一撃必殺
雪斗の能力を見極めてから、一行はさらに迷宮の奥へと進んでいく。断続的に魔物が押し寄せてはくるのだが、ひとまず対応はできている。隊列を組み直した成果なのか、二度目、三度目の襲撃については混乱もなく、乱戦などにはならず対処することができた。
「邪竜としては最初の攻撃で僕を仕留めたかったのだろう」
と、カイは進みながら仲間達へ解説を行う。
「乱戦に持ち込んで僕を孤立させ、仕留める……やり方として成功したかもしれない方法だったけど、ユキトが動いてくれたことで難を逃れた。二度目や三度目は隊列が変わったことでこちらの動き方にどう変化がついたのか。それを確認する意味合いがあると思う」
「ということは、次の攻撃が本番ってことか?」
クラスメイトの一人が声を上げる。カイはそれに即座に頷き、
「ああ、そうだ……次か、そのまた次か。どちらにせよこの階層を突破するまでの間に本腰を入れてくるはずだ。そこが正念場……この階層を制圧できるかどうかは、ここに懸かっている」
雪斗達は静かに神経を研ぎ澄ませる。威力偵察を行った以上は、邪竜も今回の戦いで成果を上げたいはず。となればどこかで大規模な攻勢を仕掛けてくるはず――
「気配があるな」
いち早くカイが気付いた。遅れて雪斗も理解する。前方からさらに魔物の群れ。しかし今度は少し様子が違っていた。
「……魔力が、濃いな」
これまでと似たような姿をしていたが、まとう魔力が異なっている――どうやら本腰を入れてきたらしい。
「カイ、どう動く?」
「全員、無理に前には出ずに迎え撃つ形で――」
カイがそう指示をした矢先、魔物達が一斉に襲い掛かってくる。その勢いは雪斗達を押し潰そうという気概を大いに含んだもの。
さらに後続からも魔物の気配。一挙に攻め立てる構えのようで、邪竜としてもここが決め所だと判断したようで、津波のように押し寄せてくる。
「ここが正念場だ!」
カイが声を張り上げる。
「この階層を制圧するために踏ん張りどころだ! 絶対に死ぬな!」
交戦を開始。怒濤の如く攻め立てる魔物に対し、雪斗達はガッチリと組み合うように迎え撃った。
乱戦になるようなことはなく、魔物の動きを捉え確実に応じていく。雪斗が最初から前線にいることも大きな要因だった。ディルの能力により疲労を感じることがなく、常に能力を維持し続ける。それによりカイの動きも無理がなくなった。よって、魔物に押し込められるようなことにもならない。
好循環な状況ではあったが、邪竜もすぐさま強引な力押しを止めた。魔物達は前衛に壁を作ったかと思うと、後方から魔力。魔法などで攻撃するらしい。
「させるか!」
後方から声が聞こえた。それと同時に魔物達が魔法を放ち――それに応じるかのように味方側からも魔法が飛来する。敵の魔法が雪斗達の前線に到達する前に、味方の魔法により撃ち落とされた。
しかし、魔法により閃光と爆音。加え、迷宮内に粉塵が生じる。しかし魔物は構わず突っ込んでくるため、雪斗達は対処に追われる。
(これが狙いか……?)
魔法により雪斗達を仕留めるのではなく、粉塵による目くらましにより、何かを成す――邪竜のやり方がさらに狡猾になってきたと雪斗は思う。
とはいえ、この程度の攻撃であれば気配を探れば問題ない。魔物が粉塵の向こう側から襲い掛かってくる。それを雪斗は見極め、敵が視界に入ると同時に剣を振る。
それは正確に魔物の芯を捉え、振り抜いた時点で魔物が消滅した。一撃必殺の剣。雪斗は魔力を維持しながら、ディルへ問い掛ける。
「今の威力をできる限り維持したいが……できるのか?」
『ま、頑張ればいけるんじゃない?』
「アバウトだな……」
『私だってどれくらいユキトが頑張れるのか、わからないしねー』
能天気な言葉ではあったが、なんとなく救われた気持ちになる。生死の境界線にいるような戦いで、ディルの言葉はどこか精神を安らげるような効果をもたらす。
(ずっと肩に力が入り続けても、いつか耐えられなくなるってことか)
これはきっと、他の仲間達も同じはずだ――その時、雪斗は魔物が押し寄せる中で特段強い気配を感じ取る。
(これが狙いか……?)
思いながら雪斗は近くにいた魔物を切り伏せた後、前に出た。直後、気配を感じ取った魔物が粉塵の中から出現する。見た目は他の個体と何ら変わりがないのだが、まとう魔力は二回りも大きい。
さらに、そうした個体がどうやら後方にはいる。
(時折こうした個体を出して、一瞬の隙を突く……か)
同じペースで斬り伏せることができないくらいのレベル。それに手間取り陣形が崩れたところに、というわけだ。
魔物の姿は一つも変わらないため、油断も誘いやすい。邪竜もさらにやり方が狡猾になってきた。
雪斗は目前に迫った魔物に対し、魔力を高めることで応戦する。どの程度の魔力で対処できるのかを見極め、必要分だけを発揮する。
その直後、雪斗は以前と異なると察することができた。必要だと思った分の魔力を、自分の意思で正確に引き出すことができる。逆に不必要な魔力を押さえ込み節約することも可能であり、また同時に剣からの効果によるものか魔力が湧き上がってくる。
(これが、この剣の力か……)
雪斗はそう考えながら剣を振った。目前の魔物は表に出した魔力により過不足なく倒すことに成功する。
敵の魔力量の見極め。そして自分の魔力をどの程度出力するのか。その判断が極めて正確かつ、違和感なく行うことができる。こうした能力が継続戦闘能力の高さを物語っているのか。
雪斗は周囲を見回す。自分の能力を把握し始めたことにより、余裕ができた。戦況がどのような形であり、また同時にどのように戦うべきか――それを判断し、雪斗は仲間の援護を行う。
手強い魔物に苦戦する仲間の所へ向かい、一閃する。その行動に驚いた仲間は目線を投げ、雪斗はそれを見返し即座に別所へ。
続けざまに迫る魔物を屠ると、今度はカイの所へ群がろうとする魔物へ機先を制する形で斬撃を叩き込んだ。
カイもまた雪斗が活発に動き始めたことで少し驚いた様子を見せた。けれどすぐに状況を判断し、
「……ユキト、援護を頼む!」
「ああ!」
その言葉に雪斗は軽快な返事をした後、魔力をわずかながらに高める。
冷静になろうと努めながら、目前に迫る魔物を見据える。敵はなおも突き進んでくる。しかし、今の自分の能力であれば――そう心の中で呟いた直後、雪斗は魔力を引き出しながら迎え撃った。




