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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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とある策謀

 ――アレイスが現われた魔法店。そこについては騎士や兵士が中を調べており、転移魔法についても厳重に管理され、現在のところ封鎖されている。ひとまず加え魔物の発生などもなく、問題なく調べることができているのだが――


「迷宮のコピー……ってところだが、不完全もいいところだな」


 そう男性騎士の一人が告げる。それに対し一人の兵士が、


「何が目的なんでしょうか?」

「さあな。そもそもあんな物騒なものを真似して何をしようかなんて、意味わからないな」


 肩をすくめながら見回る。不思議そうな口調で話す騎士ではあったのだが、


「だがまあ、実験と考えればわからないでもないか」

「実験、ですか?」

「そうだ。例えば迷宮の構造……まあここでは魔力的なものにしとこうか。そういうのを解析して、真似て……実験をすると」

「迷宮内に魔法を掛けるため、でしょうか?」

「普通に考えればそれが筋だが……アレイスが作ったわけでもないし、こんな施設を作った人間の目的はわからんな」


 呟きながら騎士は周囲を見回す。彼は幾度か迷宮へ入ったこともあり、だからこそ偽物の迷宮について調査を指示された。


「アレイスはずいぶんと迷宮入りに対し気合いを入れているようだったから、たぶんその辺りがここを利用した理由でなんだろうな。ただあの迷宮を破壊なんてことはできそうにないし、そういう目的ではないだろうが」

「……リュシール様達は、大丈夫でしょうか」


 不安げに呟く兵士。それに対し騎士は、


「アホか。そこを心配するなんて野暮だぞ。ユキト殿がいる、シェリス様がいる……これ以上にないって布陣だろうが」

「それはそうですけど」

「あの方々で対処できなかったとしたら、たぶん他の誰でも無理だ……今は信じるしかねえさ」


 ――騎士の胸中には過去にあった邪竜の戦いが蘇っていた。こうして話をする兵士も、あの戦いのことは脳裏に焼き付いているはずだ。

 騎士自身、あれほど自分が無力な存在であると認識させられるものはなかった。多少なりとも騎士としての自負があった。その誇りを粉々に打ち砕いた邪竜という存在。


 きっと都の人間は誰しも無力感を抱いたはずだ。絶対に勝てない相手。なおかつ異界の人間達に自分達の命を預けなければならない。しかもその者達は成人も迎えていない者達――思い出せば思い出すほど、騎士は心の中でため息をついた。


「……俺達にできることは、この迷宮について解明することだ。それでわかったことを城に伝えれば、確実に戦いに貢献できる」

「そうですね」


 兵士の同意を聞いた後、騎士は歩みを進める。そうした中でとある小部屋を発見し、中へ。

 そこには魔法陣が組まれていた。とはいえ起動はしておらず、魔力は感じられない。


「んー、この迷宮の魔力に反応して発動するタイプか」


 もしかすると、最初に雪斗達が踏み込んだ際にも発動していたかもしれない。念のため調べようと彼は屈み込んで、魔法陣について調査を開始した。


「見張りを頼む」

「わかりました」


 兵士は部屋の外で見張りを行う。とはいえ魔物も出現していない状況だ。何かあるとは思えないが。


「ふむ……」


 騎士は床に刻まれた陣を指でなぞり、一つ呟く。こうした魔法陣の解析については様々な道具が本来必要なのだが、彼は別だった。というより、だからこそ調査を任されたといっていい。

 彼の所持する霊具は、魔力の構造などを分析し、効果を検証するもの――本来は敵の能力などを分析する能力なのだが、魔力の存在するものならばあらゆる物を分析できるため、非常に有用なものだった。


 今回雪斗達は迷宮へ入ったわけだが、アレイスの罠などを警戒し同行する可能性もあった。しかし彼の本質は相手の能力などを事前に把握することであり、既に罠などが設置された状況では有用性が薄く、見送りとなった。かつ不自然に残された偽の迷宮についても調べる必要性があったので――今回、ここにいる。


「……ん?」


 騎士は違和感を覚える。解析の結果、予想外の結果が返ってきた。


「これは……いや、待て」


 小さく呟くと、彼は調査結果を頭の中で反芻する。もしこの内容が正しいとするならば――


「……まさか」


 騎士は立ち上がるとすぐさま部屋を出る。血相を変えて出てきたためか、見張りの兵士は驚いた。


「ど、どうしましたか?」

「部屋を調べろ! 魔法陣が刻まれている小部屋が他にもあるかどうか調べろ!」


 その命令に距離のあった兵士達も反応し、動き始める。何事か――わからないまま足を動かし、兵士や他の騎士が捜索を始める。

 程なくしていくつかわかりづらい場所に小部屋があった。調べて見ると、最初に騎士が調べたのと同じような魔法陣が設置されていた。


「解析した結果、何がわかったのですか?」


 別の騎士が問い掛ける。それに彼は、


「魔法陣の効果については、極めてシンプルなものだ……ただこれを迷宮内で使われたとなると……」

「その効果は?」


 問い掛ける兵士。それに騎士は、


「魔力を偽装する効果がある」

「魔力を……偽装?」

「ああ。魔力を偽装。たぶん迷宮内にいる誰かの魔力を誤魔化すって効果だ……この迷宮内の存在する魔力を利用して」


 その言葉に目を瞬かせる兵士。どういうことなのか理解できない様子。


「偽装する術式としてはさっきも言った通りシンプルだ。だが、まさか迷宮内に魔法陣を構築し、こんな真似をしているとは普通考えない……もしこれが本物の迷宮内で行われているとしたら――」

「さすが、と言いたいところだが」


 声がした。しかもそれは騎士にとってひどく聞き慣れた――それでいて、この場で絶対に聞いてはならない声。

 気付いた時、全てが終わっていた。騎士が振り向けば、周囲にいた騎士や兵士は、全て地面に伏していた。


「せめてもの情けだ。真実の一端に辿り着いた報酬として、この場で命を取ることはやめにする」

「……アレイス……!」


 剣を抜こうとした。だが騎士の腕では到底敵わない――元々の技量だって雲泥の差だった。まして邪竜の力を取り込んでいる彼に、勝てる道理などなかった。


「警告はしておくよ……次に剣を交える時は、容赦はしない」


 騎士は剣を振った。しかしそれが届くことはなく――次の瞬間、意識が途絶えた。


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