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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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支配者

 雪斗達が案内によって辿り着いたその場所に、一体の魔物が存在していた。

 見た目は黒い騎士。全身鎧に身を包み剣と盾を持った漆黒の存在であり、雪斗はその中身が単なるがらんどうであると推測する。雪斗が上階から感じていた魔力は間違いなく漆黒の騎士であり、また同時に他に気配は一切ない。


「あれが、試練か?」

「はい、そうです」


 侍女が手を差し出すと漆黒の騎士が一歩前に出た。直後、その後方から新たな気配を感じ取る。

 雪斗達が視線を送ると同時、誰かが広間へとやってくる。魔力は感じられなかったため、魔物の類いではない。だが、


「……ようこそ、迷宮へ」


 現われた人物を視界に捉えた雪斗達は、全員が一様に沈黙した。

 人間の姿であり、特別気配が強いわけでもない。けれど全員が無言となった理由。それは、


「……アレイス」

「それはこの器の名前だろう? 確かに器に名があるとするならば、それが正解なのかもしれないが」


 雪斗が記憶していたものとまったく同じ声と出で立ちで、アレイスが立っていた。


「魔力を発していないのは警戒心を解くためだ……あ、言っておくけれど邪竜の力は所持していない。これはなぜ器がこの姿なのかについて経緯を説明すれば理解できるはずだ」

「……伊達や酔狂でやっているわけではないみたいだな」


 雪斗の指摘にアレイスの器をした存在――迷宮の支配者は頷いた。


「彼は邪竜との戦いで命を落とした……結果、その魔力は迷宮にさまよい邪竜の力を宿した。けれどそれで全てではなかった。次の支配者となる私の器の中にも存在していたというわけだ」

「……アレイスの記憶は保有しているのか?」

「うっすらではあるが。だから人間のような倫理観も持ち合わせている……けれど、迷宮の支配者である以上は、そのように振る舞うつもりでいる」


 雪斗は心の中で呟く。目の前のアレイスは、邪竜のような全てを憎む存在ではない。しかし、この迷宮の主である以上、最大の脅威である。


(もう一度、アレイスの姿をした存在を倒すことになるとは……な)


 彼が知ればどう思うのか――と雪斗が想像を巡らせた矢先のことだった。


「……この器は、ある意味望んでこのような姿をとったとも言える」

「何?」

「彼はおそらく、自分が死ねばどうなるのかおおよそ理解できた……理解できてしまった。自分は死にきれず邪竜に力を乗っ取られるかもしれない――それは現実のものとなった。邪竜が君達の手によって滅ぼされたが、完全に消失するより前にアレイスを器とした。本来ならば、それで終わりだったが……彼は霊具の力を用いて魔力を分散させた」

「それは、邪竜の復活を妨げるためか?」

「そのような役割を果たしたと言えるだろう。実際に邪竜はこの迷宮を我が物とするため活動を始めたが、支配権が私の手にあったために、それは叶わなかった」

「……邪竜の味方となる選択肢もあっただろう?」

「アレイスという人間の意識がそれを拒んだ。ある意味では、彼の意思が生きていると言っても良いのかもしれない」


 最後まで――死してなお、迷宮の懸念のために動いたというのか。

 ただ、雪斗は彼ならやると心の中で断じた。無論のこと迷宮の支配者が人間達に協力的だったわけではない。やったことはこの迷宮へ入り込んだ邪竜への妨害行為だけ。しかし結果としてそれが邪竜の完全復活を防ぐ結果となった。


「さて、器に宿った経緯については理解できたか? ならば次の話をしよう……試練について」

「目の前の魔物を倒すと?」

「そうだ。実力は見定めさせてもらう……それをクリアとしたのならば『魔紅玉』は手放してもいい」


 あまりに異様な展開だった。しかし雪斗達にとっては好都合――


「人数についても自由でいい。この魔物は相当強くしたし、この場にいる全員で仕掛けてもいい……問題はここからだ」

「何?」

「もし『魔紅玉』を手にしたら、何を願う?」


 沈黙が生じる。それを聞いてどうするつもりなのかと雪斗が問い質そうとした時、支配者はさらに続ける。


「異世界へ来訪した者達を帰還させることか? それとも、この世界で生きていくために何かを求めるか? それとも――」


 支配者は一拍置いて、


「……二度とこの世界へ異邦者を召喚させないよう、処置を施すか?」

「その様子だと、俺達がどのように考えているのか察しているみたいだな」

「単純な消去法だ。アレイスのという器の記憶もうっすらと存在しているために、頭に浮かべることができた……ただ、そうだな」


 と、支配者は小さく息をつく。


「問題は『魔紅玉』を手にしてから……と言っても良いな」

「何……?」


 聞き返した直後、雪斗は支配者へ向け問い掛ける。


「もしかして『魔紅玉』に……何かあったのか?」


 だが支配者は何も答えない。話しにくい内容というわけではなく、おそらく「自分の目で確かめろ」という意思表示だと雪斗は直感した。


「……どちらにせよ、試練が終わってからね」


 リュシールが一歩前に出て告げる。そこで支配者は、


「そういうことだ。まがりなりにも私は支配者という立場。奇跡を叶える力を持つ宝玉を得るに足る存在なのか……それはしかと、証明してもらおう」


 ――雪斗は、これまでの支配者とはまるで考え方が違うと思った。案内人の話からすれば、今回の支配者は『魔紅玉』が存在しなくとも存続できる。その事実も関係しているのだろうか。

 あるいは、アレイスの魔力が混ざったことでそのような変容を遂げたのか。それとも他ならぬ『魔紅玉』が変質したことによる変化なのか。


(どちらが先かはわからないが、確実に言えるのはこの迷宮は明確に今までとは違う)


 それは邪竜が支配していた時の迷宮と比較したものではなく、雪斗が伝え聞いた迷宮の歴史においても異端ということ。


(邪竜の支配があったから……その戦いの中で迷宮も『魔紅玉』も変わってしまった……あれほどの戦いだ。迷宮に存在する物事だって変わってしまうのはおかしくないんだ)


 そこは確かに盲点であったかもしれない。迷宮自体の変化――それはこうして支配者に言われなければ気付かなかった。

 黒騎士が雪斗達へ歩み寄る。そこで雪斗も思考を戦闘に戻す。迷宮の考察は後でする――そう胸の中で呟いた時、魔物の魔力が広間を満たした。


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