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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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彼の仕事

 何をするのか――ユキトは問わないまでも予想できた。やがてカイの右手に、淡い魔力が湧き上がってくるのを見て取る。


「うん、使えるようだな」

「記憶を戻したことで、か」

「僕らは異世界で魔力を扱う術を学んだ。霊具を握ったから、自然とそういう技術を得たわけだ。問題は、肉体は異世界へ行く前のものだ。よって、魔力を扱う術が肉体の訓練によるものであったなら、僕は魔法なんて使えないわけだが」

「実際は、使える……つまり、知識由来のものだってことだ」

「うん。この世界には魔力が満ちている……でも僕らはそれを扱う技術が何もない。こうして魔力を使える体になってみてわかる。この世界には魔法を使うためのオカルトが多数存在しているけれど、そういう類いのものは効果がない……魔力を扱うという行為は、それこそ異世界のように神々が実際に存在する世界だったため、実現できたことなのだろう」

「神……それこそ、全知全能の神か」

「うん。この世界にも神はいるけれど……実際に奇跡を起こせるのは伝承の中でだけ。そういう存在がいなければ、魔法という概念は生み出されないものなんだと思う」


 カイはそう言いながら右手を軽く振った。すると、人差し指の先に小さな炎が生まれる。

 誰かに見咎められないうちに彼はその炎を消すと、


「この程度ならマジックとかでごまかせるけれど、大規模な魔法を使うならそうもいかないか」

「……魔法を認知させるつもりとかはないだろ?」

「もちろん。そもそも魔法で何かをしようなんてつもりもない」


 カイはそう言いながら、小さく息をついた。


「ユキトは……ディルも所持したままなんだろ? 魔法とかは使わなかったのかい?」

「……実を言うと、少しある。でも、それはあくまで誰かに見られないようにしながらだけど」

「というと?」

「仕事、と言えるのかどうかは微妙だけど……親族に警察官がいてさ、その中でどう考えても理屈に合わない事件というのが発生する。それはどうやら、霊的なものとかが関係しているみたいで……」

「つまり魔力か」

「そうだな」

「なるほど、魔力というのは人間が感じなくとも存在はしている以上、何かしら事件は発生していると……で、そうしたことを解決している?」

「たまに、だけどさ。ちなみに今日も、カイの記憶を戻したら向かおうと思ってる」

「ついていってもいいかい?」


 まるでカラオケの誘うような口ぶりでカイは尋ねた。それにユキトは目を丸くして、


「いや……危険だぞ」

「僕も魔法が使えるし、自分の身は自分で守れるよ」

「それに、行く意味は――」

「ユキトがどういう活動をしているのか見たい。それが理由では駄目なのかい?」


 そう言われてはユキトとしても押し黙るしかなかった。


「もしユキトが危険だと判断したら引き下がるけれど」

「……ちなみに予定とかは大丈夫なのか? 夜までかかるぞ」

「そういうユキトは?」

「俺はまあ、うちの親は結構緩いし、友達の家で飯を食ってくるとか、あるいは友達と牛丼でも食べてくると言えばそれで終わりだからな」

「なるほど……僕の方も電話をしておけば問題ないよ」

「わかった……でも、一応確認しておくべきことがある。自分の身は自分で守れるのか……そこは本当なのかをきちんと確かめるぞ」

「わかった。ならどうすればいい?」


 カイの言葉にユキトは少し逡巡しながら、


「なら、そうだな……目的地は郊外で、人気のない場所とかについたら確認しよう――」






 ユキト達は店を出た後、電車移動を行う。そして人気の少ない駅で降りた後、山のある方向へ足を進める。


「えっと、このまま進むと雑木林がある。そこからさらに進むと自然公園があるような森があるんだけど、そこが目的地だ。雑木林で確かめるか」

「わかった」


 ユキトはカイの表情を窺う。これから始まることに対し、何か考えがあるようだが、


「……予定は本当に良かったのか?」

「別に今日じゃなくても構わないからね」

「そっか」

「ユキトは、こんな風にいつも活動しているのかい?」

「たまに、だよ。仕事というには頻度が少ない。それに俺が仕事をする範囲は親族が勤務する警察署の周辺だ。それほど広いわけじゃない」

「その広くない規模でも、それなりに仕事が入るわけだ」

「そうとも言えるな……」

「今回は人気のない場所だけれど、逆に人が多い場所はどうなんだい?」

「一般的に人のいる場所ではこうした事件は発生しにくいよ。それについて調べた結果、どうやら魔力の滞留が根本的な問題らしい」

「滞留?」

「魔力というのはこの世界にも大気中に存在している……科学的に分析ができないけど、少し意識をすれば俺達なら感じ取れる。で、人とか動物とか……そういう存在が活動すると、大気中に漂う魔力は風なんかに乗って移動する。そして、移動している魔力は基本的に害がない」

「でも、魔力が滞留すると……」

「異世界では、滞留した魔力によって魔物が生じるケースもあった……それに、迷宮だってそうだ。あそこは『魔紅玉』があれば魔力の塊みたいな場所で、だからこそ、魔物が多数発生した」

「なるほど……つまり、動きのない場所に発生しやすいと」

「そうだな。後は人や動物の遺体なんかに残っていた魔力が、変化して問題を起こすパターンかな。こういうケースを考えると、自然の中だけじゃなくて例えば墓場とかに起こりやすいというのはわかるよな?」

「そうだね」

「今回は自然発生した感じだから、対処はそう難しくないとは思うけど」

「魔物、ではないのかい?」

「さすがにそんな規模じゃない。魔物が発生するプロセスは俺もよくわからないけど、たぶんこの世界で魔力を操る人物がほとんどいないから、魔物が発生するようなくらい魔力が固まるってケースがないんじゃないか?」

「僕ら人間が魔法をつかわなければ……か」

「この世界の人々は科学技術を発展させてきた。その結果、生活は便利になったけど様々な問題も生じた。環境問題とか、資源問題とかが代表例だな。何かを生み出せば、メリットと共にデメリットも生まれる……そういう話なんだと思うぞ」


 ユキトはそう言った後、一度立ち止まった。最初の目的地である雑木林が、とうとう目の前に現れた。


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