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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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記憶と魔力

 雪斗はまだ出先から帰らないため、翠芭達だけで動く。カイ達の記憶が存在しているのは、大陸の端。距離はあるのだが、リュシールが移動手段を手配し、数日後には到達することができた。


「ここね」


 スイハの隣にいるリュシールが述べる。同行者は彼女に加え、レーネもいる。三人だけの移動で、ジークなどは当然ながらこの場にはいない。

 そこは大陸の西側に位置する場所。山に囲まれた窪地とも呼べる場所で、普通であれば絶対に足を踏み入れることがないような所。岩場が形成されているのだが、その一箇所に洞窟の入口らしき穴が空いている。


「どうやってこんな場所を……」

「邪竜との戦いで見つけたのだろう。絶対に誰も訪れることがない……邪竜でさえ、見つけることが難しい場所に、記憶を保管しておく必要性があった」


 レーネが答えながら洞窟へ足を踏み入れる。翠芭はその後に続き、濃密な魔力を感じ取ることができた。

 明かりをリュシールが生み出すと、すぐに全景が見えた。巨大な空間で、ドーム状の構造をしており壁際に人の手で作ったと思しき窪みがいくつも存在している。


 そこから魔力は発しており、翠芭達が来たことで動きがあった。中心にも同様の魔力が存在するのだが、その力が突如膨張したかと思うと、一気に形を成した。


「……これは、馴染みの顔だな」


 そうして変化した姿は、翠芭も見覚えのある男性だった。


「……カイ」


 レーネが名を呼ぶ。そこでカイはにっこりと微笑み、


「ああ、そうだな……ここにはトシヤの記憶か、あるいは本人から直接聞いたのか? あ、悪いけれど僕の記憶は邪竜との決戦前のものだ。いよいよ迷宮へ入り込む……それより少し前だと思ってくれ」

「まだ、大陸に魔物が残っている時期か。そうでなければ、こんな場所を訪れ怪しまれず記憶を保持しておくことなどできないだろう」

「そうだな……他の者達も同じだ。クラスメイト全員の記憶をここで保持したかったけれど、霊具の力を介してだからユキトなんかは無理だった。他にも、記憶保持に成功しなかった者もいるし、迷宮攻略の中盤で思いついた策だから、それより前に倒れてしまった人については、保持できていない」

「そうだか……」


 翠芭は魔力を数えてみた。全部で二十ほど。前回召喚された者達の半分程度といったところだろうか。


「……それで、だ。見覚えのない人物がいるね。もしかして、新たな来訪者……?」

「そうだな、まずは事情を説明しよう」


 レーネは語り始める。邪竜の顛末に加え、再び雪斗が召喚されたことなどを含め、全て。

 邪竜との戦いは全て終わり、問題の内容も大きく変わっている。そうした中で自分達は、解決法の手がかりをここに求めてやって来た――


「……ふむ、決着はついたか。そうであれば本来なら、この場所に存在する記憶はもう用無しとなってしまうのだけれど」

「リュシール様」

「ええ、先ほどの案についてだけれど」


 天神の力を利用し、この世界にカイの記憶を留まらせる。あるいは、残っているクラスメイトの記憶も同様に――


「天神の力さえあれば、僕の体は保持できるのか?」

「受肉に近い効果を得ることができるからね」

「なるほど……本当の僕は既に元の世界に帰還している。なおかつ、記憶を失っている……ユキトにとっては悲しい話だし、ここにいる僕達もまた、複雑な立場に追いやられてしまったか」

「消えるべきだと思っているのかしら?」

「話を聞いた上では、微妙だな……聖剣所持者をこの世界に、というのは確かに僕も同意する。そうでなければそこにいる、スイハさん……だっけ? 彼女のような人物がまた異世界からやって来てしまう。それは避けるべきだと思う。ただ、聖剣所持者を生み出すプロセス……そこについては、例えば僕の記憶がなくとも、システムとして設計することは不可能じゃないと思う」

「それは?」


 リュシールが問い返すとカイは腕組みをした。


「天神の力を使うのは一緒だけれど、僕の力……聖剣を扱う資格についての部分だけ、抜き出してしまう。そうして他の天神に力を譲渡する……これはリュシールとかでもいいけど」

「なるほど、権能を渡してしまえば問題はないと」

「今の僕は魔力で構成されている。よって、聖剣を扱う力だけを分離させることは可能なはずだ」

「それはつまり、あなた自身は消えたいと思っているということでいいのかしら?」


 確認の問い掛けにカイは黙する。彼の本体とでも言うべき存在は目的を果たしてしまった。この場所にいるカイについては、もう戻る場所はない。

 いや、カイ自身が保険として用意している以上、どんな状況で目覚めるにしても、目の前にいる彼や残っている記憶達は、元の世界へ戻ることはできない――悲しい話ではあるのだが、そういう役目を担ってしまった者達だ。それはきっと、目の前のカイは受け入れているはずだが、


「……正直、わからないな。むしろ僕としては、この世界に住む人達が認めるのか懐疑的だ」

「私達が?」


 レーネが聞き返す。そこでカイは頷き、


「記憶と魔力……肉体を失っているとはいえ、僕らが何かしらの方法で受肉か、それとも天神のように高次的な存在となるように動けば、強大な力を得ることになる。この世界の人々が、それを残して良しとするのか? 例えばの話、今の僕らは魔力を抱えてはいるけど、肉体がないため色々な面で弱い。邪な存在がいたとすれば、僕らを利用しようと考えるかもしれない」


 それは――この場に残っているカイ達にとっても、望んだ展開ではないだろう。

 天神に近い存在となってしまえば、少なくとも人間達に利用されることはなくなるだろう。けれどそれは、リュシールのような強大な存在をこの世界に多数生み出すことに他ならない。そうしてまで、この場にいる者達を残すことにメリットがあるのかどうか。


「……なるほど、難しい問題なのは確かね」


 リュシールがカイの懸念に同調する。ここにいるのは全員強大な力を持った記憶達。邪竜との戦いをくぐり抜けた以上、決して人間に仇なす存在とならない――とは思う。しかし、彼らの意思がそうであっても、絶対に最悪の事態にならないとは限らない。


「……あなたは、どうしたいと考えているんですか?」


 翠芭が問う。そこでカイは一考し――改めて口を開いた。


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