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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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残されたもの

「この世界に聖剣を持つ者を、か……迷宮を完全封鎖するのであれば、その必要性も薄いと思うが……いや、将来また迷宮が何らかの形で起動するのかもわからない。加え、抑止力的な意味でもいた方がいい……って感じか」


 翠芭からさらなる説明を聞いたトシヤは、そんな発言をした。


「まあ、それなら役に立つかもしれない……が、あくまで単なる魔力だ。そちらの望み通りになるかはわからないぞ」

「わかっています」

「……ふむ、それなら場所は教えるから、後は王様とかと相談してくれ」


 記憶が入り込んでくる。次の瞬間、現実へと戻った。


「スイハ、大丈夫か?」


 レーネが問い掛けてくる。それに翠芭は「はい」と返事をして、


「色々と、情報をもらいました……ただ、その。王様とも話をしなければいけないかもしれません」

「陛下と……わかった。なら、席を設けよう」


 レーネの言葉に翠芭は頷き、ひとまず記憶との話し合いは終了した。






 そして数時間後、翠芭とジークは小さな会議室で顔を合わせることに。ただ彼とレーネに加え、もう一人その場にはいた。


「なんだか面白そうな話だと思って」


 リュシールであった。仕事が一段落したことで、話を聞きに来たらしかった。

 翠芭は思わぬ人物に少し面食らいながらも、説明を始めた。トシヤからもらった情報について。それを一通り聞いた後、最初に口を開いたのはジークだった。


「カイの記憶がまだ残っている……本当に、あらゆる可能性を考えていたんだな」

「私も知らなかったくらいだし、よっぽど大臣を警戒していたのね」


 と、リュシールが発言する。


「たぶんだけど、邪竜が迷宮から出るとか、何かしら異変が生じたら当該の場所でカイの魔力が動き出す、という仕掛けだったのでしょう。身内に邪竜の手先がいる可能性は低かったにしろ、大っぴらに行動すれば保険があると気付かれると思ったようね。邪竜は結構鋭かったから」

「それで、魔力があれば……目的を成すことはできるのでしょうか?」


 翠芭の問い掛けにリュシールは腕を組み悩み始める。


「うーん、魔力だけ、ということでも天神の力を使えばいけなくもないけれど……」

「難しいと?」

「難しい、というより作業そのものは結構大変ね。邪竜と戦っている時なら、必要な材料を集めることは可能だったかもしれないけど。色んな国が連携し、道具などを融通していたから」

「けれど、今はそういう状態ではない……」

「シェリスを始め、他国の王族が今も都にはいるから、必要なものは取り寄せることができるかもしれないけれど……ね。ただ、問題の一つ……聖剣所持者を将来的にこの世界に根付かせるというのは、十分可能な話になったわね」

「具体的にはどうする?」


 ジークの質問。それにリュシールは、


「簡単な話よ。魔力を注いでカイの記憶をこの世界で確固たるものとする……とはいえ、人間にするというわけではない。例えるなら、天神のような存在にするってことかしら」

「天神のように……!?」


 ジークも驚いた様子。どうやら今からやることは、想像以上に大掛かりだ。


「擬似的に、天神のような超常的な存在とする、といったところかしら。上手くやれば、カイの魔力を利用して聖剣所持者の刺客をこの世界の誰かに付与するようなことまで可能かもしれない」

「それを実行するのは、カイの記憶……彼がそのような能力を身につけても、問題はないだろうとは思うが」

「けれど残った記憶にそれをさせるのは、少し酷な気もするわね」


 と、リュシールはさらに語り出す。


「記憶があるということは、当然人格だって形成されているでしょう。トシヤの霊具であればそのくらいの芸当は可能だから。つまり、この世界に存在する自我の一つと考えることはできるわけだけど……彼はあくまで、ユキトやスイハの世界の人間。邪竜と戦い、元の世界へ戻ろうとしていた人物……それをこの世界に縛り付けるのは、可哀想な気もするわね」

「……雪斗なら、解放してくれと要求するかな」


 翠芭が推測を述べる。ジークやレーネは沈黙し、リュシールもまた同意するように、


「そうね、もう必要のない存在……けれどまあ、話をしてみる価値はあるかしら」

「残っている記憶に対し、ですか?」

「ええ。保険として今も残っているのなら、それはこの世界に存在する者達よ。邪竜を倒したのだから解放してくれと言うのか、それともこの世界のために働くのか……それを、カイの記憶に問い掛けてからでも、結論を出すのは遅くないわ」

「なら、すぐにでも――」

「そうね。ユキトは外に出ているし、彼がいないところでさっさと事を進める方が、話もスムーズにいくでしょう」

「なんだかのけ者にしている気分ですけど……」


 その言葉にリュシールは朗らかに笑い、


「気のせいよ」

「その一言で済ませるんですね……」

「もしかすると、この一事で聖剣については解決するかもしれない。場合によってはユキトのことも。そうであれば、それに賭けてみるべきだ」


 ジークが賛同。ただ次いで彼は苦笑を浮かべ、


「ユキトがこの場の話を聞けば、怒り出すかもしれないが……それに、保険と言っていたな。何かしら、残る二つの問題についてのヒントだってあるかもしれない」

「残る二つ……『魔紅玉』の破壊と、私達が元の世界へ戻る方法ですか」

「ユキトは現在、それらのために動いているわけだが……元の世界へ戻る手法については薄いかもしれないが、『魔紅玉』の破壊については、もしかすると核心的な情報があるかもしれない」

「保険、だからね」


 と、リュシールがジークに続く。


「カイはあらゆることに備えていた以上、『魔紅玉』についても何かしら策があったかもしれない」

「あくまで可能性の話だ。当人が『魔紅玉』を直に詳しく見ていない以上、完璧に解決できるとは思えないが……確か彼は『魔紅玉』についても調べていた。よって、破壊するなどの可能性も考慮していたかもしれない。とはいえ」


 ジークはそこで、肩をすくめた。


「邪竜が潰え、この期に及んでまだ彼に頼ろうとするのは……本当に、情けないが」

「そうね。それを反省し、これからは世界をよりよいものとするため、頑張るしかないわね」


 発破を掛けるようなリュシールの言葉に、ジークは神妙に頷いた――結論は出た。よって翠芭達は即座に行動を開始した。


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