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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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気分転換

 より信頼関係を構築する、というのは理解できた。とはいえ、雪斗としてはそれがどのような行動なのか、疑問を抱く。


「えっと、具体的には……?」

「やり方はそちらに任せる」

「そんな無茶な……」

「重要なのは、互いの心境などを明かして、きちんと理解することだ。ユキトはきっと、今回の当事者達に対しあまり深入りしないように動いていただろう?」


 それは正解であり、ユキトも素直に首肯する。


「そう、だな」

「スイハとしては、聖剣使いとしてやらなければならないという責務のようなものは感じていたはずだ……僕のように。ただ、今回はそれとは別に解決できる手段が存在していた。結果的に僕が仕込んだ策も効いて、互いの心にあまり踏み込むことがないまま戦いを終えることができた……邪竜との戦いについてはそれでなんとかなった。けれど、今回はそうもいかない」

「文字通り、全身全霊で立ち向かわなくてはならない……」

「そうだ。だからこそ、信頼関係を築くために色々と施策を考える必要がある……とまあ、堅苦しい表現だとそういうことになるのだけれど、僕が提案するのは極めてシンプルなものだ」


 どういう――雪斗が疑問に思う間に、カイはニッコリと笑う。


「単純な話だよ……二人で一日町でも散策するといい。その中で、思いの丈をぶつければいいさ」






 翌日、雪斗はカイの提案によって、半ば強引に翠芭と共に外へと送り出された。否、放り出されたと言った方が正しい。


「さて……どうしよう」

「どうしよう……」


 二人して互いに困惑する雪斗と翠芭。とはいえ、雪斗自身目論見は十二分に理解できる。


(思えば、俺はクラスメイトと異世界における立ち位置でしか接していないからな)


 元の世界における出来事で、雪斗はほとんど関わりを持たなかった。それは半ば意識的でありはしたが、そうした状況では現状『魔紅玉』を破壊するには厳しい。よってカイは今回のことを提案した。

 実際のところ、雪斗としては果たしてどこまで踏み込んで良いのかという疑問もあった。雪斗自身のことを話すにしても、基本的には今いるこの異世界に関わりのあることばかり。雪斗がなぜ仲間達から離れた理由も、結局は異世界にまつわる出来事。


 つまり、元の世界の立場などは一切話していない――必要なかったということもあるが、これではさすがに内心に踏み込んだとは言えないだろう。


(ただ俺はこの世界の出来事が衝撃過ぎたから価値観が変わった。だからまあ、この世界の出来事そのものが俺のアイデンティティと呼んでも差し支えないくらいになっているけど――)


「あの、雪斗」


 立ち尽くす翠芭は、雪斗の名を呼ぶ。


「私、町中なんてほとんど知らないけど……」

「あ、そうだよな。一年以上過ごしている俺が先輩か。なら、知っている店なんかを回ろうか」

「うん、それでいいよ」


 彼女の同意と共に、雪斗は歩き出す。それに追随する翠芭は、すぐに声を上げた。


「あのさ、雪斗……今回の戦いだけど」

「何か不安があるのか?」

「不安というか……今回カイさんが提案したのは、どちらかというと精神的なものだよね? 本当に効果があるの?」

「多少なりともあるさ。霊具は使用者のメンタルもかなり影響が出るからな」

「でも霊具って……」


 精神状態を安定させる機能も存在している――と翠芭は言いたかった様子だが、雪斗は小さく首を縦に振り、


「翠芭の考える効果もあるけど、本人にやる気があったりする方が、さらに性能を高めることができるようになるからな……スポーツとかでもそうだろ? 心構えが違うと、動き方とかも変わってくる」

「……なるほど」


 翠芭なりに納得はしたのか、そうした返答が来た。


「でも、私なりに色々と考えていると思うんだけどな……」

「その辺り、カイもわかっていると思うぞ。で、今回の話だが、俺達二人が協力して『魔紅玉』を破壊するって形だから、より内面に踏み込んで互いを理解した方が、やる気も上がるってことさ」

「そう」

「まあなんというか、人に言われて仲良くしろって言われると、なんだか違和感あるけどさ」


 翠芭は素直に頷いた――彼女自身、雪斗を信頼していることはわかりきっている。それだけでは足らないのかと顔に書いてあった。

 例えばカイは恋人になれと言っているわけでもない。絆を深め協力することになれば確かに強いはずだが、そう指示されてなれるようなものでもない。


(一定の信頼関係は存在する。でも、互いを深く理解しているわけじゃない)


 そこをカイは見抜いていた。おそらく並んで町を一日歩けば、それなりに関係を深めることができる――そのくらいに思っているに違いない。

 雪斗は町を見回す。自身のことは顔が知られているため、声を掛けてくる人間がいてもおかしくないのだが、誰も接近することはなかった。配慮しているのだとはっきりとわかる。


(確か、前回の戦いの時も同じだったな)


 激闘をくぐり抜け凱旋したときは、沿道から歓声を上げ雪斗のことを称えた。けれど街へ繰り出してみると、まるで同じ町の人間であるように接してくれる。その立ち振る舞いに雪斗は内心感服したのを憶えている。


「……色々と店は知っているけど、どこか行きたいところはあるか? 書店? 雑貨屋?」


 雪斗は翠芭に問い掛けると、彼女は一考する。


「うーん……なら雑貨店へ行こうかな。この世界の商品に少し興味あるし」

「城にいたらそういうこともわからないからな……であれば、そこへ向かおう。少し歩くぞ」

「うん、わかった」


 そこから雪斗とスイハは無言で歩を進める。町にいる人々は明るく、雪斗もまたそうした表情に当てられて心が明るくなっていく。


「……思えば、根を詰めすぎていたかもしれないな」


 雪斗はそう告げると同時、内心でカイに感謝した。


「気分転換も悪くない。ずっと眉間に皺が寄るような訓練とかばっかりだったし、それだけというのもストレスが溜まる」

「それは、確かに」

「カイはどこまで考えて今回の提案をしたのかわからないけど……ま、リフレッシュにはなるか」

「……あ、そうだ」


 ここで思い出したように翠芭は発言した。


「一つだけ、行ってみたいところが」

「ああ、構わないよ。どこだ?」

「とりあえず、雑貨店へ。時間はあるし、町を見て回りながら折を見て言うよ」


 その言葉に雪斗は何の疑問も抱かず「わかった」と了承。二人は到着した店へと入った。


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