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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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来訪者の選択

 帰還後、雪斗達は盛大な歓声をもって迎え入れられた。戦いが今度こそ終わったのだという思いから、ナディを始めとした仲間達も声を張り上げ喜んだ。

 そして雪斗は改めてジークへ報告を行った。『魔紅玉』の完全破壊と、それに伴う魔神の消滅。ジークはそれを黙って聞き入れ、雪斗達へ労いの言葉を告げた。


「様々な犠牲の果てに……そしてこの国にとって重要である迷宮の消滅。思うところはあるが、まずは喜ぼう……この戦いに勝利したことを」


 謁見後、雪斗は単身いつもの場所でジークと顔を合わせた。そこで彼は、


「これから大変になる……けれど、本当の意味で邪竜との戦いが終わった。その点については本当に安堵したよ」

「迷宮がなくなった以上、これから国は――」

「元々、あの迷宮の存在で繁栄をしていたなんてこと自体、おかしな話さ。それを正し、あるべき国へと進んでいく……ポジティブに捉えよう。それに、皮肉な話ではあるが邪竜との戦いでこの国は一つ発展への活路を見出しているしね」

「それは?」

「物流の拠点だ。大陸の中央という立地を生かして、交易で栄えていく……他国と比べ保有している霊具も多い。それを後ろ盾として、交易を行う……この大陸内でなくてはならない存在となるべく」

「ジークは責任重大だな」

「まったくだ。でもやりがいはある。リュシールもいるし、何よりカイ達もいるんだ。これ以上にないくらいの船出だよ」


 確かにと、雪斗は静かに頷いた。

 そして残るは雪斗達が元の世界へ帰還すること。これについては色々な方法が模索された。魔神を討伐した次の日から行動を開始し、レーネからは「少しは休め」と言われたほどだった。しかし雪斗は止まる気はなかった。


 その作業は、かなりの労力を使うこととなった――が、邪竜のような脅威となる存在がいなかったことから、作業そのものは少しずつではあるが着実に進んだ。その作業の中に取り立てて障害となるものは見当たらず、ジークを含め国も協力して、およそ数ヶ月で目処が立つこととなった。

 季節は春を迎え、街道に出れば草花が咲き始めた頃。とはいえもし帰還すれば冬に逆戻りなので、その辺りのことは翠芭を含めクラスメイトには言い含めてある。


「さて……ようやく帰れる運びとなったわけだが」


 自室で雪斗は一人呟く。その会話の相手は、頭の中にいるディルだった。


「確認だが、ついてくるのか?」

『もちろん』

「あっちの世界にいても、ディルが求めるものは何もないぞ? それは帰還して一年、身をもって知っただろ?」

『そうかな? 私は色々と楽しいことが一杯あったよ。それに、迷宮で拾われて雪斗と共に戦ってきた……その終わりまで見たいと思う自分もいるし』

「俺が死ぬ時まで? でも、もし俺が死んだら――」

『私はどうするか、だよね? まあまあ、その辺りは心配しないで。なんたって魔剣だからね。雪斗の世界でだって上手くやっていけるよ』


 本当か、などとツッコミを入れたかったが、雪斗はやめた。決意は固い以上、とやかく言うのは野暮だった。

 そして雪斗は翠芭や貴臣と話し合う。題目は記憶をどうするのか。今回の戦いにおいて、霊具を手にして戦場に立ったのは数人。他のクラスメイトは城内で過ごしていただけだ。その彼らの記憶については――


「最終的に、霊具を持たなかった者は、記憶を消すということになった」


 貴臣が告げる。その結論に雪斗は少し驚いた。


「霊具を……理由はあるのか?」

「この世界で見聞きしたことについては魅力があるけれど、持っていても仕方がないというのが理由かな……僕としても、そういう結論に至った理由を聞いているわけじゃないんだ。霊具を持たなかったクラスメイト同士で話し合い、そういうことになった。誰の口から出た言葉なのかもわからないけれど……」

「……そうか。そこについてはみんなの意見を尊重するよ。俺からとやかく言う権利はない」

「そうだね。なら後は魔法が上手く成功するかどうか」

「俺はディルがいるし、記憶の保持は容易だろうけど……記憶をそのままにすると決めても、そうはならない可能性だってあるからな」


 雪斗は腕組みをする。魔法を使って生還者が元の世界へ帰った場合、どうなるかわからない。雪斗の場合はディルがいたことから例外と見るべきであり、送還魔法に記憶を保持する術式が組み込まれても、成功するかどうかは不明瞭だ。


「ま、ここは魔法が成功することを祈ろう……で、貴臣や翠芭が記憶をそのままにする理由は?」

「僕は単純に、この世界における戦いを憶えていたいと思った。それだけだ。ここにいない信人達も同じく」

「そうか……翠芭も?」

「うん」


 小さく頷く翠芭。その心境はいかなるものか――気にはなったが、雪斗はこれ以上尋ねなかった。


「わかった。ならそういう方向性で。魔法の準備を始めるにしても、最低でも十日くらいはかかるから、もう少しこの城に滞在することになる。何かやり残したこととかはあるか? もしあるなら、期日を延ばしてもいい。そのくらいのわがままは許されるだろ」

「僕は特に」

「私も」

「なら……今日、準備を始めるようリュシールに伝えるよ」


 雪斗の言葉に翠芭達は頷き会話が終わった。

 そして粛々と期間準備が始められる。リュシールなどがあーだこーだと言いながら作業をするのを見て、雪斗は少しだけ戦いのことを思い返した。


(色々なことがあったけれど……)


 まさか再びこの世界に来ることになるとは――けれど、結果的に言えば自分が舞い戻ってきたのは正解だったと雪斗は確信する。


(元の世界へ帰還して……俺も、少しくらいは前進できるのかな)


 前回、たった一人記憶を持って帰還した時、雪斗は言いようのない悲しみを覚えた。けれど今回はそれがない。むしろ前回の悲しみを払拭するようなものを託された。

 それがどう話が転ぶのか――内心ドキドキしながらも、雪斗はそれを表には出さないまま、帰還の日を待ち続けることとなった。


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