


「どうやら私達にも予想外のことが起きてしまった。二人はクラスの方々の所へ戻り、大丈夫だと伝え落ち着かせてくれ」

「は、はい」


 翠芭が返事をすると、レーネは即座に騎士と共に駆けていった。

 残された翠芭と貴臣はどうすべきかと、一度互いに顔を見合わせる。


「戻って……落ち着かせればいいんだよね?」

「災害が起きた時と一緒かな……対処についてはレーネさん達に任せるしかないと思う」


 貴臣の言葉に翠芭は内心同意し、自分が無力であることを改めて悟る。この世界に多大な魔力を持っているから召喚されたとしても、翠芭達はいまだ戦いなど知らない。こうした事態となったら何も役に立たず、ただ嵐が過ぎるのを待つしかない。


「……戻ろう」


 翠芭は呟くと、貴臣は頷き二人揃って部屋を出る。早足で廊下を進む間に、どこからか音が響いて城がわずかに振動した。

 何が起こっているのか知りたくもあったが、現場に駆けつけても迷惑になるだけ――気持ちを押し殺しながら翠芭達はクラスメイトがいる場所へ辿り着く。


 そこで幾人かに事情を聞いて、状況を把握する。信人を始めとして数人が騎士に誘われ宝物庫を見に行った。先ほどの騎士の情報を照らし合わせれば、彼らの誰かが霊具に触れて暴走させた、ということだろう。


「セガミ君や宝物庫に行った人以外は部屋にいるの?」

「うん、いるよ」


 翠芭の問いにクラスメイトの女子は首肯する。ひとまず部屋の中にいてもらって、騒動が終わるのを待つしかない――


 その時、廊下から具足特有の金属的な足音が聞こえた。貴臣と共に視線を転じると、そこに鎧が砕けボロボロになった男性騎士が一人。


「み、皆さん……」


 ヨロヨロと歩む騎士に翠芭と貴臣は慌てて駆け寄る。よく見れば彼は、一本の剣を抱えていた。

 真っ白な鞘と柄を持つ剣。一目見て翠芭が美しいと感じるそれを、騎士は大事そうに抱えていた。


「どうか……どうか、お力を……」


(剣を使って、助けてくれと……!?)


 翠芭は胸中で呟く間に騎士が崩れ落ちた。剣が手から離れて地面に落ち、続いて床に倒れ込みそうになるのを寸前のところで貴臣と翠芭が支える。


「重っ……!」


 鎧を着ているためか貴臣が発する。とはいえ二人がかりでどうにか床に寝かせることには成功。呼吸はしているので気絶しているだけらしい。


「ど、どうする……!?」


 そして貴臣は床に落ちた剣を眺める。翠芭もまた釘付けになった。

 何か――吸い込まれるような感覚に陥り、翠芭はゆっくりとその剣に手を伸ばす。


「どうした……?」


 傍らにいる貴臣が問い掛けてくる。その直後、


「――無事か!?」


 レーネだった。声色からただならぬ雰囲気を感じ取ることができたのだが、翠芭はそちらを向けなかった。

 視線が剣で止まり、おもむろに剣をつかむ。ずっしりとした重さで、翠芭では引き寄せて抱えるのが精一杯だった。


「すまない、全員この場から避難してくれ!」


 レーネの指示により、ようやく翠芭は我に返る。見れば彼女は貴臣に指示を行い、彼もそれに従おうとしていた。

 翠芭は剣を抱えたまま立ち上がる。それにレーネは反応し、


「すまない……その剣だが、私に引き渡して――」


 最後まで言えなかった。轟音が響き、粉塵が舞い、通路奥の廊下からガラガラと壁が砕ける。

 指示を受け動こうとした貴臣も動きを止め注視するような状況。そして粉塵の奥から姿を現したのは、クラスメイトの南村(みなむら)信人(のぶと)だった。


「南村君……!?」

「頼む、逃げてくれ!」


 信人が叫ぶ。彼の右手には槍が握られていた。

 少なくとも怪我などしていない様子ではあったが、顔は苦しそうだった。


「手を離そうとしてもできないんだ! 下手すると皆に槍を向ける――!!」

「現在霊具が暴走して使用者と結びついてしまっている」


 レーネは翠芭や貴臣へ言い聞かせるように告げる。


「霊具そのものに何か魔法を仕込み、意図的に暴走状態を引き起こしたんだろう。そして知り合いに攻撃するように、とでも命令を与えたのかもしれない。最初、彼のクラスメイトが矛先になってしまっていたからな」

「あの、他のクラスメイトは――」

「霊具使いが退避させた。そちらを見失ったため、こちらに来たというわけだ」


 バリバリ、と弾けるような音が槍先から漏れる。まるで槍そのものが意思を持っているかのようであり、


「ここは私が時間を稼ぐ」


 圧倒的な力の渦が生じる中、レーネは淡々と語る。


「それと、スイハ。その剣はここに置いていってくれ。抱えるだけ邪魔になるぞ」


 さらに告げ、レーネが剣を抜き構える。彼女の武器は鞘については灰色だったが、その刀身は奇妙なくらい黄金に輝いていた。


「とはいえ……相性最悪の霊具だ。どこまでやれるか――」


 レーネが呟いた直後だった。信人が槍を振り上げ行動に移そうとする。どうやら槍は目先にいる存在――つまりレーネに目標を定め、攻撃を開始したようだった。

 それに対しレーネは――あろうことか前進する。


「っ……!」


 翠芭が息を呑み、視線がそちらを射抜く。対する信人は迫るレーネに対し槍を差し向けた。

 突きが彼女へと迫る――が、それを紙一重で避ける。なおかつ間合いを詰め、また同時にレーネは剣を振り上げた。


 狙いはどうやら、信人が握り締める槍。


(剣で強引に弾き飛ばすのか……!)


 目論見を悟った翠芭は、祈るような気持ちでレーネが放つ斬撃を眺める。途端、周囲に響く金属音。そして信人の槍は――


「え……!?」


 翠芭は声を発し凝視する。渾身の一撃だったはず。けれどレーネの一太刀を受けてなお、信人は槍を握り締めていた。


「――逃げろ!」


 彼が叫ぶ。同時その槍が豪快に振り回され、レーネは即座に回避に移った。

 けれど、そのうちの一つが彼女体に迫り――それを剣を盾にして防ぐ。


 だがその直後、彼女の体が浮いた。


「レーネさん――!!」


 翠芭が名を叫ぶと同時、彼女が廊下をすっ飛んでいく。数瞬後には床に辺り数度転がり、どうにか止まった。


「失敗か……!」


 起き上がる。怪我はない様子だったが、その顔は苦渋に満ちたものだった。


「全員、即座に退避を――」


 彼女が発した矢先、槍から放たれる気配が増した。圧力と言って差し支えないそれは、この場を去ろうとしたクラスメイト達の行動を押し留める効果をもたらす。

 そして信人が握る槍の先は――翠芭に向けられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ