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宝物庫

 信人(のぶと)達の目の前に現れた宝物庫は相当広く、また同時に至る所に安置された武具に圧倒され、誰もが呆然となった。


「すげえ……」


 信人は思わず呟く。他のクラスメイトは扉の前で絶句し、立ち尽くした。


「どうぞ、中へ」


 騎士が先導する。信人達はそこで我に返り、中へ。室内はまるで美術館――白い天井と壁は神聖かつ静謐な空間を表現し、至る所に展示品のごとく様々な武具が置かれていた。

 騎士が腰に剣を差しているため、信人達もこの異世界で武器を目にしたのは初めてではない――が、それでもこの空間にある物を目に留めると、思わず凝視してしまう。


 信人の目からすれば「オーラが違う」と感じた――宝物庫にある武具は剣、槍、弓などを始め鎧や盾、果ては単なる水晶球のような物まで様々ある。ただそのどれもが騎士が持つ剣とは異なり、異様な存在感を放っていた。

 加え、俺を使ってくれと――武具が語りかけてくるかのような感覚。


 信人は周囲を見回し、様々な武具を眺め――ふと、視線が一点で止まった。

 それは宝物庫の最奥に存在する、台座。そこに他の武具と比べてさらに厳重な、かつ重厚な台座に安置されている剣があった。


 鞘に収められているため刀身は見えないが、白い柄と白い鞘がこの宝物庫内でも一際輝いて見えた。


「――あれこそ、この国の……いえ、世界の宝と呼べる聖剣――正式名称は『星神(ほしがみ)の剣』です」


 目線に気付いたか、近寄ってきた騎士が信人へ述べた。


「あの剣があったからこそ、世界は救われた。あれ以外にも、この場にある武具達はどれもが素晴らしい品々であり、国を救うだけの力を持っている」

「へえ……」


 もしかするとそういう点で「オーラが違う」と思った根拠なのかもしれない――そんな風に信人が思った直後、その視線が近くにあった一本の槍に移った。


「あれは……」

「名は『天盟(てんめい)槍』という光の粒子をまとう槍ですね……気になったのなら、触ってみますか?」

「え? 触る?」

「魔力を込めなければ武具が起動することはありませんし」

「でも、落としたりしたら……」

「落としたくらいで壊れるような品は、この宝物庫に存在しませんよ。大丈夫、傷一つつきませんし」


 にこやかに語る騎士は信人を手招きしながら槍へと近寄っていく。それに釣られるように信人は歩を進め、槍の前に到達した。

 飾りがほとんどない無骨な槍ではあるが、他の武具と同様発する気配は異様の一言。信人自身の身の丈を超える長さを持つその武器は、まるで信人を誘っているようにも感じられた。


(なんだか……吸い寄せられる……)


 宝物庫を眺め回るクラスメイトをよそに、信人はただ一人槍を見据え立ち止まる。少しして、彼はゆっくりと手を差し出し、槍へと近づけていく。


 ――その時、騎士は口の端に笑みを浮かべた。事が成ったとほくそ笑むようなその表情に、信人が最後まで気付くことはなかった。



 * * *



『ねえ、あの白い腕は何だったの?』


 洞窟を出た直後、雪斗はディルから質問を受けた。


『あれが切り札ってことなんだろうけど……』

「ディルも邪竜との戦いにおいて最後の最後で気絶したもんな。魔力が尽きて」

『えー、その後に起こったの? 別に教えてくれてもいいじゃん。どうせ元の世界に帰ったわけだし』

「情報が漏れないという観点なら別に喋ってもいいんだろうけど、説明しただろ? ディルは絶対怒るって」

『そこが気になるんだよなあ……私が怒るって理由……』


 やや沈黙が生じた後、ディルは『ま、いいか』と呟いた。


『今回使ったってことは、たぶん今後も使うだろうしその過程でわかるでしょ』

「正直、俺としては力の正体が判明した時点でどんな風に怒るのか如実にわかるからあんまりやりたくないけどな……」

『というかそんな力、使って大丈夫なの?』

「問題ないよ。あんまり使いすぎると疲労で動けなくなるけど」

『雪斗が動けなくなるってよっぽどだと思うんだけど……』


 そんなやりとりをする間に雪斗は周囲を見回す。他に敵がいないか――その確認だ。


「ディル、索敵はやっているか?」

『もちろん。けど、気配らしい気配はまったくないね』

「あの信奉者が前線部隊を指揮していたとみて間違いないみたいだけど……主君と呼んでいた存在が尻尾を出す可能性は低いだろうし、そいつを倒さない限り都への襲撃が続くんだろうな……早急に探さないといけないわけだが」

『地上にいるのかな? 洞窟みたいに地下に潜られていると、探すのも時間掛かるけど』

「……霊具の力が欲しいな」


 霊具の中にはレーダーのように敵を探知する霊具がある。名は『箱庭の世界』。それを用いることができれば敵の居所などを探知することも容易だが――


「主君と呼ばれる存在が邪竜との戦いをある程度見ているなら、こっちに索敵手段があることは百も承知だろう。となると相応の対策がとられていてもおかしくない」

『ってことは、霊具の力は使えない?』

「そうとも限らない。霊具の能力は使用者の相性などでも変わる。もしかしたらクラスメイトの中にそうした霊具の真価を発揮できる人物がいるかもしれない……ただ」

『雪斗が望む、誰も戦いに参加させたくないって信条には反するね』

「そうだな」


 都に被害が出る可能性を考慮すれば、レーネであっても「協力して欲しい」と願うだろう。


「……支援くらいは頼む必要性はあるかもしれないな。この世界の人間を含め、犠牲者を可能な限り少なくするためには」

『そこは仕方ないんじゃない?』


 ディルのフォローに雪斗は苦笑を交え――ふと、あることを思い至った。


「もし支援をしてくれるというのなら、『空皇(くうおう)の杖』の使い手だけは見つけたいな」

『それって……リュシールが最後に使っていた霊具?』

「そうだ」


 敵がどの程度雪斗を含めた味方の情報を持っているか不明だが――邪竜との決戦時に何が起きたかはわかっていないのは確か。


(なら、こちらも相応の切り札を用意しておこう……現状でも左腕を変化させれば対抗できそうだけど、これ以上の力も――それには『空皇の杖』が必要だ)


「やることは二つ。一つは信奉者が語っていた主君とやらを見つけること。そしてもう一つが支援系の霊具……『箱庭の世界』と『空皇の杖』所持者を見つけること――」


 そう呟いた時だった。雪斗の視線が空を捉える。

 変化は一切ない。しかし、都のある方角から魔力が発するのを、雪斗は見逃さなかった。


「……ディル」

『うん、感じる。しかもこれって――』

「間違いなく『天盟槍』だ……! あの槍はこの世界の人がそうそう扱えるものじゃないし、クラスメイトの誰かが手にした……宝物庫に忍び込むなんてできないだろうし、十中八九誰かが手引きしたか……!」

『手引きって……レーネに頼んで注意してもらっているはずでしょ?』


 問い掛けに雪斗は少し考え、


「例えば大臣がレーネの隊に実際所属している騎士を懐柔して、宝物庫に案内した……」

『狡猾さは、大臣の方が上をいくか』

「そうだな……戻るぞ!」


 雪斗は全力疾走する。その足ならそれほど掛からずたどり着けるが、さらに魔力を感じ暴走していると悟る。


(間に合うか……?)


 大臣が何をしようとしているのか、雪斗には理解できる。果たして予測通りになってしまうのか――雪斗は思考しながら、ひたすら元来た道を駆け続けた。


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