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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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事態の進展

 翠芭達は一度城へ戻ることになった。カイとは一度別れを告げて、次は雪斗にどう説明するのか――それを決める必要がある。


「カイ達の記憶が眠っている場所まで案内するのは容易だろう……そこから先は、カイに任せるしかないな」


 城に戻って会議室で相談した際、開口一番にレーネが述べた結論はそれだった。翠芭にとっては前回召喚された人との出来事にあまり干渉できないと思ったので、言及は控えた。


「ただまあ、あの場で話をしたカイであれば、きちんとユキトを救うことはできるだろう……こんな言い方をすれば、当然ながらユキトは怒るだろうが」

「そうですね」


 翠芭は同意する。雪斗の抱えている悩み――本人が取るに足らないことだと語っているが、心の奥底で深い傷となって刻みつけられている。

 この世界で戦った者達の記憶に触れて、変わるかどうかはわからない。ただ、一つ言えるのは――現状を打破するきっかけになるかもしれない、ということ。


「カイ達がどういう形でこの世界に関わっていくかについては、これから話し合いが必要だ。グリーク大臣とかが生きていれば面倒なことになっていたかもしれないが、少なくともそういうことにはならず、諸国も歓迎するだろう」

「勇者達が残ってくれていたから、喜ぶですか?」

「それもあるが、なんだかんだで彼らは慕われていた。世界を救っていたのだから当然と言えば当然だが」


 レーネはそこまで語ると、リュシールへ顔を向ける。


「大変でしたよね」

「そうね。世界を救った者達……この世界に残ってもらうため、あの手この手で勧誘していたわね」


 それについては至極当然だと言えるわけだが――


「カイは元の世界に戻るとはっきり明言していたわけだけど、それでもなお私達の国を含めて色々と食い下がり続けた……戦いの結果を考えれば、来訪者達がどういう結論を出したとしても変わらなかったわけだけど……残ってもらいたかった」

「実力があるから、というのが一番の理由ではあったが、何より大きかったのは全員が人格者であったことか。世界を救うために、人々の期待を背負って戦っている……そこに欲望はほとんど存在しなかった。ただひたすら、『魔紅玉』にクラスメイトが蘇るよう願うため、頑張っていた姿だけがあった。だからこそ、彼らは多くの人に支持された」

「スイハ達も、より活躍していればそんな話もあったかもしれない」

「私達が……ですか」

「ああ。ただまあ、前回と違うのは来訪者達の処遇をどうするか、より厳格になった点だな。余計な干渉はしないようにして、できる限り配慮はしている。前回は状況が状況だっただけに、全員が霊具を持ち、率先して戦っていたことも大きかったが……思った以上に深入りしていたからな」

「政治の場に、ということですか?」

「そうだ。来訪者全員が、失った仲間を取り戻すために戦っていた……その姿に、この世界の人々は心を打たれたわけだ」


 レーネは肩をすくめる。そしてリュシールは苦笑した。


「それを見て、諸国はユキト達を優遇したわけだけど……当然そこには下心もあった。というより、それが目的かもしれないわね」

「中には元の世界に戻らず、この世界で生きていくのだと考え、カイ達と付き合っていた者さえいたからな……カイなどは明確に元の世界へ帰ると言っていたのにこれだ。各国がどういう動きをしたか、想像することはできるだろう?」

「そうですね……なんというか、大変だったのは理解できます」


 レーネとリュシールは力強く頷いた。


「話が逸れてしまったな……カイ達の記憶が存在し、それに天神の力が加わればこの世界に居続けることができる……が、それはあくまで天神の力を利用したものであり、彼らは国々が登用できるような存在ではない」

「そうね。よって、事前にどうするか決めておかなければならない……カイ達がどのような結論に至ったとしても、今から準備する必要がありそうね」


 リュシールの結論にレーネは首肯し、


「カイ達のことについてはこれでいいでしょう……そして、残る問題ですが」

「カイ達の手を借りて対処すべきかしらね……ひとまず、目標へ向け前進しているのは確実よ。場合によっては、想定しているよりも早く、元の世界へ帰れるかもしれないわ」


 確かにカイとの話し合いで得られた情報は、希望に満ちたものだった。『魔紅玉』のことを含め、これから長い戦いが待っていると思ったところにこれだったので、翠芭としては嬉しい内容だった。

 それはレーネやリュシールも同じらしく、話をする表情は明るい。このまま何事もなく進んでくれれば――と思うのだが、


「最大の脅威は、やはり『魔紅玉』の破壊ですね」


 レーネがリュシールへ告げる。


「カイもその難しさは語っていましたし」

「そうね。迷宮という存在を形成するだけの力を持つ……天神と魔神の魔力に影響を与える以上、そう簡単にはいかないわね」

「元の世界へ戻る手段については、多少なりとも時間を掛ければ……魔力があればいけそうですけど、やはり『魔紅玉』が鬼門ですか」

「ここは入念にやる必要がありそうね。元の世界へ戻るための準備と、平行して作業をこなしていくことになりそうかしら」

「その中で、私は何をすれば?」


 翠芭の問いにレーネは顔を向け、


「スイハを含め、現役の霊具所持者は『魔紅玉』破壊に注力してもらうことになるだろう。元の世界へ戻る手はずは、カイ達の協力もあるからな」

「特に、聖剣を持つ私は……」

「必要になるだろう。おそらくこれが……最後の戦いになるだろうな」


 最後――邪竜との戦いも終えて、いよいよ旅の終わりが差し掛かっている。しかし最後に待ち受けるのは、誰も試したことがない、この世界の至宝を壊す行為。

 本当にそれができるのかすらもわからない。けれど、二度と邪竜のような存在を生み出さないために――この国を繁栄させてきた物を、あえて壊そうとしている。その覚悟が、翠芭にも理解できる。


 なおかつそれがどれほどの苦難であるのはレーネ達の様子を見ていればわかる。ならば、自分は――


(できる限りのことを、ここでやらないと)


 そんな決意を胸に秘めながら、翠芭はレーネの返答に小さく頷くこととなった。


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