解決していないこと
王と謁見を行った後、雪斗達は一度どうすべきか話し合うことに。小さな会議室を借りて、霊具を持ったクラスメイトが顔を合わせる。なお、この場にはレーネを含めこの世界の人間はいない。
「僕達はどうするべきなのだろう?」
最初に疑問を呈したのは貴臣。それに雪斗は思考を巡らせながら、
「ひとまず、近々に問題が生じる危険性は低い。よって、王から何かしら依頼を受ける以外は、ある程度好き勝手やっていいとは思う……やるべきこととしては『魔紅玉』についてのことと、後は俺達が元の世界へ戻るための手段を見つけることか」
「本当にあるのか?」
そんな疑問が信人から成される。
「元の世界に帰るというのは……結構難しいみたいだが」
「そもそも俺達はこの世界へ召喚魔法によって来訪した。だから異世界へ干渉する術をこの世界は持っている……とはいえ、召喚と送還ではやり方がずいぶんと違うため、非常に難しいのは間違いない」
雪斗はクラスメイト達へ解説を行う。
「召喚する場合は、この世界で聖剣を持つ者を数多ある異世界から探し、引っ張ってくる。それに対して送還は、数多ある世界から該当する場所を選び出して、そこへ戻す……まず俺達の世界を見つけ出さなければならないわけだ」
「探す方法を見つけないといけないってことか?」
「それもある……が、俺達が来たことで縁は結ばれているから、戻す手順を確立するのは難しくはない……と思う。まあここは国側が頑張ってもらうしかないな。問題は俺達の世界を見つけ出してから、そこへ送還するだけの魔力。以前リュシールとかが言っていたけど、召喚よりも送還する方が、より必要な魔力が多くなるらしい」
「だからこそ『魔紅玉』もおかしくなってしまった?」
翠芭の疑問。雪斗は「そうだな」と応じ、
「それだけ世界を渡るためには負荷が掛かるということだな……特に送還については召喚よりも条件が厳しくなる以上は、戻るために必要なものだって多くなるはずだ」
「ひとまず僕らはそれについて調べていくってことでいいのか?」
貴臣の疑問。雪斗は「ああ」と一度は同意したが、
「でも、ヒントとかはさすがに少ないからな……俺達が無闇に調べても大した成果は上げられないと思う。ひとまず邪竜が消えたことで戦いが必要な局面は去ったわけだし、他のクラスメイトをケアしながらゆっくりやるしかなさそうだ」
「僕達はまず、元の世界へ戻るための手段を見つける……というより、その前段階。自分に何ができるのかなどを把握するところから、かな」
「ああ、そういう見解で良いと思う」
雪斗は同意した後、一呼吸置いて、
「脅威がなくなった以上、霊具を持たないクラスメイトに対するケアもやりやすくなったし……無理せずやってもいいとは思う。その中で俺はまず送還に必要なだけの魔力。それを見つけるべく動こうと思う」
「簡単に見つかるのか?」
「わからない。ま、決して大変なわけじゃないさ……今までと比べれば」
雪斗はどこか明るい口調で、仲間達へ告げる。
「レーネとも相談し、今後の方針を決める。俺は一足先に、動くことにするよ――」
* * *
雪斗の言葉を受け、翠芭は自室へ戻り自分に何ができるのかを思案する。聖剣を手にした者とはいえ、戦いがない以上その称号は必要なくなった。よって、戦わなくてもいいし追い立てられることもなくなった。
ならば自分はどうすればいいか……無言でいると、ノックの音が。翠芭が応じるために扉を開けると、レーネが立っていた。
「話だが、いいか?」
コクリと頷き部屋へと招く。椅子に座り丸テーブルを挟んで向かい合うと、彼女は口を開いた。
「まず『魔紅玉』についてだが……ユキトにもここに来る前に話をしたが、おそらく破壊するということでまとまる雰囲気だ。邪竜という存在により迷宮に対する恐怖がある今しか、実行することはできないだろうから、陛下が決断を下すことになる」
「迷宮も封印ですか?」
「そのような形になるな。この辺りは予想できた話ではあるし問題ない。破壊するためにどうするかについては、要検討だが……方針が決まれば諸国も活動に賛同してくれるはずだから、人や技術も集まる。リュシール様の力もあるし、そう遠くない内に手段を得るはずだ」
「わかりました……それを言うためにここへ?」
「いやいや、まずは報告ということだ。次にユキトやスイハにやってもらいたいこととしては……陛下が動かすつもりがないようなので、自由にやれるのは間違いないだろう。ユキトはどうするか決めているようだし、必然的にスイハ達はそれを手伝うかもしれない……ここはそちらで相談してもらえればいい。私達から言うことは何もない」
レーネはそう述べた後、少しばかり口をつぐむ。
「邪竜が倒れた以上、基本的に危ない目に遭うことはないと思うから、心配はいらない。もし何かあれば、私達にすぐに言ってくれればいい。聖剣を握る者として、動きたいという気持ちはあるかもしれないが……本来治安維持などは騎士団の役目だ。邪竜の攻撃で活躍できなかった手前、騎士団は頑張れと発破を掛けられているような状況でもある。だからこそ、こちらが対応するつもりだ」
彼女としては――いや、騎士団としてはプライドもあるのだろう。翠芭としては彼女がそう言うのなら、という思いがあるので、そこについて言及することはしなかった。
「よって、時間は掛かるため来訪者達のケアは必要だが、それ以外の心配はなくなったと言っていい。そのため、私としても今後どうするか考えていたのだが……あることだけ、解決していないと思った」
「あること?」
それは一体、と身を乗り出すような心持ちで問い返そうとした矢先、レーネは翠芭を手で制した。
「時間制限のある話ではあるし、そこまで気合いを入れなくてもいい……が、できることならばこの世界で君達がいる間に解決したい。とはいえこれは、あくまで私的なものだ。陛下が言及し、私が預かったためにやろうかという話になったわけだが」
「それは?」
気になって翠芭が尋ねると、レーネは意を決するかのように発言した。
「こんな風に言うのは、ユキトとしては心外かもしれないが……私達は、彼を救いたいんだ。それに協力してもらえないだろうか?」




