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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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巨悪

 視界が完全に真っ白になる中で、雪斗は唯一自分が握るディルの感触だけを知覚できた。凄まじい魔力が迸ったことだけは明瞭であり、これで通用しなければ――という不安が頭の中に生まれた。


(でも、これなら――)


 わずかな期待と共に、光が収まり始め、魔力がしぼんでいく。雪斗は剣を振り下ろした体勢を維持し、結果がどうなったのかを注視する。

 やがて視界が完全に戻る。光の剣は消えていたが、剣戟を叩き込んだ『魔紅玉』には、大きな亀裂が入っていた。


「やった、のか……?」


 そう声をこぼした矢先、雪斗は隣に立つ翠芭を見やる。彼女は硬い表情で『魔紅玉』へ視線を送っていた。

 何か予感があるのか、それとも漠然とした不安か――雪斗が問い掛けようとした矢先、パキンと乾いた音が『魔紅玉』から生まれた。


 これは――雪斗が視線を送ると同時、いよいよ『魔紅玉』が崩壊しようとしていた。


「破壊には成功した、けど……」

『まだよ』


 リュシールの声が雪斗の頭の中に響いた。


『確かに破壊には成功した。でも、魔力は残っている』

「何かあるな」


 迷宮の支配者も同意見なのか、鋭い視線を『魔紅玉』へ投げていた。


「これはあくまで霊具。よって本来は天神の力によるものであり、人間に害をなすようなことはしないはずだが――『魔紅玉』は違うらしい。長年、迷宮へ力を与え続けた結果、よくないものが混ざるようになった」

「それは――」


 雪斗が声を上げた直後、迷宮の支配者は小さく頷く。


「そうだ――魔神の力が、滞留する魔力が『魔紅玉』にも入っていた」


 刹那、『魔紅玉』から魔力が溢れ出た。それは漆黒を連想させる不気味であり退廃的なもの。魔神由来のものであると理解した直後、雪斗は剣を振るった。狙いは魔力そのもの。

 空を切る形で魔力へ一閃する。それにより魔力を減じることには成功したが、さらに『魔紅玉』から溢れ出すとやがて人のような形になった。


『……アア、トウトウハカイシタカ』


 ひどく無機質な声だった。雪斗はそこで剣を漆黒へ向け、


「迷宮に存在していた魔力……魔神でいいのか?」

『ソノトオリダ。ワガセキネンノ――』


 魔力が一度大きく揺らいだ。それは何か――体を組み替えているような――


『――そうだ。我が積年の策が、貴様らごときに防がれるとは』


 声が明瞭になった。それと同時に雪斗は目の前の魔力が成そうとしていたことを理解する。


「なるほど、な……迷宮の中に天神の力が存在し続ける。お前は大気に漂う魔力になっても意識はあった。そこで、少しずつ『魔紅玉』へ魔力を注ぎ、我が物としようとした」

『正解だ。いずれ、遙か未来……この私が、世界を蹂躙していたはずだった。迷宮という存在を維持し続ければ、終わっていた。だが、貴様らは破壊した』

「俺達の決断は正解だったわけだ……もう他の魔神はこの世にいない。最後に残ったお前も、ここで終わりだ」

『そうはさせん。貴様らは全て抹殺し、迷宮を再興しよう』


 魔力がさらに揺れる。そこで雪斗は魔神が何を考えているのか把握する。


(俺達をこの場で始末して、迷宮の支配者に成り代わり何事か伝える……相打ちになったとか、適当な理由を作るか? そして再び願いを叶えられるように迷宮を再生させる……か?)


「させないさ、迷宮はここで終わりだ」


 雪斗は告げると剣を構え直す。翠芭もまた聖剣を魔神へ向ける。

 後方では貴臣がいつ何時攻撃されても対応できるよう準備をしていた――全員の気持ちは同じだった。この場で終止符を打つ。


『おとなしく迷宮という存在を認めれば良いものを』

「この世界の人々に多数決をとったら、存続するって意見でまとまったと思うぞ。でも、俺達は違った……悲劇を繰り返さないために、破壊することを選んだ」

『来訪者、か……最後まで貴様らは、私の邪魔立てをするか』

「その言い方……もしや」


 雪斗は声をこぼす。対する魔神は魔力を揺らがせた。それは、雪斗に笑っているような錯覚を与える。


『そうだ。邪竜と呼ばれし存在……それに力を与えたのはこの私だ』


 意思を持っていたと――邪竜が選ばれたのは悪意だと。


『あの時、私だけが外部の魔物ならば外界に侵略できると知っていた。だからこそ、私は邪竜を利用しようと考えた……とはいえ、過去にも似たような試みはあった。しかしそのどれもが、この場所に辿り着くことはできなかった』

「魔物が邪魔をしたから、か」

『そうだ。忌々しい天神の力……この場所の力を御することができないと判断し、中立であるように指定した。私とて、この場所に干渉することはほとんどできなくなった……しかし、外部からやって来た魔物をそそのかす程度のことはできた』

「つまり、お前は全ての根源というわけだな」


 雪斗は冷淡な声と同時に、刀身に魔力を込めた。静かな怒りとなって、目の前の漆黒に対し眼光を鋭くする。


『その点は認めよう。やがて邪竜は目論見通り、世界を蹂躙すべく動き出した……とはいえ、私ができたのはそこまでだ。いずれこの私が喰ってやろうと思っていたが、それより前に人間達が……貴様が、ヤツを打ち砕いた』


 その時、魔力がさらに揺らめいた。今度のそれは、雪斗と同様に静かな怒りを放っているように感じられた。


『異界からの勇者とは、この私も想像の外だった……天神がいない世界など、さっさと消し炭にできると思っていたが、散々たる結果に怒りしかなかった。私としても、貴様らに恨みはある。ここで消えろ』

「よく言うな。無理矢理引っ張り出された分際で」


 挑発的な言動に魔神の魔力がさらに揺らめく。そこで雪斗は、


「お前は理解できていないのかもしれないが、言っておく。お前は追い込まれたからこそ、こうして俺達の前に姿を現した……どれだけ威圧しようとしても無意味だ。俺達は怯むことなくお前を倒す」

『ならばその大言、砕いてやろう。舐めるな人間共。貴様らは所詮、我が憎き敵、天神の力を利用しているに過ぎない。猿真似にも劣るその力で、私に刃向かえると思うなよ』


 魔力が動く――魔神がついに仕掛ける。その瞬間、雪斗と翠芭は同時に動き出した。


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