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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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三つの問題

「まず、僕らの本体は既に目的を果たした。よって、僕達がここに留まる理由はない」


 そうカイは前置きをする。それは翠芭も同意するところだが、


「とはいえ、記憶と魔力だけとはいえ、僕は紛れもなくカイであることは間違いない。だからまあ……人間としての性を考えれば、死にたくはない……消えたくはないというのが本音かな。けれど、僕らは本来異世界の人間だ。いてはならないのではないか、という疑問も存在する」

「元々、私達があなた達を連れて来てしまった」


 カイの言葉に対し反応を示したのは、リュシールだった。


「そんなあなた達に対し、私達が残るなと言うわけがないでしょう?」

「……そう言ってくれるのは、嬉しいけどね」

「この世界のために戦ってくれたあなた達を邪険にする人は、存在しないわ。むしろ、こういう形でも残ってくれているというのは、嬉しいわね」

「そんな解釈もできるのか……ふむ、残ることに問題はない、か。ただ、もし僕達がこの世界に留まり続けるとしたら……」

「私のような形で、ということになりそうね。天神と同じように魔力を得て……それを全員に施す必要性があるから、時間は掛かるわね」

「具体的にはどのくらい?」

「全員にやるとしたら、数年単位になるかしら。ま、これについては処置の難易度が高いわけではない。だから、時間を掛ければ対処できる問題で、やっても大丈夫よ」

「そうか……なら、一度僕らは僕らで話し合ってみることにしよう」


 この場に残る者達で、話し合う――翠芭は口を挟むことはできないし、まだ彼らの判断なので、ただ無言に徹するしかない。


「ま、急がなくても良い話だから、ゆっくりとやればいい……そして残る問題についてだが」

「『魔紅玉』そのものを破壊するための手法、何か考えついているのかしら?」


 リュシールからの疑問に対しカイは肩をすくめる。


「僕自身は……というより記憶を封じ込めた段階の僕は、まだ『魔紅玉』を目の当たりにしていない。ただ、邪竜のような存在を出さないために、そういう選択肢も考慮はしていた。だから、通用するのかわからないけれど――」

「手段は考えていた、と」

「ああ……『魔紅玉』は、結局のところ迷宮と深く結びついている霊具だ。霊具である以上は、破壊できる可能性はあると思う」

「ただ、膨大な力を持っている以上は……」

「それだけ破壊困難であることを意味している……しかも『魔紅玉』そのものに異変が生じているような形だ。もし破壊するにしても、周辺に被害が及ばないようにきちんと処置をする必要がある」

「どのようなやり方で?」


 レーネが問う。そこでカイは、


「迷宮内で作業をするとして……最大の問題は、『魔紅玉』を破壊することで、邪竜のような存在が出てしまう可能性があることだ」

「邪竜のような……『魔紅玉』の力が拡散して、魔物に入り込むと?」

「そうだ。迷宮内で作業をする以上は、どれだけ結界を施しても迷宮に影響は出るだろう。最悪なのは、『魔紅玉』を破壊したまではいいが、その力の残滓が迷宮そのものに宿ってしまうこと。こうなった場合、迷宮自体が機能しなくなったとしても、残滓の魔力が悪さをして魔物に影響を与えてしまう危険性がある。まして迷宮内に滞留しているのであれば、それが地中を通して地上に影響を及ぼす可能性がある……」


 と、そこまで語るとカイは腕を組んだ。


「邪竜は『魔紅玉』に願ったためにあれほどの力を得た。だからまあ『魔紅玉』の残滓が邪竜級の力を得る可能性というのは限りなく低いとは思うのだけれど……それでも、ゼロにはならない」

「未来永劫、邪竜のような存在を出さないためには、厳重に処置をする必要がある、ということか」


 レーネは呟きながら思案し始める。


「ふむ、そうした準備をするだけでも時間が掛かりそうだな」

「一朝一夕でやれるわけではない……けれど、この場にいるクラスメイト達の記憶を解放すれば、時間短縮できるかもしれない」

「それは何故だ?」

「『魔紅玉』のことを知らずとも、彼らは迷宮のことなら知っている。魔力を解析し、事を行うにふさわしい場所などを確保することも容易だろう」

「迷宮を把握しているが故に、というわけか……リュシール様、どうしますか?」

「そうね。どういうやり方を選ぶにしろ、この場にいる面々を目覚めさせる必要がありそうね」

「とはいえ、調査については霊具も必要になるけれど」

「ま、その辺りは大丈夫よ」


 霊具所持者が現在いるにはいるが、その辺りをどうするかなどについても、リュシールなりに考えがある様子。


「うん、とりあえず『魔紅玉』について方針は決まったわね。では次に、元の世界へ戻ることだけれど」

「これには少なくとも膨大な魔力がいる。元々僕達は『魔紅玉』の願いでクラスメイトを全員生き返らせて、自分達の手で元の世界に戻るつもりだった。一応、その辺りの理論については構築できている」

「なら、まずは魔力を回収するってことでいいのかしら?」

「ああ、それでいいよ。ユキトが良い結果を得られるように祈ることにしよう」

「……確認だけれど、今回来訪した者達全員、戻すことができるのよね?」

「可能だと思う……とはいえ、作業としては『魔紅玉』の破壊よりも大変なものだと考えてくれ」


 カイの言葉にリュシールは頷く。


「なら、最後の問題……ユキトのことだな。僕達が話をして解決するかどうかはわからないけれど」

「彼はこの世界の出来事に捕らわれている……と言えば彼自身憤慨するかもしれないけれど」

「そういう考えで半分正解のような気もするけどね……こればかりは僕が案を出してすぐに解決するわけじゃない。ある意味、一番難しい問題とも言える」

「対策はあるかしら?」

「正直、僕や他の記憶はもうこの世界の住人という扱いでいいだろう。だとするなら、帰る場所があるユキトに対しできることは限られてくる……でも」


 と、カイはにこやかに告げる。


「邪竜を倒すために、共に戦い続けた仲間だ。彼を救うこともまた、果たすべき役目だと考えていいだろう」

「なら、私達はここへ彼を案内する……で、いいのよね?」

「ああ、構わないよ」


 カイの言葉に翠芭は息を飲む。果たして解決するのか――希望と不安が入り混じる中で、話し合いは終了するのだった。


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