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信奉者

 レーネの話が核心に迫る――その一方、雪斗がオークと戦闘を始めておよそ十五分。状況はさほど変わっていなかった。


「はっ」


 軽い掛け声と共に斬撃を見舞うと、オークは等しく一撃で消えていく。この状況を見て敵側は動きを変えてもおかしくなかったが――今のところ何一つ変化はない。


(罠か、それとも右往左往しているのか……?)


 考えながらも剣の鋭さは変わらない。一見すると楽勝な状況ではあるが、相手が魔神の力を所持していることから、気を緩めることはない。


(油断させて、隙を突くってやり方もあるな……)


 仮に――今回魔物を率いる存在が前回召喚された際の戦いを把握しているとしたら、当然雪斗のことも知っているはず。それでもなおこの状況ならば、敵の意図は――

 その時、雪斗は一つ気付いた。オーク達が襲い掛かってくる結果、魔力がひどく乱れている。それに乗じ――雪斗に知覚されないよう、別の魔力が動いている。


(これが狙いか……)


「ディル、どうだ?」


 その問い掛けには主語はなかった。けれど、返答が頭の中に響く。


『あ、私も気付いた。雪斗を中心にして魔法陣を形成しようとしているね』


 つまりオークで足止めをする間に、雪斗に魔法を食らわせる準備をしているわけだ。


(敵は俺が魔物を殲滅するつもりでここに来たことがわかっているな。だからわざと魔物をけしかけ、気を逸らしている)


 取りこぼして外に出られたら面倒。よって雪斗としては殲滅以外の選択はない。


(たぶん俺のことは昨日の戦いで把握していて、ならばとこちらの心理を突いたやり方で罠にはめようとしているってことか。俺としては応じなければならない状況であり、やり方としては上手い)


 ともあれ相手の誤算としては、雪斗が察してしまったことか。


(ま、俺が気付かなくともディルが察したはずだけど)


『雪斗、他に仕込みはないね』

「わかった」


 短く答えオークを叩き伏せていく。気付けばずいぶんと数も減り、大勢は決しようとしていた。


(他に罠がないってことは、この仕込んだ魔法によほど自信があるってことだ。それはおそらく――)


『それで雪斗、この魔法だけど……間違いなく、邪竜関連のものだよ』

「そうか」

『平気なの?』

「大丈夫。このまま攻めるぞ」


 短いやりとりを行った時、とうとう目の前からオークがいなくなる。雪斗は足を止め前方を注視。

 魔法の光量を上げると、正面に人影――といってもそれは当然人ではなく、魔物。加え左右にやや大柄のオークが控え、彼を護衛している。


『ここまで、ずいぶんと派手にやってくれたな』


 洞窟内に響く声――その姿は人に近かったが、それでいて異様だった。

 黒いローブにフードを被った存在で、見た目は昨日戦ったデーモンリッチと酷似している。ただ、その顔つきは病的なほど白いことに加え、鱗でも生えているかのように至るところが盛り上がっている。他に特徴的な点としては、首飾り。紫色の石がはめられた、不気味な印象を与える物。


 さらに、その瞳は真紅――それは雪斗も思い出す眼光だった。


「お前は邪竜の……『信奉者』か」


 その言及に、相手はフードの奥で不気味に笑う。


 信奉者――前回の召喚で雪斗達は邪竜率いる魔物の軍勢と死闘を繰り広げた。そうした中で、少数ではあったが人間からも邪竜に付き従う者がいた。

 それを雪斗達は信奉者と呼んだ――力に魅入られ、人を捨てた存在。


 目の前の敵はまさしくそれで、死に絶えれば魔物と同様砂のように消えゆく。雪斗としてもこうした相手を前回、幾度となく斬り伏せてきた。


「お前が魔物達を率い、都を襲ったのか?」


 質問が返ってくるのか疑問だったが、まずはそう問い掛けた。すると、


『我は偉大なる王の僕だ』

「王?」

『王は貴様らに滅ぼされたと聞いた……しかしそれは嘘だ。いずれ王は復活する。それに備え我らは、王のために貴様らの都を滅ぼさなければならないのだ!』


 ――邪竜を王と崇める存在。まさしく『信奉者』。


「つまり、お前は王のためにたった一人で活動していると……呆れた忠誠心だな」


 その言葉に信奉者はなおも口の端をつり上げ、


『少し違うな……偉大なる王から力を直接賜った主君の命により、私は動いている』


(主君、か)


 もしかすると邪竜が支配下に置いていた存在の生き残りか。


(……こういう表現は気にくわないが、俺はここに舞い戻ってくるべきだったのかもしれないな)


 こうした存在が残っていて、一年経過した今動き出した――経緯はどうあれ、雪斗は戻るべくして戻ってきたのかもしれない、と思った。


『兵を壊滅させた点については正直怒りもあるが、貴様をこの世から消せるのならば対価としては十分釣り合うな』

「勝てると思っているのか?」

『黒の勇者の功績はしかと聞き及んでいる……だが、貴様達の対策をしていないわけがないだろう?』


 ――雪斗はそこで敵の左右に控えるオークを見据える。信奉者を護衛する形に加え、どうやら何かしら身体強化系の魔法が付与されている。さらに既に足下で魔法陣が構築され、魔法を使う準備は整った。

 そこで雪斗は相手の作戦を理解する。


(仮に俺が踏み込んでも左右に控えるオークが止めに入る。瞬殺なのは間違いないが、たぶんここまでの戦闘を解析し、強化魔法によって数秒……コンマ数秒食い止められるだけの力を護衛に与えた。で、そのコンマ数秒の間に魔法発動。俺を始末する、か……退こうとしても即座に魔法を発動すればいいだけだし、俺としてはこの魔法に抗って勝つしかないと)


「……お前らは当然、人間とも繋がっているよな?」


 さらなる問い掛け。それに信奉者はなおも笑みを湛え、


『さあ? どうかな』


(さすがに教えてはくれないか)


「……少なくとも、そちらが情報を得ていることだけは知っている」

『単に魔物を町へ送り込んでいるだけかもしれんぞ? よほど疑っている人間がいるのだな』


 どこか、面白そうに信奉者は語る。


『まあどうあれ、貴様に我が主君の深慮遠謀などわかりはしない。あきらめるんだな』

「そうか……ならその主君とやらを倒してこの馬鹿みたいな戦いをさっさと終わらせるとしよう」

『貴様はここで果てるのだ。我が主君のことなど考える必要はないぞ?』


 大気がざわつく。魔力を発して威嚇しているのだが、それは地面からではなく信奉者自身からやってくる。


(地面に仕込んだ魔力を気取られないようにする措置か。あるいは意識を信奉者自身に向けるためにわざとやっているのか)


 どちらにせよ、今から斬り込んでもオークが止めに入る。その間に魔法を発動させる以上、どう動こうとも結果は変わらないと言える。


(あえて斬り込むか、それとも待つか……)


 結論としては――敵の数を減らしておく方がいいだろうというものだった。

 雪斗は踏み込む。相手にとってみれば恐ろしい速度。しかし信奉者は喜悦の笑みを浮かべた。


『臆することはないか! しかしその蛮勇が命取りだ!』


 オークが動き出す。一時雪斗の視界から信奉者の姿が見えなくなり、即座に雪斗は剣を振った。


 横に一閃された剣戟は、オークの胴体を確実に薙ぐ。それにより双方とも消滅。

 加え雪斗は一つ仕込みをしていた。剣戟に風をまとわせ、オークを斬ったと同時に後方にいる信奉者へ風の刃を食らわせる。


 その目論見は成功した。雪斗の狙い通りの軌道を進み、風の刃が信奉者に触れる。

 だがその直後、パアンと乾いた音が上がった。信奉者は健在――彼が身につけていた首飾りが、破壊される。


(結界か何かか……?)


 あの首飾りが、一度だけ身につけている者を守る。そしてその一度は、信奉者にとっては十分だった。


『我らが王の力を、思い知れ!』


 そう叫んだ直後、洞窟内が光で覆われ――信奉者の哄笑が響き渡った。


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