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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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目的

 閃光が広間を覆う。その中で雪斗はアレイスの姿を魔力で知覚し、逃げても対応できるような体勢を整えていた。けれど相手は真正面からどこまでも戦うつもりの様子。そうであれば、雪斗は全力で迎え撃つのみ。

 魔力を刀身に注ぎ、一気に決着を付けるべく攻め立てる。アレイスの居場所は常に捉えている。もし逃げるようなことがあれば――


(いや……待て……)


 ふいに、雪斗の頭に疑念がよぎる。この戦況、アレイスが不利であるのは確かであり、もし逃げようとしても仲間達がフォローをしてくれるはず。


 先に周囲の面々を潰すつもりか、あるいは魔物達をこの広間に呼び込んで混沌を形成するか。雪斗はそうした策を頭に浮かべたが、それでこの状況をひっくり返せるとは思えない。

 かといって、アレイスは勝てる策がなければここに来ないだろう――となれば、まだ力の底を出していないのか。


 その時、光の中でアレイスの魔力が浮き上がった。光にそぐわぬ邪悪なその力は、雪斗の疑念を棚上げするには十分過ぎるものだった。

 何か、引っ掛かるような違和感を抱きながらも、雪斗は目前にいる最大の脅威へ向け剣を振る。そこで相手の剣に触れ――それを、押し込んだ。


 刹那、剣を弾き刃に確かな手応えを感じた。当たったか――


(このまま攻め立てれば、決着がつくのか?)


 アレイスが何をしようとしたのか。あるいはもう何かした後なのか――その時、またもアレイスが魔力を噴出する。抵抗にも思えたその挙動に対し、雪斗は作為的なものを感じた。

 まるで、雪斗の思考を妨げるような所作。何かを感じ取り、そんな風に動いているのか。


(なぜ、他に思考を移すとアレイスはそれに応じるように動く?)


 こちらに隙が生じたから、と考えるのは容易い。しかしそれが真実なのか。


 アレイスの剣が雪斗に迫る。それを弾き飛ばすと反撃に出る。少し無理をした形で突きを見舞うと、アレイスの体に入るのが感触からわかった。

 ダメージは与えている――はず。自らを斬らせその隙を突くというやり方では決してない。


 だが、上手くいきすぎているようにも思える。単純に今はアレイスが用いた策を上回るだけの出力を出している、と解釈することはできる。


 雪斗はそこで、一気に畳み掛けるべく白い魔力を発した。この『神降ろし』を用いた技の中でも特に威力の高い攻撃。これをアレイスが真正面から受けたなら、いかに邪竜の力を得ているとは無事では済まないはず。なぜならかの邪竜自身に対し、決定打となった技だからだ。

 光の奔流の中で、雪斗の刃がしかとアレイスへ――触れる。直後、爆発的な力が急速にアレイスへと流れ込み、渦となって彼の体を激しく打つ。


 その時、声が聞こえた気がした。それは呻き声なのかそれとも言葉を成したのかわからないが、確実に深手を負わせたと確信できるものだった。

 雪斗は刀身の力を一度抜く。とはいえ『神降ろし』は維持したままで、対峙しているはずのアレイスを見据える。


 彼は雪斗の切り札を受けて、膝をついていた。そうした上で雪斗を見据え、警戒を怠らない。


「……アレイス」


 しかし勝負は決した。満身創痍とも言える状況で、雪斗にはまだ余力がある。


「邪竜そのものを退けた剣だ……さすがに、まともに喰らって無事ではないみたいだな」

「そのようだ……しかし、まだ戦える」


 瞳は死んでいない。ゆっくり立ち上がると、剣を構え直す。


(……何だ?)


 雪斗は再度疑念を抱く。目の前の状況は、確かに優勢に違いない。このまま力を維持し続ければ勝てるだろう。

 けれど胸の内に湧き上がる疑念は、一体何なのか。


 そこでアレイスは刀身に魔力を注ぐ。空間が歪んだと錯覚するほどに禍々しく、周囲の仲間達は警戒を露わにした。

 だが、雪斗だけは違った。


「……お前、何が目的だ?」


 そう問い掛けていた。


『雪斗?』


 ディルの声が頭の中に響く。次いでリュシールもまた名を呼ぶのが聞こえた。

 そして雪斗は、疑問を口にして違和感の正体を悟った。


「お前……俺を殺す気がないな?」


 問い掛けにアレイスは眉をひそめる。だがそれは、明確な演技だと雪斗は直感する。


「こちらが戦闘以外に思考するタイミングで事あるごとに魔力を発し戦闘に集中させた。なおかつ、ここまで多少なりとも反撃はしてくるが、主に防御だ……勝つ気がないだろ?」

「なぜ、そう思う? ここを決戦の場に選んだ以上――」

「いや、違う。ここを選んだのは……他に理由がある」


 アレイスの言葉を止めて雪斗は応じる。仲間達は不穏なものを感じ取り、アレイスを凝視。

 少しして、アレイスは突如剣の構えを解いた。


「……さすがに、あからさますぎたか。とはいえ、こちらとしてもあまり複雑なことはできなかったからな。疑念を与えてしまったのは不可抗力と言うべきか」


 そうした言葉を発した瞬間、アレイスの姿が――消えた。


「なっ……!?」


 シェリスがいの一番に瞠目し、手をかざす。光弾を放ったが、アレイスの立っていた場所を素通りして壁に直撃した。


『ね、ねえ!? これどういうこと!?』


 ディルが慌てて問い掛ける。その中で雪斗は、今はっきりと感じ取っていた。


「……全員、聞いてくれ。後方から……上層部分から明らかに魔力を感じ取れる」

「ここに来させて閉じ込めることが目的だった……!?」


 ナディが周囲を見回す。ただ上層部に魔力が生じただけで、この広間周辺にはない。


「いや、おそらく俺達を倒すことが……目的じゃない」


 言いながら雪斗は魔力を探る。雰囲気的にはこれまで倒してきた魔物のようだ。


「アレイスが強力な魔物を生み出す罠を仕掛けていれば、俺達は気付いたはずだ。けれど、それはなかった……となればたぶん、アレイスはどこかへ迷宮の魔物を隔離して、タイミングを見計らって放出した……その目的はおそらく、時間稼ぎじゃないか」


 雪斗のその言葉に、この場にいた全員が状況を理解する。


「アレイスの目的はこの場所で決着をつけることでも、迷宮の主を倒すことでもなかった。俺達をこの迷宮に拘束することだったんだ」


 全速力で戻れば、数時間で戻れるはず。けれど問題なく対処できていた魔物であっても、急いで対処となれば、話は違ってくる。

 そしてなぜこの迷宮で拘束するのか――理由は明白だった。アレイスの目的は、迷宮ではなく地上。


 数時間あれば、決着がついているかもしれない――そうした嫌な予感を押し殺しながら、雪斗は仲間達へ戻るよう命令を発した。


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