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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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情報収集

 ユキトはディルと会話を繰り返しながら、ようやく帰宅する。長い一日だと思いながらユキトは電話を掛けた。それは親族である――


『どうした?』


 相手の最初の言葉がそれだった。ユキトは頭の中で言葉を整理し、


「今日、調査について終わりました」


 電話の相手の名は藤田知晴(ともはる)。ユキトが暮らす地域の警察署に勤める叔父である。

 そしてこの世界において、ユキトの能力を知る人物でもある。そのきっかけは、ユキトがこの世界へ戻ってきたからの行動だった。


 世界が魔力に満ちていると認識したユキトは、時折発生する魔力の塊について色々と対処していた。といってもそれは、おそらく放置しても問題はない――ただ、気になり対処していたに過ぎないレベルのもの。

 とはいえ、その時の光景が偶然叔父の目に留まった――そしてどうやら、警察には魔力由来の不可思議な出来事が通報されているらしく、それについて協力するとユキトは約束した。


 結果としては割の良いバイトという感じになっており、ユキトとしては魔力由来の出来事を放ってはおけないので、これで良かったかと考えている。


「それで、今回は今までとは違っていたんですけど」

『違う?』

「はい。魔物が……いつもはただ魔力が滞留しているだけなのに、今回は形になっていました」

『魔物……』

「はい」


 叔父はしばし沈黙する。自分がどうすべきなのかを思案している様子だった。


『ふむ……魔物は倒したのか?』

「はい。ちなみに目撃情報などはありますか? 魔物のようになった存在は普通の人でも視認できるはずですが……」

『今のところ何もないな』


 ユキトは考え込む。単なる偶然――と、片付けるのはさすがに早計すぎる。

 一年、つまり再び召喚される前に活動していた経験からすると、魔物の出現なんて皆無だった。魔力は滞留するし、放置すれば場合によっては人々に害をなす――といってもそれは少し違和感を覚えるとか、魔力に過敏な人ならば体調が少し悪くなるといった程度のもの。そうして結果、様々な噂があったわけだ。


(とはいえ……よくよく考えれば、考察の余地はあった)


 ユキトは心の中で呟く。というのも、魔力溜まりなどはユキトのいる町などの周辺に多く見られた。叔父が色々と情報収集をしてくれ、場合によっては魔力溜まりに対処するために遠出することはあったが、それほど多くはなかった。


(俺が召喚されて、再び……ということをきっかけとするなら、一応説明はつくが……)


『ユキト?』


 叔父が名を呼ぶ。それでユキトは我に返り、


「すみません……魔物については今後どうするか検討します。それで、情報収集をお願いしたいんです」

『今まで以上に、ということだな』

「はい。可能であれば情報収集の範囲も広げていただけると」

『他の場所に、か……わかった。可能な限り調べてみよう』

「お願いします」


 それで通話は終わる。カイのことについてはまだ話さなかった。


『ねえユキト、カイのことはいいの?』

「カイについては、何かしら形になってからでいいとは思う。この騒動がもし発展すれば、いずれ顔を合わせることになると思うし」


 ユキトはスマホを机の上に置き、今後のことを考える。


「俺はとりあえず、魔力を探る……そうだな――スイハなんかにも話しておくべきか」


 異世界のことを思い出しながら、ユキトはスイハの名を出した。カイの言葉を受け、彼女の他、仲間になった彼女達もまた、同じように呼ぶべきだと思った。


『そっかあ……スイハ達にも協力してもらうのかな?』

「どうだろう、な。カイには記憶を保持している面々がいることは伝えたけど、おそらく考慮には入れない……最終的にどうするのかは、本人達次第だな」

『なら明日話をして、そこからだね』

「ああ」


 結論が出て、ユキトは動き始める。夜はまだ長い。勉強くらいはしておくか、などと柄にもないことを考えたのであった。



 * * *



 誰もいなくなった森の中で、枯れ葉を踏みしめる音が聞こえ始める。ユキトとカイが魔物と遭遇した場所。そこに、一人の人間が足を踏み入れていた。


「……まずいことになったな」


 その人物が呟く。老齢を重ねた重く味のある声だった。黒いコートに加え、フードまで被る男性。顔は暗がりもあって誰も窺い知ることはできない。


「ようやく、形になった……が、その直後に発見されるとは運がなさ過ぎる」

「あれは、運の問題ではないよ」


 今度も男性の声。今度は若く、客引きをするホストのような軽妙さがあった。こちらの格好も黒いコートだが、フードは被っていない。


「見つけられたのさ……でもまあ、魔物がここにいるから来たって感じじゃあなかった」

「そうだな。何かしら噂を聞きつけ駆けつけたら、いたということか」

「たぶん情報網があるんだろう。とすれば、彼ら……ここで戦っていた二人以外にも、何かしら知識のある者がいる」

「魔法に、か」


 老齢の男性が呟く。二人はしばし沈黙した後、


「魔物の目を通して見ていた限り、彼らは相当手慣れていた。まるで、戦いが日常であるかのように」

「そこが妙な話だな。僕らがこうして力を得たのは……まあ、話をするまでもないけれど、様々な出来事があってのことだ。けれど魔物と戦った二人は、なんというか……僕ら以上の苦難を乗り越えてきたような雰囲気がある」

「魔力の滞留について、この近辺の動きが少なかったのは、あの人間達のせいか?」

「たぶんね。この周辺で魔力が膨らんでいることを察した……だからここに来た、かな?」

「二人の格好はこの近辺の高校の制服だ。エージェントとして派遣されて、学校生活を送る……などとは考えにくいぞ」

「確かに。組織だって行動なんてあり得ない話だ。だからまあ……事情については、あの御方に確認しないと」


 沈黙が生じる。老齢の男性は一度空を見上げた後、


「……連絡はつくのか?」

「一応ね。電話に出るのかは運だけど」

「いいだろう、おそらくあの御方は事情を知っている……情報を集め、対策を練るとしよう」


 二人は踵を返し、現場を後にする――それを見咎める者は、誰もいなかった。


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