もう一人の天才
その後、ユキト達は情報交換を行い、現状をまとめることにした。
「問題は、魔物を生み出したと思しき存在だけど……」
「今回の一件を調査していれば、嫌でも出会うことになるさ」
と、カイはユキトに対し発言した。
「向こうは僕らのことを見ていたかは不明だけど、もし見ていたとしたら必死で隠れるだろうけどね」
「……俺達で察することができなかったのは、反省点だな」
「その辺りについては、理由も調査を続ければ解明されるはず……ただ、その一事を考慮すると、当初予想していた良くない可能性が思い浮かぶ」
「邪竜絡みである可能性だな」
ユキトの指摘にカイは首肯した。
「ああ、邪竜に連なる何者かが動いているのであれば……僕らの警戒網を欺く可能性がある。人を使っていて、その人物達は素人であっても、邪竜の提供する技術が本物であったなら……」
「魔力そのものが邪竜由来であることは調べられないの?」
と、メイが尋ねる。既に思考は異世界の時のように――かつて、話し合っていた時のようになっていた。
「ほら、敵のいた場所とか調査して、どういう存在がいたかとか、向こうでは調べていたよ?」
「あれは相応に道具とかがあっての話だよな?」
ユキトがカイへ話を振ると、彼は頷いた。
「そうだね。現状、僕らが使えるのは自らの魔力とユキトが所持しているディルだけ。ディルについては、その霊具の能力から索敵なども相応にできるけど、魔力の精査までというのは難しいと僕はわかってる」
『そうだねー』
間延びしたディルの声が周囲に響く。いっそのこと外に出ればいいのではとユキトが指摘したのだが、彼女自身が「まあまあ」と言ってやんわりと断った。
「よって、僕らは調査をするために道具を作成するか、それとも現状のまま調査を続けるかの二択を迫られているわけだ」
「と言っても、手持ちの状況じゃあ満足に調べるって無理じゃないか?」
ユキトの意見に対し、カイは頷く。そこでメイが、
「かといって、道具を作成するってどうすればいいの?」
「僕らは魔力を知覚できている。さらに、異世界での経験がある……魔法が使えることを踏まえても、この世界において魔力の備わった物さえ見つければ、加工はできると思う。ただ」
「ただ?」
「その場合、もう一人協力して欲しい人が出てくるね。僕らでは作成は可能かもしれないけど、完成して実用的に扱うまでどのくらい時間が掛かるのかが問題だ」
カイの言葉に対し、ユキトは察する。そこで「なるほど」と呟き、
「つまり、もう一人……ツカサの力を借りるわけだ」
「そうだ」
「そっか、確かに」
メイもまた納得するような声を上げた。
ツカサ――ユキト達の仲間の一人であり、なおかつ天級霊具の所持者だった。
その大きな功績は、フィスデイル王国の王都および王城の防衛網を確固たるものにしたことだ。カイが剣であったならツカサは盾。霊具の能力も突出しており、防衛戦において彼の力は非常に大きかった。
さらに言えば、彼もまたカイと並ぶ天才だった。ユキト達のクラスは万能型の天才であるカイや、現役アイドルというメイがいたためツカサが目立つことはなかったが、それでもカイと肩を並べるのは彼だろうと言われていた。理由としては、成績的な面でカイとほぼ同等であったこと。ただその中で、プログラミングに関して異様とも言うべき能力だった。
その特徴が、異世界でマッチした。魔法の構築はプログラミングにどこか似ているとツカサ本人は語っていた――もっとも、ユキトとしてはどこが似ているのかとツッコミを入れたくなるところだったが――こともあり、王都の防衛網を構築し、さらに様々な魔法や道具を開発した。邪竜との戦いにおいて、最終的にユキト以外は全員倒れてしまったが、彼がいなかったらもっと早い段階で積んでいたかもしれない――そんなことをカイも言っていた。
「ツカサの記憶を戻すのはどうやって?」
「ああ、実はこの後会う予定なんだ。その中でユキトに記憶を戻して欲しい」
「そういうことか……メイも同行するのか?」
「私はどちらでもいいけど」
「なら僕と一緒に来てくれ」
カイの要求にメイは素直に頷いた。
「さて、道具作成についてはツカサの力を借りる……様々な発明をした彼の協力は心強いはずだ。では、そこからどうするのかだけれど……」
カイはユキトとメイをそれぞれ一瞥して、
「僕らがやらなければならないことは二つ。魔力を調査する手段の確保。これはツカサの助力を願うことで進展すると思う。よって、もう一つの方に注力する」
「敵の姿を見つけ出す、だな」
ユキトが言うとカイは即座に頷いた。
「邪竜の関連する存在が相手である以上、僕らから隠れる手段を構築しているとは思う……それを見つけなければこの問題は解決しない」
「この町の周辺にいるとは考えにくいか?」
「ユキトが索敵していても見つからないのであれば、そういうことなんだと思う。もっとも、それをすり抜けている可能性もゼロじゃない」
「そうだな……」
「今後、その辺りのことも鍛えたり道具を作成することで解決することにして……情報収集も行いたい。ユキトは親族に警察の人がいるんだったね?」
「ああ。この町の周辺以外にも、何かおかしなところはないか調べてもらっている。もちろん限界はあるだろうけど……」
「それで構わないよ。そしてメイ」
「うん」
「芸能関係者……例えば、心霊現象を始めとした怪奇現象に関わる取材なんかを行っている人と会ったことはあるかい?」
「あー、なるほど。そういうところから調べるわけだ……ホラー企画とか、UFOの企画とかでそうした人と知り合ったことはあるし、不可能じゃないと思うよ」
「ネットでも調べられるけど、専門的な知識を持つ協力者は欲しいからね……頼めるかい?」
「結構大変だけど、私が一番情報を得るのに近い立場にいるのは間違いないからね。やってみるよ」
ニッコリとしながらメイは快諾する――気づけば、異世界で共に戦っていた時のような空気に包まれていた。
(戻ってきた、って感じだな)
ユキトは心の内にそんなことを呟く。そしていくらか話し合いをした後、ユキト達はツカサに会うために移動をすることにしたのだった。




