やってもらいたい事
リュシールとディルが色々と調整を行いながら、作業は進んでいく――のだが、雪斗の予想通り思うような形にはなっていない。
「これ、大変だな……」
『最初の段階でつまづいてしまったわね』
雪斗の頭の中でリュシールが声を上げる。ディルと話しながら作業をしている様子であり、力のあり方などについて協議しているようだが、成果は芳しくない。
『この状況下では、スイハと連携するなんて夢のまた夢ね』
「全身全霊とは程遠いからな……霊具であるディルとの相性が悪いのか?」
『魔力的な相性は決して悪くないわ。問題は、私の方が特殊すぎて、霊具の特性の範疇を超えていることね』
「……どういうことだ?」
『いかに霊具とて、天神そのものに対して大きく作用できるような力の解放は難しいということね。ただ相性は良いから作業を繰り返してベストな形を見つけ出すことは可能だと思うわ』
「ならリュシールとディルの二人に任せるけど……俺はどうすればいい?」
『そうねえ、ひとまず私とディルとで話し合いをするから、自由行動にしていていいわよ』
予想外の言動だった。雪斗としては逆に困惑し、どうすべきなのか立ち尽くす。
その間に『神降ろし』が解除されて、ディルとリュシールが姿を現す。両者とも難しい顔をしていたが、不安は決してなさそうだった。
「それじゃあ話といきましょうか」
「わかった」
リュシールに返事をしたディルは、雪斗へ一度顔を向ける。
「申し訳ないけど、時間が掛かるよ」
「了解した……なら結論が出るまで俺は俺なりに試行錯誤してみるよ……リュシール、どの程度掛かりそうだ?」
「こればっかりは試してみないとわからないわね。ただ、お互いの力が反発しているのとは違うから、いずれ何かしら結論が出せると思うわ……遅くて数日以内かしら。ただしそれは」
と、リュシールは相変わらず巫女服姿のディルへ目を向けた。
「真面目に作業を進めたらの話だけど」
「そのくらいはきちんとやるよ……前から思っていたけど、リュシールって私に容赦がないような気がするんだけど」
「そうかしら? ただ、霊具という存在である以上、他の人々への対応とは少し違うかもしれないわね」
「それで片付くかなあ……?」
「二人とも、大丈夫なのか?」
雪斗は思わず疑問を呈した。魔力は問題なくとも、性格的に難があればそれだけでも連携に支障が出るのだが、
「ああ、大丈夫大丈夫」
と、リュシールは手を振りながら応じた。
「こっちは上手くやっておくから心配しないで」
「……そのコメント、不安しかないんだが。ディル、ちゃんとやれるか?」
「子どもじゃないんだから」
リュシールに対し思うようなところはある様子だが、それでも問題はないとの言葉。両者がそう言うのであれば、雪斗としても追及はできない。
「なら、俺は別所で鍛錬をやることにするよ……目処が立ったら教えてくれ」
両者はそれに頷き、雪斗はその場を後にする。距離を開けてカイと翠芭が何やら話し込んでいるのが見え、聖剣の力を引き出すべく尽力しているのがわかる。
雪斗は数度剣を素振りして、剣を構えた。ディルは外側に出ているが、霊具の能力については問題ない。魔力を流し、武具の反応を確かめながら心の中で思考する。
(ひとまず、リュシールとディルの連携ができたら……問題はどの程度の期間かかるのか、だな。俺と翠芭が並び立って『魔紅玉』を壊せるようになるまで……それだけの力を引き出せるようになるまで、果たしてどのくらいの時間必要なのか)
邪竜という脅威が去った以上、時間的な制約はそれほど厳しくはない。無論『魔紅玉』がいつ何時暴走するのかわからない以上、早い方がいいのは事実。
けれど、焦って目標まで到達できなければ意味はない。ならば雪斗はどうすればいいのか――剣へ魔力を注ぎつつ、それをひたすら考える。
「おや、どうしたんだい?」
そんな折、カイが声を掛けてくる。そこで雪斗は聖剣を握り佇む翠芭の姿を目に留め、
「そっちはいいのか?」
「聖剣の中に存在する魔力を探る……まずはそれを実行している途中だ。言ってみれば霊具との対話……ユキトの場合はディルと意思疎通ができるから、その必要性も薄いけど」
「まあ、な。もっとも、意思を持っているが故にリュシールと色々上手くいかないみたいだけど」
「一長一短というわけか。ま、初日だしこんなものだろう。今は『魔紅玉』破壊のため、足場固めをしているという認識で良いと思う。まだ焦るような時間じゃないしね」
「それならいいけどな……」
ここで雪斗はカイの視線が気になった。なぜなら自身のことを凝視していたためだ。
「どう、したんだ?」
「いや、そうだな……もう一つばかり、連携のためにやっておきたいことがあるな」
唐突にカイは話し始める。それが何かと尋ねるより先に、カイは口を開いた。
「ユキト、訓練についてはどの程度掛かりそうだい?」
「先が読めない状況なんだよな。リュシールとディル次第ではあるけど」
「私達の見解としては」
と、聞いていたのかリュシールが声を上げた。
「時間が必要ね。とはいっても精々一日二日くらいだけれど」
「その間は暇になるって事か? まあそれならそれでいいけど……」
「ならユキトはその間にやってもらいたい事がある」
カイはユキトの目を真っ直ぐ見ながら言及した。
「といっても別に難しいわけじゃない。そもそも戦闘するようなこともないから、そういう意味では安全だ」
「何をすればいいんだ?」
「リュシールとディルとの関係性……これらを見るに、例えば完全に力を発揮するためには信頼関係が必要だというのはわかってくるはずだ。ユキトとリュシール、ディルとユキト、そしてリュシールとディル……それぞれが一体とならなければ、攻略は難しい」
「それはそうだが……」
ユキトはどういう提案が来るのか半ば予想することができた。
「わかっているよ、いずれ今の問題を克服することくらいは。だけど肝心の、力を高め合う者同士もまた、きちんと信頼関係を結ばなければならない」
「翠芭と、ってことだよな?」
「そうだ。聖剣所持者であることと、ユキトがこの世界へ一度来ていたことから、互いに顔を合わせ信頼関係を築いてきたはずだ。けれど、それでもまだ足らない。よって、さらに深く……互いのことを知り、関係を深める。それにより、連携が確固たるものになると思うんだ――」




