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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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最後の言葉

 雪斗が邪竜へ向け背後から迫ると同時、翠芭もまた聖剣を強く握り締め邪竜へと接近する。思わぬ形で挟撃を受ける邪竜。しかも片方は天敵である聖剣所持者。もう一人は過去邪竜自身を滅した技法を持つ来訪者。この状況下で邪竜は一際吠え、その魔力を広間全体へと発した。


『貴様ら……!』


 その咆哮により、周囲にいた騎士達が苦悶の表情を浮かべる。殺傷能力はないにしても、足止めするだけの効力を有していると思しき魔力。だが今の雪斗と翠芭の前には、効果がなかった。

 先に刃を届かせたのは雪斗。既に『神降ろし』を起動させた状態で放たれた彼の剣戟は、邪竜の皮膚を――確実に抉る。直後、邪竜からさらなる雄叫びが上がった。


 次いで翠芭が今度は聖剣の力を最大限に引き出して一閃する。全力の剣を今度は防御も許さないままに、入れる……再び咆哮。それと共に翠芭は確かな手応えを感じた。


『セガミ、ユキト、貴様……!』

「もう一度言うぞ」


 邪竜の声に雪斗は極めて冷厳な言葉を投げかける。


「お前に何か言う権利はない。このまま人間に敗れて、消えろ」


 怒りに近い感情のこもった声だった。けれどその表情からは憤怒の様相は見えない。怒ってはいるがそれを頭で冷静に処理している、といった雰囲気だった。

 そこで信人や千彰、さらに花音まで攻撃に参加する。彼らの霊具で邪竜の皮膚を破るのはかなり大変だが、完全にガードが緩みきった敵には一定の効果が得られたらしく、槍と風、炎が直撃した矢先、邪竜は痛みを堪えるように声を上げる。


『まだだ、人間ドモ……!』


 言葉の響きが、少しずつ無機質になっていく。それは理性を維持するのが困難になっているのか、残された余裕はもうほとんどない。

 ここでさらに入口にいる人物――シェリスの援護が入った。魔法が行使され光の槍が、邪竜の頭部を射抜いた。


 邪竜の体を貫通し、光は弾けて消える。といっても物理的に穴が開いたわけではなかった。おそらく魔力のみを削る効果。シェリスが持つ霊具の特性を考慮し、翠芭はカイの記憶に基づいてそう定義した。

 それにより、邪竜の魔力制御が確かに緩んだ。もはや咆哮一つあげることすら不可能な状況。よって、


「雪斗!」


 翠芭は叫ぶ。彼は呼応するように、『神降ろし』の力を最大限に発した。


「翠芭!」


 名を呼んだと同時に彼は大上段からの振り降ろしを――邪竜へ、決めた。それと同時に翠芭もまた聖剣をすくい上げるように薙ぐ。

 両者の刃が邪竜へしかと入ると、その魔力が邪竜の体を指ほどの長さを抉り、斬ったはずだった。


『ガ……』


 絞り出すような声。ああ、これで終わるのだと――カイの心の声が、聞こえた気がした。


『ナゼ、私ガ……』


 負けるのか、と言いたかったのか。それを言わせぬまま、雪斗は再び剣を掲げ、その刃を邪竜へ叩き込む。

 それにより、とうとう崩れ落ちる邪竜。巨体に押し潰されてはまずいので後退すると、ズウンと重い音を立てて竜が横たわった。


 翠芭はトドメを刺すべく邪竜へ接近する。風前の灯火とも言える姿ではあったが、頭の中でカイが油断はするなと呼び掛け、それに応じるように剣を振るう。

 そして最後の一撃を決める直前、翠芭は確かに聞いた。


『邪魔者が……迷宮だけでなく、この地上にも存在していたか――』


 その言葉の意味を、確かめるために剣を止めることはできず、翠芭は渾身の一撃を、邪竜の頭部へ向け叩き込んだ。

 光が、聖剣の光が広間を満たす。その中で翠芭は確かに感じた。光によって、邪竜の体が崩れ去っていくのを。


『――スイハ』


 その中で翠芭は自分の名を呼ぶカイの声を聞いた。


『ありがとう、これで役目を果たすことができた』


 邪竜という最大の脅威が消えたことで、役目を全うすることができたと。


『聖剣の力は君の体の中に残る。それを利用し、今度は迷宮へ向かってくれ……邪竜は何やら最後に呟いていた。どうやら迷宮にも何かがあるらしい。絶対に、油断はしないように』

「――待って」


 邪竜が消え去る気配を感じながら、翠芭は声を上げる。


「雪斗がいるのに、話もしないまま消えるの?」

『僕に、喋る権利は――』

「そんなことはない。雪斗は聞きたいはず……あなたの、言葉を」


 だから、もう少しだけ。そういう主張を乗せた翠芭の声に、カイは沈黙する。

 まだ気配はある。確かに役目は終わったかもしれない――いや、


「まだ、カイにはやることが残っている」

『……ああ、そういう見方も確かにあるな。なら、そうだね。本当に最後の最後。僕の使命を果たすとしよう』


 光が収まっていく。それと共に邪竜の魔力が、なくなっていく。

 完全に収束した時、広間から邪竜の姿は完全に消えていた。目前に迫った脅威に、翠芭達は勝つことができたのだ。


「……っ」


 同時、翠芭は膝をついた。聖剣の扱いは多少なりとも慣れていたが、突然の全力戦闘。体の方がついていけたのは奇跡に近く、気付けば力が抜け立ち上がるのも難しかった。


「翠芭!」


 雪斗が駆け寄る。『神降ろし』を解除し、彼は翠芭を支えた。


「ごめん……大丈夫か?」

「うん、なんとか……助けに来てくれて、ありがとう」

「こちらこそ……翠芭の奮戦があったから、俺達は間に合ったんだ」


 そう呼び掛けた矢先、誰かが――騎士の声が広間に響いた。邪竜を倒したんだという声を発した途端、その場にいた騎士達が一斉に歓声を上げた。

 翠芭が戸惑う中で、騎士達は来訪者達を称える声を響かせる。邪竜を、この手で――それによりとうとう、翠芭は自分が聖剣所持者であると、本当の意味で認められた気がした。


「……お疲れ」


 信人達が近寄ってくる。全員の顔にも疲労の色があったけれど、怪我はどうやらなさそうだった。


「五体満足で倒せた……良かったな」

「うん、そうだね」

「でも、あの力は一体……」


 雪斗が疑問を呈する。そこでシェリス達も近寄り、翠芭達の戦いぶりを質問しようという気配を見せていた。


「あ、えっと……」


 翠芭は説明しようとして、頭の中でカイの声を聞いた。

 彼がどうやら説明してくれる――そう認識した翠芭は頭の中で彼の言葉を聞き、ゆっくりと、雪斗へ向けて彼が喋った内容を口にした。


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