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白の勇者

「その写真を見てもらえばわかるが、この時点でユキトは昨日使っていた剣――ディルを手にしていない」


 指摘を受け翠芭(すいは)は写真を確認。確かに彼が持つ剣は白い剣だ。


「あれは迷宮内の戦いで得たものだ……罠により窮地に立たされた彼が偶然発見した、意思を持つ剣。ディルの存在により、彼は虎口を脱しまた多くの人類が救われた」


 救われた――翠芭は続きを耳を澄ませて続きを待つ。


「魔剣はその基礎的な能力だけでも相当なものだが、最たる特徴は継続戦闘能力の大幅な向上にある。私達は戦闘の際、魔力を消費することで身体能力や集中力を維持して戦闘を継続するが、ユキトの持つ魔剣はその能力が特に強化される。彼単独で、数日どころか十日以上戦い続けることが容易になる」


 ――翠芭は昨日の戦いを思い出す。あれだけいた魔物を顔色一つ変えずに対処できたのは、その能力のためではないか。


「その特性により、白の勇者は主に迷宮の中を。そしてユキトが外にいる魔物を倒して回った……各地を転戦する以上、休む時間はほんのわずかしかない。だがユキトの魔剣は少しばかりの休憩で戦い続けられる……過酷だったが、その能力によりユキトは剣を振るい続け……やがて『黒の勇者』と呼ばれ、大陸中にその存在が認知されるようになる」


 漆黒――傍目から見れば魔物に近しいようにも思えてしまう出で立ちだが、この世界の人々にとっては希望の黒だったのかもしれない。


「黒の勇者が現れたことで、邪竜も苦境に立たされた。人間側が迷宮内と迷宮外の両方で反転攻勢したため、邪竜もさすがに防戦に回らざるを得なくなった」

「そうして魔物達を倒し続けた……」


 翠芭は呟く。レーネは頷き、


「中には、相当大規模かつ、被害の出た戦いもあったが……ユキトのおかげで致命的な事態にはならずに済んだ。その間に白の勇者は迷宮を進み続け……といっても順風満帆などでは決してなかった。迷宮内では進む度に結界を構築してこちらの支配領域を広げるのだが……階層を進める度に犠牲者が一人、また一人と増えていった……それでも彼らは足を止めなかったし、仲間を生き返らせるために戦い続けた」


 ――翠芭はここで一つ思う。きっとこの世界に召喚された時は、単なるクラスメイトだった。けれどこの世界で戦い始め、共に戦う同士として親交を深めた――そんな風に考える。


「迷宮攻略を始め、様々な出来事があった……そして召喚されてからおよそ一年。とうとう彼らは最深部へと辿り着いた」

「レーネさんは、その戦いに参加したんですか?」

「ああ、私もアレイスと共に騎士の代表として、剣を握り邪竜に挑んだよ……とはいえ、私はその戦いの全てを知っているわけではない」


 そう語った後、彼女は一度遠い目をした後、


「邪竜も、この戦いが最後であると予感していたのだろう……持ちうる戦力を全て投入し、まず迷宮最奥へ来ることを防いだ。その結果、まず先ほど名を上げたリュシール様が魔物を引き受け、消え去った」

「消え去った……?」

「魔物は人を殺せばその血肉を食らう。消えたということは――そういうことだ」


 一度翠芭はブルッと震える。恐ろしい場所なのだと、改めて認識させられる。


「リュシール様の犠牲に加えアレイスもまた凶刃に倒れ、ユキト達のクラスメイトもまた一人、また一人と命を落とし……私達はとうとう邪竜のいる最下層へ辿り着いた……そこでの戦いは、筆舌に尽くしがたいほどに、熾烈を極めた。ただ、私はその全てを見ているわけではなかった……戦いの途中で気を失い、意識を手放す寸前、自分は死ぬかもしれないという予感と、猛攻を仕掛ける白と黒の勇者二人が映り――」


 そこでレーネは写真立てに目を落とす。


「次に気付いた時……戦いは終わっていた。邪竜は滅ぶという結末で」


 雪斗達はどうなったのか――多少の沈黙の後、レーネは続きを語る。


「私が見たのは、立ち尽くす雪斗の姿……その戦いで白の勇者までもが命を落とし、ユキトは召喚された面々で唯一、生き残った」


 そう告げると、レーネは小さく息をつく。


「そして、ユキトは魔紅玉を手にして願った……クラスメイトを生き返らせてくれと。その直後、願いは叶えられた……が、生き返ったのはどうやら元の世界だった」

「つまり、彼らは帰還……?」

「ユキト以外、だな。唯一こちらの世界に取り残されてしまったユキトだったが、まだ手はあった。迷宮には邪竜が持っていた膨大な魔力が残っていた……ここでリュシール様が使っていた霊具が活用された。最終決戦前に手に入れた物で、その効果は周辺に存在する魔力を吸収し、魔法を扱うための増幅器……魔神の魔力すら変換するそれを用い、ユキトを帰還させるだけの魔力を確保し、彼を元の世界へと帰した」


 ――そうして、ようやく戦争は終わった。けれど、


「それからこちらは大変だった……陛下は権力を握るグリーク大臣と政争を繰り広げていたが、リュシール様とアレイスは共に陛下に尽くす存在だったからな……けれど、大臣をどうにか残る私達で抑えていた……しかし今回、君達が召喚されてしまった」


 ここで、貴臣(たかおみ)が小さく手を上げる。


「その、経緯というのは?」

「……戦いの後、二度とこんな悲劇を生まないために魔紅玉は迷宮の外へ出し、厳重に管理されることとなった。しかし誰かがそれを偽物か何かにすり替え、再び迷宮に設置し魔物が現れ始めた。結果、今度は外にいる魔物が活発化して、大臣はそれに乗じ君達が召喚された、と……すり替えもおそらく大臣の仕業だろうが、証拠はない」


 事情はわかった――翠芭は考える。ならば自分達は何をすればいいのか。


「今回の戦いは不可解な点もある。ユキトがその辺りを解明してくれるだろうから、その後どうすればいいか、身の振り方を考えよう」


 レーネは告げる。そして小さく笑みを浮かべ、翠芭へ問う。


「ユキトとは、あまり交流がなかったか?」

「え……?」

「ユキトが元の世界に帰還しどうなったかはもちろん知らないが……君達の服装から、彼は前の学校とは違う場所に通っているのはわかる。もし帰還したのなら、ユキトは絶対クラスメイト達と共に過ごすことを選ぶだろう……そうではないということは、何かあったはずだ」


 雪斗は無事だと言っていた。けれど、何か事情があるのか――


「また、彼は召喚される前は他のクラスメイトとあまり話さない、一人でいることの多い人物だったらしいからな……もしかすると学校が変わっても同じなのか、と思ったんだ」

「あ、はい……そう、ですね」

「名前も知らないんだろう?」


 図星だったので、翠芭達は思わず身じろぎした。それにレーネは笑う。


「そこについては、以前召喚された時と同じだな……もしかすると帰還した後、クラスの面々と深く関わらなかったのはこちらの世界の出来事や、帰還以降の出来事に関係しているのかもしれないな……そう申し訳なさそうな顔をする必要はないと思うぞ」


 しかし、翠芭としてはなんとなくばつが悪い。それはどうやら貴臣も同じらしく、微妙な顔をして頭をかいており――


「……セガミ」

「え?」

「名はセガミ、ユキトだ。君達が扱う言語……漢字についてはわからないから、そこはなんとかしてくれ。そして都へ戻ってきたら、労ってやってくれ」


 レーネは微笑を見せ――翠芭は、小さく頷いた。


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