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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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変異

 先陣を切ったのは翠芭。聖剣の力が活性化し、アレイスの気配を押し潰すほどに強い魔力を放つ。

 それを翠芭は束ね、制御し刀身へと収束させた。カイから力を得ていなければ絶対に成し得なかった技法。これは間違いなく、邪竜との戦いで培った技術だ。


 アレイスは目を細めながらも応戦する。双方の刃が激突し――アレイスの剣を、翠芭が押し返した。

 そこでさらに前に出る。間合いを詰め一気に決着をつけようという算段。元々短時間しかもたない技法だ。リスクはあるにしろ、速攻で決めに掛かった方がいい。


 アレイスはそれを読んでいるらしく、後退しようと足を動かそうとする。だが先ほど以上の速度で接近する信人が、彼の動きを阻んだ。

 真っ直ぐ突き込まれた槍がアレイスへ迫る。先ほどは直撃したが、今度は避けた。空振りに終わった槍は即座に引き戻され、反撃の機会を与えない。


 ――アレイスの動きを見て、翠芭は一つ推測する。彼の動きはまさしく騎士のそれ。カイの力が紛れもなくアレイスの剣技であると認識させる。

 だが、本当なら彼の剣はもっと鋭かった。そういう風に理解してしまう。


(これはきっと……邪竜がアレイスを操っているから……?)


 カイの力をその身に受け、そのような考えを抱く。確かに邪竜の力を所持する以上、生前のアレイスよりも強いだろうとは思う。だが剣術についてだけを言えば、荒々しい――おそらく邪竜は生前の剣術を用いているのだろう。だが邪竜の力が完全に剣術と馴染んでいない。だからこそ、歪みが生じ鋭さが減退している。


 そう考えた矢先、翠芭はさらに前へ進む。決して無謀な行為ではなかった。アレイスは信人の攻撃を受けさらに後退する羽目になり、翠芭の行動に苦々しい表情をするしかない。

 とはいえ、まだ紙一重だと翠芭は思う。有利に事が進んでいるように感じられるが、少しでも隙を見せれば間違いなくアレイスはそこを起点にして反撃してくる。


 よって、自分にできることは――なおも前に出る翠芭。そして間髪入れずに剣を薙いだ。その間にクラスメイト達は次の動きに備える。

 その直後、翠芭の後方で魔力が轟いた。それは間違いなく花音のもの。刹那、翠芭は全てを察し体を横へ移すべく動き始めた。


 次の瞬間、炎が翠芭の横を通り抜けアレイスへと直撃する。回避することに一歩遅れ――いや、花音は避けられない速度を瞬時に計算して放ったに違いなかった。

 炎はアレイスに直撃すると彼を囲うように炎が生じた。炎の牢獄とでも言うべき炎熱が広間を支配し、一時この場を炎が支配する。


 そこへ千彰の援護も飛んでくる。風が炎の注がれ、業火の勢いがさらに増した。中にいるアレイスの姿は確認できない。けれど翠芭はじっと目を凝らし、その姿を探ろうとする。

 竜巻に変じつつある炎の中で、翠芭は確かに魔力を感じ取る。おそらくこれもカイの力がなければできなかっただろう。そして彼が炎の中で剣を掲げ、消し飛ばそうとするのも察した。


「来る!」


 翠芭が叫んだ直後、信人と千彰は同時に後ろへ下がった。すると炎が突然歪んだかと思うと、一挙に炎熱がかき消えた。

 とはいえ無傷とはいかなかったようで、厳しい目で翠芭――いや、その後方にいる花音へ眼差しを向けていた。


「本当に厄介だな、その能力……!」

『――邪竜は、花音の持つ霊具に手を焼いていたからね』


 ふいに、頭の中でカイの声が聞こえた。


『どうやら邪竜にとっては相性の良くない霊具らしい。とはいっても力の大きさからすれば多少面倒というくらいのものだが、アレイスの体を乗っ取っている状況からしたら、その苦手な面が顕著になっている、といったところか』


 アレイスからすればすぐにでも花音を倒したいというのが本音のようだが、それを翠芭が阻む。剣を構え呼吸を整え、真正面からアレイスを見据える。

 一方の相手は目を細め、横にいる信人と千彰を警戒しながらどうすべきかと立ち尽くす。周囲の騎士達は入口を固め翠芭達は今にも掛かってきそうな状況。


 アレイスからしてみれば、翠芭達がこのような展開となってしまった以上、退却も考慮に入れるべきだった。現状で間に合わないかもしれないが、雪斗達が戻ってくる可能性だってあるのだ。ならばこの場から引き上げ仕切り直すのが得策と言える。


 しかし、周囲の騎士達は命に代えても出入り口を守るという気概を見せている。強引に突破することも翠芭達が狙うことを考えればできない。

 アレイスとしては盤面を制圧された形であり、残る候補は翠芭達を倒すしかないのだが――


「……つくづく、予定外のことばかり発生するな」


 と、アレイスは突如笑い始めた。


「雪斗が再び召喚されたこともそうだが、まさかこうも早く聖剣所持者が覚醒するとは思わなかった」

「なら、どうするの?」


 問い掛ける翠芭。そこでアレイスは醜悪な――これまでの姿とは似つかわしくない、笑みを浮かべた。


「ならば、一つしかあるまい」


 その時、ドクンと魔力が帯同する。何事かと翠芭が目を見張った矢先、アレイスの体から突如、黒い霧のようなものが生じ始める。

 変化に周囲の騎士はどよめき、また翠芭達も対応に迫られた。即座に貴臣がアレイスを囲う結界を構築し、霧を封じ込めた。さらに信人と千彰は同時に引き下がり、花音と翠芭はいつ何時攻撃されても大丈夫なよう、神経を張り巡らせる。


 霧にアレイスが覆われると、徐々にその気配が肥大化を始める。これは――翠芭が推測をした矢先、カイが答えを提示した。


『僕らが戦っていた姿に戻る……それができるほどに、力が回復していたというわけか』


 そうカイは述べる。いよいよ邪竜が本性を現した――


『とはいえ、これをここまで見せてこなかったのは、相当に負担が大きいからだろう。雪斗との決戦までに残しておきたかった。そういう考えだったはず……そして、この力を打ち砕くことができれば、僕らの勝利だ』


 聖剣を握り締める腕に力が入る。黒い霧がさらに膨らみ続け、それが形を成していく。


『今度こそ――犠牲なく、決着をつけよう』


 カイが言う。それは翠芭に言ったものなのか。それとも単なる呟きだったのか。ともあれ翠芭はそれに同意し、聖剣へと魔力を集中させた。


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