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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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待ち受ける存在

 雪斗達が魔力を感じ取った階層に辿り着いたのは話し合ってからそれほど経たない内にだった。魔物が出現することもなく、障害一つないままに歩むことができたのは、迷宮の恐ろしさを知る雪斗達にとってはやはりどこまでも異様な状況だった。

 その中でアレイスの偽物と戦った場所。そこに、女性が立っていた。


「お待ちしておりました」


 綺麗なお辞儀をして彼女は対応する。侍女と呼べる格好であり、迷宮内にいる存在としてはあまりに異様だった。

 藍色の髪を持つ妙齢の女性であり、雪斗達としては記憶にある人物ではない。


「……あんたは、迷宮支配者の従者か何かか?」


 雪斗が問い掛ける。それに女性が首肯し、


「そうです。あなた方に事情を説明するべく、主から派遣されました」

「事情?」


 聞き返すと女性はもう一度頷き、


「今回の迷宮……少々複雑な事情があります。我が主は試練を与え、それを果たすことができるのであれば、話をして『魔紅玉』を譲ってもいいと」


 思わぬ発言だった。また同時に、


「――ちょっと待て」


 雪斗が女性を呼び止める。


「それは、迷宮の支配者が消え去ることを意味するだろ?」

「それもまた運命だと主は仰っておりました……が、事情はもう少し複雑です。今回迷宮の支配者となった主は、例え『魔紅玉』がなくなっても生存できる条件を満たしているのです」

「本当、例外ばかりで面倒ね」


 ふいにリュシールが肩をすくめながら呟く。


「なるほど、ここまで魔物がいなかったのは敵意がないことを示し、試練を受けてもらうようにするというわけか」

「そうです。前回……あなた方が邪竜との戦いで訪れた際は、魔物の支配権を多少なりとも邪竜に奪われていました。結果として、あのような形に」

「魔物の動きも邪竜が支配していた時と比べ苛烈さを欠いていた。それは邪竜が支配者じゃないというのも理由にあるでしょうけれど、もう一つ肝心の支配者が協力しなかったから?」

「そのように解釈して構いません」


 決然とした物言いだった。雪斗としては思わぬ展開に少々困惑したのだが、


「……試練というのは気になるが、一つ聞かせてくれ。現在の迷宮支配者の目的は何だ? 『魔紅玉』を渡すようなことを語っている以上、何か明瞭な目的があるんだろ?」

「そこについては私も存じあげておりません。試練を受け、見事それをパスしたのであれば我が主と話をする機会はあるでしょう。その時に話をする他ないかと思われます」


 淡々と受け答えする女性。そこで雪斗は仲間達へ視線を向け、


「どうする……試練というのが罠である可能性もあるけど」

「魔物が大量にいるなんて気配はないのよね。仮に罠だとしても対応はできそうなものだけど」


 これはリュシールの言。雪斗はそこで小さく息をつき、


「まあどうやったって相手のことを信用できない以上、どこかで踏ん切りを付けないといけないのはわかるんだけど……」

「私は少なくとも彼女の言動は信用して良いと思うわ。なんというか、あまりに殺気がなさ過ぎる。というか、信用させるためにここまで招いたのだと思うし」

「警戒は必要だろ?」

「それは当然だけどね」

「……試練というのがどれくらいの難易度がわからないが、少なくとも『魔紅玉』を手に入れることができるかもしれない機会なんだ。やるしかなさそうだな」


 そう雪斗は呟くと女性に振り返り、


「試練は受けるが……どこでやるんだ?」

「もう一つ下の階層で」


 それだけ。気配を探るが、確かに何かしら魔力が存在する。

 魔物らしき気配も存在するのだが、罠と呼べるほどに――邪竜が狡猾に策を用いるほどの濃密さではない。試練が魔物と戦うのであれば、強い個体を一体作成しているだけ、という可能性が高そうだった。


「わかった。ただ、ここまで俺達は安全圏を確保するために結界を使用している。それはこの階層でも使うが、構わないな?」

「そこについてはご自由にどうぞ、と我が主も仰っていました」

「最悪、逃げるだけの余裕はありそうだな……なら、案内してくれ」

「はい、ではどうぞこちらへ」


 侍女が案内を始める。それを追うようにして雪斗達は続くのだが、


「ここまで剣を一度も振っていない……奇妙この上ないな」

「今回の迷宮支配者がなぜこんな風になったのかしら?」


 疑問はナディから。それにリュシールが考察を述べる。


「前回邪竜が支配した際に、外部の魔力がこの迷宮内に入り込んでしまった。なおかつ、歴史上もっとも激しい戦いだったのは確かだし……その辺りの影響により、迷宮の支配者も何かしら特異な自我が目覚めたと解釈できそうね」

「そんなこともあるのね……いや、邪竜との戦いからこの迷宮は例外続き。何が起きてもおかしくはない、か」

「そうね。この国を含め世界はこの迷宮を好き放題利用してきたわけだけど、実際に迷宮のことを知っている人は少ない。そもそも『魔紅玉』のことを含め、迷宮がどういう物なのかを歴史的に知ってはいても、分析したわけではないから」

「歴史的にしか知らない以上、例外が現われればどうしようもありません。前回の邪竜のように」


 イーフィスが発言。それにナディやシェリスは深々と頷いた。


「ともあれ、今回はずいぶんと穏当な戦いになって拍子抜けと同時に、話が早く進みそうで良かったと思いますよ」

「試練の内容にもよるけどな……実際のところ、邪竜との戦いより厳しいなんて可能性は十分ある。何せ、迷宮の支配者が直々に生み出した試練なんだからな」


 雪斗がそう返答した時、階段に辿り着いた。そこで安全圏確保のために結界を構築する。侍女はそれを黙って眺めていた。

 異様な状況の連続であり、まさか迷宮の支配者が話を持ちかけるとは思わなかった。これが良いことなのか悪いことなのか――ただ、雪斗の内心では予感があった。場合によってはイーフィスの言う通り話が早く進むかもしれない。だが、


(この迷宮自体に異変が起きているとしたら……面倒なことになるかもしれないな)


 支配者が変わっているということは、迷宮そのものに変化があるかもしれない。もしそうであったのならば――


(それを含め、解明するにはまず支配者に会わなければならない……それにはまず、試練か)


 まずはそこに注力する。雪斗が心の中で決意した時、結界は完成。下へ進むこととなった。


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