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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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後悔

「カイの幼馴染みはクラスが違うし、交流関係なども全て把握しているわけじゃないから……彼女に対してはカイの友人だと説明して、彼から言伝を預かってきた、みたいな理由で最初に接触を行った」


 雪斗はなおも語り続ける。ただ翠芭の目には、ただでさえ辛かった表情が、さらに歪んでいるようにさえ見えた。


「彼女は基本、誰に対しても分け隔て無く接する人だったから、カイの友人と聞いて俺に対して怪しむことはなかった……そして俺はカイのことについて、彼女へ言及した」

「告白すべき、だと」


 翠芭の言葉に雪斗は頷く。


「ああ、そうだ。カイはあなたに対し幼馴染み以上の好意を持っている。なおかつ、現在彼にアタックしている人は、それこそ彼自身疎ましく思っている……と。これで彼女の方から意を決して、という風に目論んでいたけど、彼女の返答は意外なものだった」


 雪斗は小さく息をつく。その時の光景を思い起こしている。


「……彼女が言うには、それこそ自分がカイの隣に立つ資格はないんじゃないか、と」

「資格……?」


 翠芭が聞き返す。ただ、カイのことを知った身からすれば、どういうことなのかおぼろげに理解できた。


「カイはそれこそ、完璧な人間だ。いや、内面をよく知っている俺からすれば、完璧に見えるが実際はそうじゃない……幼馴染みに告白する勇気がない、恋愛下手な人だった。確かに何でも上手くできる彼は、傍から見れば雲の上の存在みたいに思えたかもしれない。でもそれは、真実じゃない」

「けれど、幼馴染みは……いえ、幼馴染みも、わかっていなかった」


 翠芭の言葉に雪斗は、深々と頷いた。


「そうだ。内面を知っているのは俺だけなんだと……小さい頃から一緒にいたカイの幼馴染みさえ、わかっていなかった。でもそれは間違いだと俺は言った。けど、彼女は首を横に振った。そもそも自分とは違う場所にいる人だと。今の関係で十分だと」


 ――翠芭としては、その時の幼馴染みの心境を推し量ることしかできない。ただ、あまりに高い位置に存在だと、そんな風に思えてしまう。それは無理らしからぬことではないかと、一瞬考えてしまった。


「彼女はむしろ今の関係だって申し訳ないとさえ言い出した。違うと、俺は全力で否定した。でも、彼女が受け入れることはなかった」


 そこで雪斗は額に手を当てる。


「カイの真実を知る人間は、俺以外に誰もいなかった。だからそうだと説明することもできなかった……それでも俺はあきらめたくなかった。記憶を失ってもカイの想いは変わっていないはずだ、と。そう考えたから、正しいと思って幼馴染みを説得しようとして……愕然とする出来事が起きた」

「何が、起きたの……?」


 花音が怖々と尋ねる。そこで雪斗は、


「恋愛話だから、俺は人気の無い場所を選んで話した。でも、魔法で人払いをするような真似もしなかった。怪しまれるのはまずいと思ったから。ただ」

「まさか……」

「そう。そのまさかだ」


 自嘲的な笑み。ああそうかと、翠芭も心の中で納得する。


「誰かが噂をし始めた。カイの幼馴染みと俺が付き合っていると。それはきっと、カイへ必死にアプローチをしていた女性の仕掛けたものだったかもしれない」


 雪斗は一度深呼吸をする。まるで痛みを誤魔化すように。


「俺とカイの幼馴染みが放課後に会っていた……それだけでも噂を作るには十分過ぎるものだった。誰かが噂を立てれば、真実かどうかなんてどうでもいい。いや、そういう噂が出てきた時点で、俺は間違っていたと悟った」


 一度顔を手で覆う。そこからは、後悔の念を抱きながら雪斗は続ける。


「もちろん、違うと否定した。でも俺のような目立たない人間が、何の理由もなくカイの幼馴染みに接触する理由なんて、ない……そう、ないんだよ。だから全てが遅かった。否定するだけの発言力もなく、それが真実なんだと認識されてしまった……いや、そうすることが、相手側の仕掛けだったのかもしれないけど」


 そこまで語ると、雪斗は翠芭達を一瞥した。


「魔法を使って、元に戻そうかとも考えた。俺のディルにそうした能力はなかったけど、やろうと思えばできるんじゃないかと……人を操ってどうこうできる魔法もあったからな。でも、できなかった。あの世界で魔法を使うのは危険だとわかっていたから」

「危険、だと?」


 問い返したのはレーネ。雪斗は即座に頷き、


「この世界で、来訪者達は無類の力を持っている……が、それには条件がいるんだ。この世界へ来る前の時点で俺達に潜在能力があったわけだが、その力を扱うにはまずこの世界の魔力を取り込む必要があった……といっても複雑な何かが必要というわけじゃない。この世界の魔力を取り込む……呼吸をすれば、あっさりと霊具を受け入れることができる。でも逆に言えば、それをしなければ体に存在する魔力が暴走して、最悪体が壊れて死に至る」


 雪斗は自身の右手をかざして、じっと手のひらを見ながら話す。


「これはディルの調査で得られた結論だ。俺については体は元に戻っていたけどディルがいたため問題なく魔法は使えた。でも誰かに干渉するような魔法は使えなかった……あっちの世界で強化魔法の類いは問題なかったけど……他者に使う魔法は危険だった。でも俺がやってしまったことだ。尻ぬぐいくらいは……そう思ったけど、結局間に合わなかった。二人は……疎遠になってしまった」


 室内に沈黙が生じる。それに対し雪斗はなおも続ける。


「俺が割って入らなければ、二人は結ばれていたかもしれない。でもそれを俺が壊したんだ! この世界で俺に喋ったカイが何より真実を語っていると確信し、だから俺が橋渡しをするつもりだった……でも、全て終わった後に気付いたんだ……俺の知っているカイはいない。教室で一緒に授業を受けるカイは、俺の知る彼とは別人なんだと」

「雪斗……」


 翠芭は何かを言おうとした。けれど雪斗はそれを遮るように、


「わかってる。何もかも理解している……やがて俺は悟った。この世界の記憶を持つ俺は、クラスメイトのことを知っているように思っていた。真実を知っていると思っていた。でも違うんだ。俺が知っていたのはこの世界を訪れた仲間達だけだ。でも、その彼らはもういないんだ……だからこれ以上共にいれば、いつか俺は暴走する。そう悟ったから、無理矢理彼らがいる所を離れ、転校したんだ――」


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