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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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抵抗

 翠芭達を送り出し、レーネは城の入口へと急行する。既に結界などを行使し入口以外の場所については封鎖済み。これが通用しなければどうにもならないが――


「来ました」


 騎士の一人が告げる。どうやら真正面から踏み込むらしい。

 やがて、アレイスが姿を現す。先日確認した姿そのままであり、レーネとしては目の前の存在もまた、本物か偽物かわからなかった。


「……ずいぶんと厳重な歓待だな」


 そうアレイスは述べる。騎士達は当然だ、と言わんばかりに武器を一斉に構えた。

 この場にいるのは霊具を持った騎士だけ。通常装備の兵士が到底立ち入れるような戦いでないことは剣を交える前から明白だったため。もっとも、この場にいる霊具所持者のほとんどは一級以下の物。また天級以上の霊具所持者はいない。


「ま、それもやむなしか……警告はしておこう。こちらの狙いを邪魔すれば、容赦はしない」

「お前の目論見はここで終わりだ、アレイス」


 そうレーネは宣言すると、鋭くにらみつけた。


「どういう狙いでこんな計略を施したかはわからないが……ここで謀略は潰させてもらう」

「私を止められるのはユキト達だけだとわかっていながら、ずいぶんと大口を叩くな。ま、言うだけなら自由だ」


 アレイスは腰の剣を抜く。少なくとも邪竜の影響を受ける彼が霊具を持っているわけがなく、どういう特性なのかは不明。


「手早く――終わらせるか」


 刹那、アレイスが動いた。その速度を追えた者は――おそらく、この場において一握りだっただろう。

 レーネが瞬き一つした瞬間、前衛にいた騎士の一人が吹き飛んだ。角度を変えることなく壁に激突し、そのまま倒れ伏す。


 次いで近くにいた騎士を標的にしたかと思うと、レーネが足を踏み出そうと力を入れた瞬間に横へすっ飛ぶ。その時点で周囲の騎士達が反応し霊具を全力開放した。

 けれど、初動対応に遅れた騎士達は完全に後手に回る。


 レーネは後方にいたためか、状況を俯瞰して見ることができた。騎士達は自分自身の全力でアレイスへ向かおうとしている。この戦況、傍から見れば一斉に斬りかかっているように見える。

 だが、アレイスは騎士達に対し一歩も二歩も先に動くことができる。騎士達はまったく同じタイミングで攻撃しようとしているわけではない。断続的に一人、また一人と迫ろうとしている。


 アレイスにとっては――戦力の逐次投入を行っているように見えるのではないか。


 まずい――そう悟ったレーネは声を上げようとした。しかし全てが遅かった。叫ぼうと足を止めたのもまずかった。アレイスへ騎士が殺到しようとしたが、その一人一人を、彼は高速の剣で薙いで吹き飛ばしていく。

 一撃に耐えられるような騎士がいればまだ戦況に変化はあったかもしれない。けれど、祈るような気持ちにさえ抱くほどにレーネが耐えろと心の中で呟いても、例外は現われなかった。


 アレイスの剣は容赦なく、騎士一人を一撃で吹き飛ばしていく。これが切って捨てているのであればまだ隙を晒したかもしれないが、アレイスは吹き飛ばし気絶させていくだけにしていた。斬撃に魔力を乗せて一閃した瞬間に魔力を騎士に当てているのだろう。剣を防御したにも関わらず呻き声を上げて吹き飛んでいく様を見て、レーネは淡い希望は捨て去るほかなかった。


 気絶させてしまえばトドメはゆっくりとやれる。そういう意図がありありと窺うことができて、このままでは蹂躙されるばかり。

 ただ、もし騎士達が同時に斬りかかっても結末はきっと同じだった――アレイスの間合いに踏み込んだ者は例外なく吹き飛び、床に倒れ伏していく。城門を抜けたエントランスに次々と動かない騎士達が量産されていく。


 アレイスはまだ、一歩も動いてすらいない――これほどまでに、実力差があるというのか。


「――意外な顔をしているな、レーネ」


 そこで、アレイスからの声が聞こえた。


「霊具所持者であれば一矢報いることができると考えていたのか? 残念ながらそれは単なる幻想だ。私の前に敵はいない。ユキト達を迷宮内に押し込めた時点で、勝負は決していた」


 騎士達の動きが止まった。間合いから数歩距離を置き、全員がフリーズする。

 気付けば既に立っている騎士が半分を切っていた。勝負になっていない、と考えるべきか。


「……計略とは、陛下の命か? それともスイハ達か?」


 レーネはなんとなく問い掛けた。雪斗達を迷宮へ追いやったわけだが、いつ何時戻ってくるかわからない。そのため無用な会話をする可能性は低かったのだが――


「さすがにそれを教えるわけにはいかないな」


 アレイスはそう返答した。直後、彼は攻撃を再開する。

 騎士は即座に防御に転じた――というより、倒すより食い止める以外の選択肢がなくなったと言うべきだった。けれどどれだけ受けようとしても結果は同じ。一刀で吹き飛び、倒れ伏していく。


 このままでは――とレーネは焦燥感を抱いたが、どうにもならないのが実状だった。そこで彼女は奥歯を噛みしめた後、前に出る。

 アレイスを倒すことは十中八九無理だろう。なおかつ彼の剣戟を見ても『聖霊剣』の特性を十全に活用できるはずもない。かといって時間稼ぎができるような相手でもない。


 けれど、一矢報いるためには――レーネは走る。それと同時に命を散らす覚悟もした。


(――ユキト)


 彼に頼ることしかできない自分が悲しかった。それと同時に怒りも抱いた。

 それは自分で何もできない無力感からのもの。邪竜との戦いを終えた後も、鍛練は積んできた。けれど、目の前の敵はそのようなことも全て無に帰すほどの存在。


(力が……力があれば……)


 剣を握り締める両腕に力が入る。あと少しすればアレイスと交戦する。おそらく一瞬で吹き飛ばされて終わるだろう。意識を失い、二度と目が覚めないかもしれない。

 だが、それでほんの少しでも時間を稼げれば――その時、頭の中に疑問が湧いた。


(アレイスの狙いは……何だ?)


 一体誰を狙っているのか。王なのか翠芭達か。

 聖剣使いを狙う理由もわからなくはない。しかし、それは多大なリスクでもある。わざわざ自分自身で狙う必要などどこにも――


 その時、アレイスがいよいよ眼前へと迫る。相手は笑みを浮かべ、来いと目で訴えかけてくる。

 ならば、望み通りにしてやろう――レーネは持ちうる限り全力で、相手へ向け剣を、振り抜いた――


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