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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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仲間のために

「俺としては、愚問だと返したい」


 そう雪斗は返答した。それでカイとレーネも深く頷いた。


「なら、これ以上何かを言う必要はないな……厳しい戦いなのは容易に想像できる。ユキト、力を貸してくれ」

「もちろん」


 雪斗は頷くと同時に、これまでにない高揚感が芽生えていた。それは仲間に――カイに頼られたことによるもの。これまで後方で戦ってきた。もちろん命を賭して全力を尽くしていたのは事実。けれど、仲間達に多大な貢献ができたのか――疑問はあった。

 それは邪竜討伐のために迷宮へ入った時、さらに強まった。最初に、五人が犠牲になった。その光景を見ていた雪斗は無力感に苛まれた。自分では何もできなかった。そして自分が五人の中に入らなかったのは、単なる運に過ぎなかった。


 そうして幾度か迷宮へ入り、自分もまた同じように犠牲になろうとしていた。その中で死地へ向かうべく歩き始め、手に入れたディルという剣。その力が全てを打開し、単独で地上へと戻った。

 これは幸運とさえ思った。それは今日、迷宮に入ったことで確信した。加え、カイ達から直々に依頼まで来た。それは自分にしかできないこと――


「ユキト」


 その時、カイから呼び掛けられた。


「こういう風に言うのは……きっとユキトに怒られるだろうけど、言わせてくれ」

「どうした?」

「ユキトはきっと、この戦いで貢献できるということで少なからず嬉しい……とは思う。他の仲間に依頼してもそれは同じ事だろう。自分が役に立てる……そんな風に思うはずだ」


 どこか、愁いを帯びた表情で語るカイ。それだけで、雪斗は彼が何を言いたいのか如実にわかってしまった。


「けれど、僕は……僕としては、聖剣を握る僕自身がもっと戦えれば……邪竜を滅することができれば、こんな苦労はさせないはずなんだ。喜ぶのは事実かもしれないけれど、実際は死地へ向かわせる……それで果たして、良いのだろうか――」

「カイ、それは違うよ」


 雪斗は怒るわけでもなく、かといって無感情なわけでもない。微笑を浮かべながら、カイへ語る。


「確かに、言いたいことはわかる。それに、重大な責を負わすことに心を痛めることはわかる……俺達はこんな世界とは無縁の人間だったんだ。カイは聖剣を手にしたことで、それとは違う自覚を持ってしまったし、何より俺達は巻き込まれた……よって、申し訳ない気持ちなのかもしれない。俺達のことを心配するのも、理解はできる。でも」


 雪斗は真っ直ぐカイと視線を合わせた。


「カイは、死んだ仲間達を生き返らせると表明し、国にそれを認めさせた。その時、クラスメイトの……いや、仲間である俺達は同じ事を思ったんだ。カイの表明を支持し、自分達もまた仲間を生き返らせるために尽力しようと」

「ユキト……」

「死地へ向かわせることを嘆くのはわかる。でも、俺達はカイの指示に従っているんじゃない。俺達もまた、仲間を蘇らせ、元の世界へ帰りたい……だから、共に戦う同士なんだ。遠慮なく、色々なことを言って欲しい」


 カイはしばし沈黙する。レーネもまた押し黙り、カイの言葉を待つ。

 一分ほどそうしていただろうか。重い沈黙というわけではなく、静寂が部屋の中を支配する。雪斗はどこまでも待つ構えであり、カイは目を合わせ一時たりとも視線を外さない。


 やがて、


「……そうか」


 どこか納得したような声を、カイは吐きだした。


「すまない、僕自身、ユキトに言われたことを飲み込むのに時間が掛かってしまった。ただ、言わんとしていることは理解できるよ。それに、そうやって言ってくれるのは、少なからず嬉しい」


 述べた後、カイは改めるようにして、


「ユキト、僕は邪竜がいる迷宮へ挑まなければならない……それは邪竜の意識を外へ向けさせないためでもある。僕自身がここを離れれば、間違いなく邪竜は再び侵略を活発化させるだろう」

「ああ、それは俺も同意するよ。邪竜を再び外へ出さないために、カイがここを守るのは確定だ。よって、俺が外をどうにかする……といっても、自分にどこまでやれるのか」

『大丈夫だって』


 陽気なディルの声が聞こえた。それに雪斗は多少なりとも苦笑し、


「……ディルもいける、なんて言っている。厳しい戦いだろうけど、邪竜との戦いを邪魔させないように、俺はできる限り頑張るよ」

「わかった……今後のことについては明日、話し合う予定だ。明日は迷宮へ入ることはせず、迷宮の内と外……方針を決める必要性がある」

「ああ、わかった」

「双方とも厳しい戦いになる以上、議論も慎重にしないといけないな……ユキト、改めて言うよ。外のことを、よろしく頼む」


 カイの声に雪斗は「もちろん」と応じ、話し合いは終了。その後、カイ達が部屋を退出した。雪斗は一人となってから、小さく息を吐いた。


「外か……」

『不安?』


 ディルの声が聞こえてくる。それに雪斗は首を振り、


「俺達は召喚されてから、しばらくの間は様々な場所を訪れ転戦していた。それはかなり厳しい戦いだったし、今回もそうだろう」


 それを確信しているからこそ、様々な思いがよぎる。とはいえ、決して不安はない。


「あるのはやらなきゃいけないって使命感だけだな」

『なんだか力が入りすぎている気もするけどねー』

「そんなものさ。そのくらいの方がいい」


 カイに並び立つためには――言葉には乗せなかったのだが、どうやらディルの方は気付いたらしい。


『ふうん、そっか……ま、ユキトが頑張る気なら、私も応えよう』

「頼もしい発言ありがとう……しかし、こんな無茶苦茶な使用者で良かったのか?」

『そりゃあ迷宮の奥底にずっといるより何倍もマシだよ。それにさ、外で戦うってことは色々な場所を見ることだってできるんでしょ? それは面白そうだなあ』

「観光へ行くんじゃないぞ?」

『わかってるよ……ま、存分に使ってもらえればいいよ。それが、私の本分だからね。けどまあ、壊さないように』

「それは承知しているさ……準備でもしようかな」


 体を休めようかとも思ったが、少しばかり興奮している自分がいた。よって雪斗は部屋を出る。

 仲間達が今後のことを話し合っている姿が廊下に見られる。どうやらカイは他の仲間にも伝えたらしい。そこで雪斗は他の仲間達へ声を掛け、意見を求めることにしたのだった。


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