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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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因縁の場所

 それから雪斗と翠芭は店を巡ることに。最初に入った雑貨店で大小様々な物を見ては翠芭が興味を示し、雪斗が色々と解説するというのを繰り返す。翠芭を含め、今回の来訪者達はこの世界のことをよく知らない――だからなのか、小物一つ解説しても彼女は興味津々といった様子だった。

 道中で雪斗が「つまらなくはないか」と尋ねても首を振る。今更誤魔化すようなこともないだろうと雪斗はそれで納得し、二人は町中を歩き続ける。幾度となく店を巡り、互いに話をして――けれど、やはり踏み込んだ話はできていない。


 それでも少しずつ、隔てている壁を取り払えるなら――と雪斗は思うが、そこで一つ気付いた。


(これはきっと、俺自身の問題なんだろうな……)


 翠芭は雪斗の考えを受け入れる姿勢を見せている。反面、雪斗はあくまで翠芭達に事情を伝えただけで、何も語ってはいない。今の自分がどう考えているのか――それを表明しているわけではない。

 それが果たされない限り、おそらくこの状況は続くのだろう――やがて昼食をとり、今度は翠芭が行きたいと語っていた場所へ足を向けることにする。


「場所はわかるから、先に歩いてもいい?」

「ああ、構わないよ」


 翠芭の言葉に雪斗は頷き、彼女の先導に任せることにした。雪斗は町並みを見据えながら、ゆっくりとした歩調で進み続ける。

 雪斗は翠芭の後ろ姿を視界に入れながら、今後のことを考える。破壊しなければならない『魔紅玉』のこと、カイの記憶のこと――それぞれに課題はあれど、目指すべき道は確定している。後はそれに邁進するだけ。


 これだけ明確になっていれば、雪斗自身心が晴れていてもおかしくはない。実際のところ、邪竜との戦いでこれであればずいぶん楽だっただろう。けれど、今の雪斗は少し違っていた。


(何か……まだ、やり残したことがあるような……)


 それは自分のことなのか、それとも他に何か――考える間に翠芭は進んでいく。やがて先にあるものがわかった時、雪斗は翠芭へ声を上げた。


「……迷宮?」

「うん、そう。いつもは物々しくて、入口とか眺めるようなことはできなかったし」


 彼女が返答すると同時、雪斗達は迷宮前に到着した。開かれた場所だが、人の姿はほとんどない。それは当然の話だろう。ここにはあまりに悲惨な記憶しかない。


「ずいぶんと広い空き地だよね」

「邪竜が出現するより前は、露店なんかも存在していたらしい」


 腰に手を当てて呟く翠芭に、雪斗は応じる。


「迷宮へ入り込む冒険者とか、あるいは観光しに来た人を相手にする店とか……色々と。でも、邪竜の出現により入口付近は危険な場所となってしまった。だからこそ、城側としてもこの場所で何かをやることは……少なくとも邪竜の記憶が染みついている間は、できないだろうな」

「いつか、同じように店が開くようなことはあるのかな?」

「わからない。でもまあ、迷宮内の『魔紅玉』が破壊されて役割を終え、邪竜の記憶が薄まれば……大昔、戦いが存在していたということで観光地になったりはするかもしれない。それがどれだけ先の未来なのかはわからないけどさ」

「観光地、か……」

「俺達が最後に迷宮へトドメを刺すことになったんだ……その未来を俺達が生み出すといっても、決して過言じゃないな」


 雪斗は語りながら迷宮を見据える。幾度となく悲劇を繰り返した、因縁の場所。


「……終わらせなければいけない。そして未来永劫、迷宮が復活しないように処置をする」

「それで、いいんだよね?」

「この国になくてはならない存在だった以上、色々な弊害が生まれてしまうのは事実だ。でも、悲劇を生んだ場所である以上、もう迷宮を野放しにはできないからな」

「……本当に『魔紅玉』を破壊すれば、全てが解決するのかな?」

「それはわからないけど……迷宮の大元が消滅するんだ。そうなることを祈るしかないな」


 理想的なことを言えば、迷宮内に存在する魔神の魔力が完璧に消えれば良い。だが、さすがにそこまで対処するのは厳しい。


「カイ達もいるし、今後迷宮については……対策を講じていけばいいさ」

「そうだね」


 翠芭は頷くと同時に雪斗へ視線を送った。何事かと見返した直後、


「雪斗は……邪竜と戦う間に、どんな風に思った?」

「どう、とは?」

「悲惨な戦いだったのは容易に想像できる。突然召喚されて、戦ったということから理不尽に対する怒りだってあったかもしれない。でも、その上で……この世界で戦って、何か感じたことはあった?」


 ――それは、翠芭なりに踏み込んだ問い掛けだった。元の世界の雪斗ではなく、あくまでこの世界における雪斗のことを尋ねている。ただこれは、彼女がそうすることが正解なのだと確信しているのだと雪斗にはわかった。


(この世界の出来事が……俺を変えてしまったことを、翠芭はわかっているんだ)


「……感じたこと、か」


 雪斗は思い返す。厳しい戦い。カイと共に迷宮を攻略する光景。地上で幾度となく死闘を繰り広げた記憶。

 そうした一連の出来事が頭の中によぎった時、雪斗は半ば理解した。


(そうか……俺は……)


「……翠芭、一つ提案なんだけど、いいか?」

「うん、どうしたの?」

「質問に答えるけど、ここよりもふさわしい場所がある」

「ふさわしい場所?」

「ああ。例えば城内で、お気に入りの場所があるように、この町中でも好きな場所があるんだ。そこへ赴いて話をしてもいいか?」


 翠芭は即座に頷く。ならばと、雪斗は迷宮のある方向へと指を差した。


「なら、ついてきて欲しい。ここからそう遠くはないよ」


 今度は雪斗が先導して歩き出す。それと共に、引っ掛かったような心情の正体に気付いた。


(そうだ……俺は、認めたかったんだ)


 雪斗はそう内心で呟きながら、歩き続ける。それと同時にこれを翠芭へ伝えて大丈夫なのかと自問自答する。


(決して……良い考えではないと思う。でも、俺はこれを言わなければきっと……先へ進むことはできない)


 自然に体に力が入った。けれど雪斗は逃げることなどせず、翠芭と共に目的地へと歩き続けた。


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