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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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願った結果

 各階層で結界を行使して安全を確保しながら、雪斗達は進んでいく。そうして辿り着いた最深部――結局障害は一つもなく、邪竜との記憶が蘇る領域へと辿り着いた。


「ここが……」


 翠芭が小さく呟く。カイの記憶からこの場については知っているはずだが、実際に訪れることで迫力を抱いている様子だ。

 迷宮の最下層に当たるこの場所は、言ってみれば広大な地下空間。岩に囲まれて単なる洞窟の最奥という風にしか見えない……しかし、雪斗達にとってここは因縁の場所であることは間違いなく、この場所に降り立った時点で様々な記憶を蘇ってくる。


「最終決戦の場だからな。邪竜と戦ったことのあるメンバーは、思うところがあるんじゃないかな」

「私達は思い出ないけどね」


 と、ナディが嫌味のように告げる。そこで雪斗は肩をすくめ、


「その話はもうしただろ? さて、問題は『魔紅玉』だが」


 この空間で唯一、明らかに人工的に形作られた物があった。それが魔紅玉を安置するための台座。迷宮として機能していた際、この最深部へ安置するために人間が用意した物だ。

 そこに、確かに魔紅玉は存在した。名前の通り血のように赤い球体……素材は水晶のようにも見えるが、解明されたことはない。この場所が迷宮として成り立つための核となる物。


 それは、無抵抗に安置されていた。触れればすぐに願いを叶えられそうな状況。雪斗は手を伸ばし、魔紅玉に触れようとした。

 しかし、


「……っ」


 すぐに手を引っ込める。それは魔紅玉から発せられる魔力に、違和感を覚えたためだ。


「さて……どうする?」


 迷宮の支配者が問い掛ける。雪斗はじっと魔紅玉を見据え、黙する。

 周囲の仲間達も魔紅玉に近づいて凝視。そこで、


「……確かに、妙ね」


 リュシールが声を上げる。


「魔力は感じられる。迷宮を稼働させるための力も発動している。けれど……何か、私達が見ていた魔紅玉とは異なる気配を発している」

「この迷宮内の操作をするには、支障がない」


 と、支配者が雪斗達へ口を開く。


「だが、どうやらそれ以外のことを実行した場合……異変が起きるかもしれない」

「これは、どうしてこうなったのかしら?」

「色々と推測はした……結果として、一ついきついたことはある。ただその前に一つ確認すべきことがある。魔紅玉の異変……どういうものなのか、理解できるか?」


 リュシールは一度沈黙した。とはいえ一定の答えは得ているようで、


「例えるなら、そうね。魔紅玉は本来強力な魔力の器であり、絶対不可侵の力を持っていた。けれど今のこれは、何かが混ざっている」

「もしこの状態で願いを叶えようとしたら、どうなる?」

「わからないわね……とはいえこれを元に戻さないと、願いを叶えるのは危険かもしれないわね。下手すると、暴走するかも」


 リュシールの言葉は、これまで行ってきた雪斗達の戦いを否定するものでもあった。目指していたものが使えないとなれば――


「ふむ、その言い回しはおおよそ正解だ。異物が入り込んでいる……この場合、それは物体ではなく魔力だな」

「本来入ってなかった魔力が、入り込んでいるってこと?」


 翠芭の問いに迷宮の支配者は頷いた。


「そうだ。これは私が支配者として顕現したときから……つまり魔紅玉が再び安置された時から、始まっていた。この異常の原因はつまり、安置された際か安置される前に起こっていたことになる」

「……グリーク大臣がやったとは、考えにくいよな」


 雪斗は支配者の言葉を受け、考察する。


「わざわざ大臣が遺物を含めて迷宮を再び戻そうなんて……魔紅玉が使えなかったら、この迷宮を復活させる意味合いはなくなるからな」

「そうね……となると、邪竜との戦いで変質してしまったのかしら」

「それ以上に可能性の高い理屈があるぞ」


 支配者が語り出す。それは何かと雪斗達は言葉を待つことにする。


「邪竜が魔紅玉に細工をしたというのは考えられる……が、前回における邪竜の戦いで魔紅玉を得た際、異常は見受けられず願いを叶えたのだろう? つまり、その時点では何もなかった。邪竜としても迷宮の根幹を成す物である以上、余計な手出しはできなかったはずだ」

「確かに、そうね」

「ならば単純な消去法……迷宮の外へ出され、人間の城に安置されていた時に何かが起きたか。とはいえ人間達は厳重に管理していたはずだ。そもそも、人間の能力によって魔紅玉に変化が生じるとは考えにくい」


 確かに、と雪斗は心の中で同意する。ならば考えられるのは――


「となれば、残る可能性は一つ……前回魔紅玉に対し願いを叶えた。そこで、異変が生じた」

「……俺の願いで、変わったと?」


 雪斗が問い掛ける。そこで支配者は、


「可能性が高いという話……君達の騎士の記憶により多少ながら知っている。異世界からの来訪者……もし君が願いを叶えたのであれば、それは同じ異世界の人間に対して行われたものではないか?」


 はっとなった――確かに雪斗はクラスメイトを生き返らせるよう願った。そしてそれは叶えられ、記憶を失いながらも全員が生き返った。


「……願いの内容が、異世界に関することだった、と?」

「この世界ではなく、異世界の理に干渉する……この世界に縁のあった人物達を蘇生させるとはいえ、魔紅玉としてはかなり無理をした可能性もある」


 雪斗はここで納得した。そうだ――クラスメイト達は全員生き返った。けれどそれらは元の世界での話だ。確かに魔紅玉は人を生き返らせるだけの力を持つ。しかし、そこに異世界の要素が加われば――それは魔紅玉にダメージを与え、異変を与えるだけの理由になり得るかもしれない。


「再度言うがこれはあくまで推測だ……しかし決して的外れな話ではないと思っている。異世界から訪れた人間が、異世界に対しての願いを告げ、魔紅玉が反応した。それは過去迷宮の歴史において存在しなかった例外の出来事だ。ならば異常が起きても、おかしくはないと思わないか?」


 雪斗は押し黙った。支配者の言うことは、おそらく正しい。

 つまり前回、自分が願ったことで――無論、雪斗としてはそれしか選択肢はなかった。けれどその願いが引き起こしたのが今だとすれば、多少なりとも責を感じてしまうのは、致し方のないことであった。


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