彼女への報告
翌朝、ユキトは学校に登校しスイハへ事の顛末を話した。時刻は昼休み。冬ということで誰もいない中庭で話をした。
「魔物が……大丈夫なの?」
「現段階ではどうとも言えないな。俺が異世界から戻ってきて、色々と動いて……その間に魔物の発生なんて一度もなかったけど、極めて低確率で発生するなんて可能性も否定できない」
そうユキトは返答したが――決して、甘い見方はしなかった。
「基本的に最悪のケースを想定して動くことにするさ……とにかく、被害が出ないこと。それを最優先にして動くことにする」
「私達も、何か手伝えればいいんだけど……」
スイハが述べる。それに対しユキトは、
「……場合によっては、頼ることになるかもしれない」
「え?」
「人手がいるかもしれないという話だよ。調査は場合によって人海戦術になるかもしれない……この世界において、魔力を知覚して魔法を行使できる人間なんて、それこそ俺達のように異世界へ赴いた人間だけだ。だからこそ、手を貸してもらうかもしれない」
「それは、他の人にも言っておいた方がいい?」
「タカオミとかに、ってことだよな? 一応、話してもらえるか。ただ、今すぐにどうこうというわけではないし、拒否もできるという旨は伝えてくれ。それとひとまず、今後はスイハを連絡役とするってことでいいか?」
「わかった」
スイハは承諾し、話が終わる。ユキトとしては放課後にでも調査を始めようかと考えたのだが、
「あ、そういえば一つ」
「どうしたんだ?」
「魔力を意識できているから、少しくらい魔法として扱えるように訓練したいってノブトとかが言っていたんだけど」
「訓練か……制御訓練をして魔力を漏らさないようにする、とかならやってもいいけど、魔法訓練というのはどうだろうな」
「私達は……このまま能力を放置するのは危険?」
「別に問題はないと思う。ただ、何かの拍子に魔力が漏れ出て何かしら生じてしまうという可能性はゼロじゃないけど、日常生活上で起こるとは考えられないな」
「ユキトの一件に関わるなら、制御してどんな状況でも問題ないように訓練しておく方が……」
「俺のことはそれほど気にしなくていいさ。調査なんかについても、現時点で必要としているわけじゃない。だからまあ……とりあえず、ゆっくり考えればいいよ」
「……わかった」
スイハは承諾し、話し合いが終わる。ただ最後にユキトは一つ、
「魔物がもし出現した場合は……すぐに連絡してくれ。これは他のみんなにも通達してくれ」
「ユキトが倒すってこと?」
「いや、どちらかというと調査目的だな。昨日の戦いでは、魔物という存在に気をとられ即座に処理してしまった。けれど、今回の調査をする上では魔物を捕獲とまではいかなくとも、ある程度調べるのも良い」
「そっか……うん、理解した」
スイハは立ち去る。その後、ユキトは空を見上げながら思案する。
「スイハにはああ言ったけど、仲間達は魔法はすぐに扱えるようになるだろうな……ただ、戦力として頼むのは、なしにしたいな」
『霊具をきちんと扱えているし、前線に出ても問題ないと思うけどなあ』
と、ディルは言うのだがユキトは首を左右に振った。
「こちらの世界と向こうの世界とでは都合も違う……それに、体は霊具を手にする前に戻っているわけだ。不都合が出てもおかしくない。俺の場合はディルがいたからなんとかなったけど、他のみんなは誰一人として霊具を持っていないからな」
『あ、そっか』
「そういうわけで、カイを含めて……でもまあ、カイについては気にする必要性はないけどな。体は元に戻っているのに、記憶だけで即戦力になるくらいだし」
『カイについては化け物だよね』
「俺も同意見だよ。ただ、異世界での戦いを振り返れば、至極当然とも言えるけどさ――」
その時、スマホから着信音が。誰かと思いユキトが画面を見ると、他ならぬカイからだった。
「噂をすれば、だな」
『タイミングが完璧だけど、どこからか監視の目がいっているわけじゃないよね?』
「いくらなんでもカイはそんな風にしないだろ……はい? どうした?」
『土日、開いているかい?』
電話に出ると、唐突な確認がカイの口からもたらされた。
「土日? ああ、問題ないけど……どうしたんだ?」
『実は、メイについてなんだけど』
彼女――現役のアイドルであれば、さすがに多忙の日々を送っていることだろう。
『僕は今もクラスメイトで、時折話をすることがあるんだけど……どこかに誘って、記憶を戻せないかな?』
「早速だな……でも、いいんだろうか?」
『託されたんだよね? であれば、それで話し合いは終わりじゃないか?』
ユキトは苦笑する。有無を言わせないような静かな迫力があった。
「そうか……別に構わないけど、どこで話を?」
『いつもは学校とかで』
「それじゃあ無理だろ」
『そうだね。だから、カフェにでも誘って話をしようと思うんだけど』
「そこに俺が……?」
『別に最初から姿を現さなくていい。記憶を戻し、僕とユキトとメイで話し合いをしたいな』
「それは当然、調査の一件についてだよな?」
『そうだね』
「メイは、元々使用していた霊具が治療に特化した武具だった。それでも、メイを選ぶのか?」
『他にも優秀な人はいる。でも、僕が色々と目論んでいる計画を実行するには、メイのように顔が広い人材が欲しい』
顔が広い――どういう話なのかと不安に思いつつ、ユキトは承諾の言葉を答えた。
「まあ、俺は構わないぞ」
『なら土日で。詳細は明日にでも送るよ』
「……ちなみに土日には意味があるのか?」
『メイが休む日がそこしかなかったんだよ』
なるほど大変だとユキトは思う。めまぐるしい日々を送っていることだろう。
(負担の軽減とかになればいいけどな……)
記憶を戻すことでどういった影響が出るのか。不安にならないわけではないのだが、
「……大丈夫、だよな?」
『メイのことかい? 心配はいらないさ』
確信に満ちた言葉だった。メイと日頃から話しているカイの言葉である以上、ユキトとしては頷くほかなかった。
「わかった……なら、土日は空けておくよ」
『詳細は後日連絡するから頼むよ』
そうして会話が終わった。ユキトは少しずつ事態が進展していく感触を抱きながら、自分もまた役目を全うしようと思った。




