黒白の勇者 ～再召喚された異世界最強～

第四章

邪竜の戦術

　やがて、雪斗達は交戦を開始する。押し寄せる魔物の群れ。しかしそれをカイが的確に指示を出し、さばいていく。

　幾度となく迷宮を訪れ戦ったことで、この時点でカイは邪竜の癖のようなものを発見していた。それはどのような策を用いてくるかによって、魔物の動きが変わること。わかりやすいのが罠にはめようとする時の動きであり、一度目の戦いではこれが見事にはまった結果、大きな被害が出てしまった。

　しかし現時点でカイは罠があるかどうかを魔物の流れなどで判別できるようになっていた。無論、狡猾な邪竜が同じように動いてくるとは思えない。実際に雪斗が罠にはまって孤立した時は、思わぬ形で策にはまり込んでしまった。だが、それでも邪竜の思惑がある程度わかる、ということでカイは指揮の参考にしていた。

　今回の場合は、物量による応酬――つまり単純に魔物達を突撃させ、戦力を減らそうという魂胆だった。

　戦闘を開始してすぐ、迷宮ないでは乱戦に近い状態となる。後方にいたはずの雪斗も群がってくる魔物の対処をすることとなり、新たに手に入れたディルの力を借りて敵を倒す。

「かなり厄介だな……これは……」

　断続的に迷宮の奥から魔物が出現している。ただ現状では雪斗達が魔物を倒すペースの方がわずかに早い――が、人間は機械などではないため疲労が溜まればどのような結果になるのかわからない。

　乱戦になったことはおそらく邪竜の計画――という推測を雪斗は行う。こうなってしまえばカイが例え退却を宣言しても容易に逃げることはできない。そうなった場合、下手するとクラスメイトの誰かが孤立する危険性すらある。

　おそらく相手はこちらの行動や心理を読んだ上で戦っている――邪竜もまた学習し、迎え撃つ術を増やしている。そう考えると今後はカイも考え方を改める必要があるだろう。

　とはいえ、今回ばかりは多数の魔物が押し寄せる事態なので、罠の類いはほぼないと考えていい――そもそも迷宮の罠は迷宮の主が作成するが、人間の魔力に反応して発動、あるいは特定の存在について効果が現われるなどといった限定的な指定ができない。これは迷宮攻略の長い歴史を経て認識された事実だ。無論のこと、邪竜という存在が迷宮の歴史において例外中の例外という立ち位置であるため、この常識が通用しない可能性は否定できないが、リュシールなどによれば「可能性は極めて低い」ということだった。罠を張る構造的に難しいという判断らしい。

　つまり、罠は設置すれば魔物でさえも引っ掛かる。これだけ縦横無尽に魔物が押し寄せる状況では、罠を張っても邪竜の配下が踏んでしまう危険性が高い――のだが、目前に迫る魔物達を考えれば、罠のような小手先の仕掛けなど不要にも思えた。

　カイを含めた前衛のメンバーが敵を駆逐し続ける。しかしそれを突破して後衛を狙おうとする魔物を後続のクラスメイト達が迎撃する。

　魔物の質も高く、聖剣を持つカイ以外では一撃で倒すことが困難だった。邪竜も幾度となく攻め込まれたためか魔物の質も上げて対応している様子であり、攻略回数を重ねる度に楽になる、というわけではまったくない。

　この中で雪斗は迫る魔物をどうにか屠る。こちらも一撃とはいかないが、新たに手に入れたディルによって以前よりも早く敵を撃破できるようになっていた。

「けど、俺一人が強くなっても限界というものがあるよな……」

　剣を振るいながら雪斗は呟く。確かに戦力的にはより貢献できるようになった。しかし、敵もまた強くなっている。これではプラスになっていない。

　ただ、仲間の多くは霊具の力をまだ完全に使いこなせてはいない――リュシールいわく「霊具は長く使えば使うほどその力が増していく」とのことらしく、魔物が強くなる邪竜の迷宮に対しさらに成長し続けることはできる。よって雪斗も剣を手に入れた直後である以上、この事実に含まれるのだが――

『手助けしようか？』

　と、ふいにディルが雪斗へ語りかけてきた。

『私側から意識的に魔力を注げば、瞬間的に強くなれるけど』

「本当か？」

　戦況はカイの奮闘によって魔物の数を少しずつ減らしてはいる。しかし、断続的に押し寄せるため、カイが何らかの形で動きが鈍れば状況は一気に悪化する。

『うん。やりようによっては装備とかも一新できるけど』

「装備？」

　会話をかわしながらも、雪斗は剣を振るい続ける。

『ユキトがイメージした装備に作り替えて上げるけど。今着ている衣服の上に魔力の衣を身にまとう感じかな。それによって防御能力だけじゃなくて、攻撃力も上がるよ。慣れていないと扱いが難しいかもしれないけど、やってみる？』

「……それで強くなれるなら、そうしてもいいけど」

　呟いた直後、前線で異変が生じた。複数体の魔物がカイへ集中攻撃を仕掛けた。本来ならそれで押されるような実力ではなかった。しかし、今回は攻撃を連続で受けたことで数歩たたらを踏んだ。

　その姿は誰の目から見てもまずいと判断できた。いつものカイであれば受け流せたはずの攻撃。けれどおそらく疲労が溜まり――それによって、生じた結果だ。

　周囲の誰かが援護をしてくれれば良かったはず。けれど誰も彼もが目の前の魔物で手一杯だった。その瞬間、雪斗はこの流れが作為的なものだと直感する。邪竜は魔物を多数使ってカイの動きを見極めていた。そして動きが鈍っていると判断した矢先、孤立させ仕留めようとしたのだ。

　雪斗は周囲を見る。他の面々はカイの動きに気付いていないか、目の前の敵に集中している。もし助けにいくのなら――自分以外にない。

「――ディル！」

　雪斗は声を張り上げながら走る。魔物の間を縫って駆けるため速度は出ない。けれど、それでもカイの所へ行かなければならない。

『ユキト、装備についてはそっちの頭の中で考えて。その結果が装備に反映されるから』

　とはいえ、目前のことで頭が埋め尽くされている雪斗にとって考える余裕は皆無に近かった。それでも助言に従い、何かしら頭に浮かべる。カイという存在。白い姿を見た瞬間、自分自身は黒だというイメージが湧いた。